人との出会いに感謝:公正な評価ができぬ組織に科学立国を担えるか

2018年05月20日 06:00

今、シカゴに戻る機内にいる。食事後、アルコールを飲んだ後、一気に睡魔に襲われ、熟睡してしまった。仕事は山積みなので、少し焦っている。今回の帰国は、内閣府の「AIホスピタル」プロジェクトのヒアリングと、ガバニングボードとの会議、「日本分子標的治療学会」が主目的だった。しかし、それらに加え、目の回るような忙しい日程で多くの方々に出会った。多くの方との橋渡しをしてくれた中学の後輩には、感謝の気持ちでいっぱいだ。初めてお会いした方、久しぶりにお会いした方などを含め、7月に日本に完全に帰国するにあたっての期待の言葉、励ましの言葉を頂いた。清らかな気持ちで機内で過ごすことができている。

特に、ある医師から、「私たち一般の医師は中村先生がシカゴに行かれた時に見捨てられたと思って悲しかった。今回、帰国されると聞いて、本当に喜んでいることを伝えようと思って今日の会議に来ました」と言われた。その言葉に感激して、なんと返答していいか言葉が見つからなかった。私も気持ちは医師であるし、多数の医師の一人にすぎないのだが。

小児がんの研究をしている方からは、「バイオバンクジャパン」から活動支援を受けていたが、予算がなくなり途方に暮れていると聞かされた。私は「バイオバンクジャパン」を立ち上げた責任者として、この事態には責任を覚えたし、今頃になって「これは厚生労働省の仕事だ」と切り捨てた役所の無責任さが腹立たしい。私は日本に戻って、難治がん、小児がんに取り組んでいきたいと思っていたので、正直なところショックだった。個人的な好き嫌いで、恣意的にプロジェクトの方向性を決めている役人がいることは悲しいことだ。

この際、難治がん、小児がんの患者さんや家族には、国に頼るのではなく、是非、自分たちの力で解決すべく行動を起こしてほしいと願っている。もちろん、全面的にバックアップしたい。米国のように、患者会が寄付を募り、まとまった研究に注力すれば、道は開けるはずだ。今や、エキソーム解析とがんの発現解析は20万円前後でできる。これをすれば、間違いなく希望が生まれ、そして、少なくとも一部の患者さんは笑顔を取り戻すことができるはずだ。

残念ながら、内閣府のAIホスピタルには、ゲノム解析からAIを利用したネオアンチゲン予測は含めることができない。これができれば、5年以内に日本を世界一にする自信はあるのだが?医学研究はAMED管轄だから、ゲノム研究は駄目なのだそうだ。こんな小さな発想をしているから、研究が実用化につながらないのだ。病気を治すには、長期計画に基づいた多額の持続的投資が必要だ。いい研究をすれば、自動的に実用化できるのではない。

そして、いつまでたっても公正・厳正な評価ができないAMEDに、この国の将来を託していいのか、はなはだ疑問だ。今回に滞在中にも、私の弟子の一人が、「内容を読んでいないとしか思えないような複数のコメントが付けられて、不採択になりました。気持ちが折れました」と嘆いていた。その研究者の発言内容に間違いがなければ、評価と呼ぶに値しない勝手な作文だ。時間がないからまともな審査ができないのか、審査員の質に問題があるのかわからないが、評価の質が悪すぎる。

公募制度の根幹は、公正で公平な評価である。これができていない組織が科学立国を担っていけるはずがない。


編集部より:この記事は、シカゴ大学医学部内科教授・外科教授、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のシカゴ便り」2018年5月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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中村 祐輔
医学者、内閣府SIPディレクター

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