障害児をもつ母親に制裁を加える児童相談所のメッセージ

尾藤 克之

写真左が高垣さん。法人活動イベントにて撮影。

4月から、改正障害者雇用促進法が施行されている。法定雇用率は2.0%から、2.2%へ引き上げられた。しかし、私が知る限り、企業側の理解が深まっているようには思えない。理解が深まらないのだから間違った認識しか残らない。あなたの周りには障害者はいるだろうか。家族や両親と障害者について話をしたことがあるだろうか。

近年、テレビ番組などに障害者が出演する機会が増えている。啓蒙と理解を深める点で考えれば進歩といえるが、障害者やその家族は偏見に苦しんでいる。偏見を無くすためには、一般的にも広く障害のことを知らしめなければいけないが、実現は可能だろうか。

今回紹介するのは『崖っぷちの人生から奇跡を起こした幸せになる方法』(セルバ出版)。著者は、髙垣千恵さん。障害福祉サービス、介護保険サービスを提供する介護事業所を運営している。障害者支援の実態について自身の経験を交えて解説する。

障害児を抱えての生活とは

高垣さんの長男・翔平さんは、和歌山にある病院の重度障害者の部屋に入院している。現在はたくさんのチューブにつながれ、もう一歩も病院から出ることはできない。

「長男、翔平の存在は長女の友希にも影響を与えました。彼女が小学校の1年生になったときのことです。理由はわかりませんが、学校に行きたくない、不登校気味になった時期がありました。いろいろ聞いてみると、どうも長男のことでいじめに遭っていたようです。そのせいで学校に行きたくなかったようです。」(高垣さん)

「私は学校の先生に相談をしに行きました。その時代には道徳という授業がありました。今ではもう無くなってしまったかもしれませんが、時間を使って長男のことをクラスのみんなに話すことになりました。生命の大切さや障害を持っていても頑張って一生懸命に生きていることを子どもたちに話しました。」(同)

子どもたちは、決して悪気があって長女をいじめていたわけではなかった。高垣さんの説明もすぐに理解した。しかし、その後、高垣さんは離婚を決意するようになる。夫が家庭より、趣味に没頭するようになったことがきっかけだが、高垣さんも「どうせしんどいなら、1人のほうがいい」という思うようになってきていた。

「長女は離婚をしたときは小学校4年生になっていましたので、隠さずにすべてを正直に話しました。すると、しっかりと理解してくれたようです。そうして、離婚後の生活は始まりました。子どもを取り巻く環境はさらに厳しさを増しました。現在ではシングルマザーになっても好奇の目で見られることはありませんが、当時、障害児を抱えて離婚することは許されないことでした。」(高垣さん)

信じられない児童相談所からの言葉

「児童相談所から言われた言葉ははっきりと覚えています。『こんな重度の障害児がいるのに離婚するなんてありえません。児童相談所としては制裁を加えたいと思います。児童相談所は力を貸しませんので、1人で頑張ってください』。担当者の勝手な言葉ではなかったと思います。そんなことが許される時代だったのかもしれません。」(高垣さん)

「子どもが夏休みや冬休み、春休みのときだけは、私が働けなくなりますから、一時的に措置入所が認められましたが、それ以外は助けを求めることが許されませんでした。1人で介護をするのは覚悟のうえでしたが想像を超えていました。」(同)

高垣さんは、「ひどい」と思いながらも、何も言うことができなかった。その時、長岡京市にある社協の責任者と役場の若い担当者が私と子どもたちのために立ち上がった。障害児は母親がみるのが当たり前。救済措置が何もなかった障害児に対して、放課後を一緒に過ごすためのヘルパーを派遣してくれたのである。この決定は画期的だった。

「きっとすごい反対があったと思いますが、支援があったことで、仕事を辞めずにシングルマザーとして生きていくことができたのです。そのうちに、私たちに関わるいろんな人が『このままでは母子が共倒れになる』と、児童相談所に抗議をしてくれました。本当にありがたかったです。このときの経験は今も生きています。」(高垣さん)

「むかしの福祉は授けられるものでした。いまの時代がどれほど恵まれているのか。福祉はやってもらって『あたり前』ではありません。支援者を巻き込まなければ、自分たちの置かれている状況を改善することはできません。」(同)

障害者政策は喫緊の課題である

これを過去の出来事としてとらえてはいけない。どのような変遷でいまに至るのか改めて考えたい。1972年に米国ペンシルバニア州裁判所は「Pennsylvania Association for Retarded Children,PARC判決」を宣言している。これは、差別的な教育に対する是正を求めたものであり、教育のダンピングを招く危険性があることへの警告である。

内閣府の平成29年度障害者白書によれば、身体障害者392万2千人、知的障害者74万1千人、精神障害者392万4千人とされている。多くの人が何らかの障害を有するともいわれているなか、障害者政策は私たちにとって喫緊の課題である。僭越ではあるが、今回、出版という夢を実現した、髙垣千恵さんの前途を祝したい。

尾藤克之
コラムニスト