安倍VS朝日“応仁の乱”で蚊帳の外:国民民主党のポテンシャル

新田 哲史

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きょう(5月18日)発売の『新潮45』『「応仁の乱」と化した安倍 vs. 朝日』と題した論考を寄稿した。先月、アゴラで朝日の加計学園報道への疑問を書いた『「首相案件」の何が“違法”なのか?野党は140字で説明してね』を読んだ編集者から「安倍首相と朝日新聞はなぜここまでバトルを繰り広げるのか」という分析を依頼されたのがきっかけだ。

政策論議から程遠くなるばかりか、財務次官のセクハラ騒動にまで揺れた今の政界スキャンダル情報戦の様は、与党、野党、メディア、そして国民の誰にも「勝者」はいない。この惨状をなにか分かりやすく表現できないか思い巡らした中で、ふと「応仁の乱」と似たようなカオスを想起した次第だ。刊行直前に呉座勇一さんに恐る恐る報告したところ、笑って許してくださって安堵したが、応仁の乱との共通点も含め、「安倍VS朝日」のバトルが2012年以降、どのようなプロセスをたどったのか、私なりの視点で分析してみたので、ぜひご参照いただければ幸いだ(ネット版のデイリー新潮には要約版が載る予定だが、全文は本誌にて掲載する)。

野党はだらしないが、国民民主党は過小評価されすぎでは

国民民主党サイトより

そして、この「平成政界版:応仁の乱」のカオスの最中に産声をあげたのが、希望の党と民進党が合併してできた国民民主党だ。しかし、NHKの最新の世論調査では、「期待する」がわずか8%。支持率に至っては、合併前の2つの党のポイントすら下回る、1.1%という惨状だ。スタート時点からこれほど国民にしらけられている新党はなかったであろう。

ネットの政治記事を見回しても温かいエールを送るのは、早川さんくらい。肝心の政策について「第二自民党」というレッテルを貼られて散々だ。渡辺喜美氏の元秘書で、政策コンサルタントの室伏謙一氏はダイヤモンドオンラインで、徹底的にこきおろしまくっている。

国民民主党は中途半端、蓋を開ければ「第2自民党」のお粗末 | ダイヤモンド・オンライン 

しかし、実は私は結党直後から全く別の見方をしていた。率直な印象として、あまりに過小評価されているのではないかと感じたのだ。別に国民民主党の支持者では全くないが、一筋の光を感じたのは先日、アゴラに掲載した玉木共同代表の安全保障に関するブログを読んだときだった。

日本にとって重要なのは「ノドン」が廃棄されるかどうか

民主党嫌いのネトウヨからの酷評は相変わらずだが、米朝首脳会談を前に日本の死活的利益がどこにあるのか玉木氏の認識は正しい。それが政権批判のポジショントークであったとしても、やたらに安倍外交を過剰に賞賛気味の方々の記事に比べて冷静に現実を見ている。日米の国益が対立した場合のシナリオをしっかり指摘しており、それでいて北朝鮮や中国に融和的な護憲左派とは一線を画している。近年、左傾化していた印象があったのをよい意味で裏切られた。野党に辛口の渡瀬裕哉さんも同じような感想を抱いていた。

小泉進次郎のポリテックもパクったらよい

良くも悪くも、離合集散を繰り返すうちに、安倍たたきありきの護憲左派マインドの旧民進党議員たちが立憲民主党に行ったことで、軛がとれたのであろう。

また、結党時に発表された政策綱領をみても、時流を意識している。AIやブロックチェーンを取り上げているあたりは「流行り物にのっかっただけ」という酷評もあろう。前述の室伏氏は「安倍政権に「右に倣え」をしたいのか」「“技術狂の集まり”なのか」などと、酷評のための酷評とも思える辛辣な物言いを投げかけているが、ここまで野党はテクノロジー分野でおよそ存在感がなかった。実際、立憲民主党の政策ページではAIもブロックチェーンも言及はない。

一方、自民党は、小泉進次郎氏が「ポリテック」を唱え、若手議員たちがポスト平成の社会システム再構築に向けた大胆な政策構想を練り続けている。政策とテクノロジーの融合が国力に直結するこれからの時代にあって、ここまで野党はテクノロジー分野でおよそ存在感がなかったわけだから、内実がどこまで伴っているかはともかく、まず問題意識を掲げたこと自体も十分な変化だと思う。

「第二自民党」大いに結構

そもそも、「対決だけでなく解決も」という現実的な路線でいく以上、政策が第二自民党になってしまう部分がある程度あるのは仕方がない。もちろん、現状の党勢は船出したばかりというのに、もう嵐に遭う前に沈んでいるような停滞ぶりだ。仮にいますぐ衆院解散をすれば、いやこのままの党勢で3年後に任期満了を迎えたとしても、39人いる現職のうち残れるのは、玉木共同代表や原口一博氏、岸本周平氏など、民主党の逆風だった時から選挙区でサバイバルできた人たちくらいだろう。

当然ながら差別化をどこでするのかが鍵になるが、どういう支持層を重点ターゲットにするのか。連合は民進党の分裂にどう対応するか苦悶しているが、企業系など右派労組を立憲から切り離してその利益代弁者となるだけでも一定の支持はとれよう。右派労組は憲法や安全保障などはなかなか現実的だ。

しかし、本当に政権交代をめざす勢力への足がかりとしたいのであれば、衰退する労組の顔ばかりを向いても限界がみえる。だからといって都市部の浮動票ばかりを頼みにしていては安定的な基盤をつくれない。そこで、渡瀬さんと議論してぼんやりと見えてきたのは、支持基盤づくりのイノベーションだ。雇用の流動化が当たり前だった40代以下の世代は、労組をおじさん正社員の既得権擁護団体にしかみていない。

英労働党の18年の「冬の時代」に学べ

既存の労組に代わる、労働者の利益代弁グループをどう作るか、政治の力学だけで決まるものでは当然ないし、今後の社会の変化を待つ必要もある。ただ、いまの自民一強状態にあっては、一朝一夕に政権奪取などできるものではない。イギリスの労働党は、政権を担った60〜70年代の経済政策の失敗で「英国病」を招き、保守党サッチャー政権以後、野党生活は政権奪回まで18年の長きに渡った。

ただ、その野党時代に労働党内では改革を着実に進めた。前半は、左派色の薄いニール・キノック党首が8年9か月の在任中にマーケティングPR戦術も駆使して政策やイメージの刷新に努力。左派勢力を抑える組織改革を展開し、のちにトニー・ブレアがさらなる党内改革を進め、その人気で党員獲得にも弾みをつけて政権奪還を果たした。

議院内閣制―変貌する英国モデル (中公新書)
高安 健将
中央公論新社
2018-01-19

 

おそらく玉木氏、大塚氏も「次代への捨て石」となる可能性が高い。しかし、日本のキノックとして次代のブレアにバトンを渡すための環境整備の覚悟を固めるところからではないか。まずは、民進党が苦手だったネットも活用しながら、右でも左でもない“声なき声”をすくい上げて政策を作り、ポスト平成のコミュニティーづくりの種を撒いてはどうだろうか。と同時に、自民党から提唱されつつある国会改革についても野党を代表して主導し、与野党が真の政策討議ができる仕組みづくりを目指すことが肝要だ。