イタリア極左・極右ポピュリスト連立政権の舞台裏

八幡 和郎

イタリア下院議事堂(agenziami/flickr:編集部)

先週、イタリアに一週間ほど行ってきたが、現地のテレビで見ていてもイタリア政治の混乱は馬鹿馬鹿しくてやってられないというイタリア人も自虐気分が感じられた。いつものことだが、今回はちょっとひどい。

イタリアのマッタレッラ大統領は、フィレンツェ大学の民法教授で弁護士のジュゼッペ・コンテ氏(53歳)」を新首相に指名して組閣を命じた。政治経験はなく、「五つ星運動」の選挙公約づくりに関わっただけ。

極右ポピュリストと極左ポピュリストのそれぞれがやりたい政策を両方やるという期限的な道を歩み始めるらしい。

3月の総選挙で保守連合が第一勢力、極左ポピュリストの「五つ星運動」が第二勢力、左派連合のオリーブの木が第三勢力の三つどもえになったが、五つ星運動と、保守連合のうち北イタリアの地域主義を主張する北部同盟(レガノルド)が手を組んで組閣にこぎ着けそう。

イタリアでは、長年、政権交代が頻繁だったので、二大政党制を実現すべく制度改正と政界再編が行われた。
これを機に、「オリーブの木」というかつて菅直人らが称賛した左派連合が形成された。伝統あるが東西冷戦の終結で存在基盤を失った共産党も旧キリスト教民主党の左派とともに民主党を形成してここに加わった。

一方、保守側ではベルルスコーニ元首相がレガノルドという当時はイタリアからの北部の独立を主張していた北部同盟や、ネオファシストまで含めた連合を組み、政権をとったりした。

しかし、ベルルスコーニの数々のスキャンダルでの人気低下により、政治家を排除したモンティ首相の実務家内閣(2011~13年)、などを経て、2014年にフィレンツェ市長でカリスマ性も高い民主党のレンツィ首相が誕生して高い支持率を獲得して内外から安定が期待された。

ところが、調子に乗って、下院と同党の力をもつ上院が、地方政府の権限縮小を求めて憲法改正の国民投票を求めたが、さまざまの既得権益を守ろうとするグループを糾合させて敗れてしまい辞任に追い込まれた。

余談だが、レンツィ首相は安倍首相と関係が良好だったことでも知られ、国民投票の怖さについてアドバイスしているそうだ。政権はいったん左派連合のジェンティローニ首相に渡されたが、今回の総選挙ではレンツィが復帰して中道左派を率いた。

この間、急速に力を増したのが、極左ポピュリストで日本の偽リベラルも好感をもっている「五つ星運動MoVimento 5 Stelle」で2016年の地方選挙でローマ市長の座を獲得して注目された。イタリアでは、昨年までは、議会は上院に相当する共和国元老院と、下院に相当する代議院の両院制で構成されていて、上下院ともに完全比例代表制だった。

全630議席の下院は、得票率が首位となった政党(政党連合)が340議席(定数の約54%)に達しなかった場合、340議席が無条件に与えられる制度になっていた。そのため、過半数を占める党派がいないという状況は生まれないようになっていた。

しかし、世論調査で五つ星運動が第一位になる可能性があったので、左派連合と保守連合は、3分の1が小選挙区で選出され、残りは比例代表という制度に改められた。そして、結果としては、保守連合265、五つ星227、左派連合122、その他16となった。ただし、単独政党としては、五つ星がダントツ一位で、保守連合の北部同盟125、ベルルスコーニ派104、左派連合の民主党112となった。

保守連合のなかでベルルスコーニ派を北部同盟が上回ったために、五つ星と北部同盟で議席の過半数を超えることになった。

大統領は実務家内閣でつないで来年に再選挙か、すぐに再選挙かと提案したが、政権が欲しい五つ星と北部同盟が手を結んで極左と極右の連立政権で合意したのである。北部同盟のサルビーニ党首は内相で移民問題を、五つ星運動のディマイオ党首は経済相に就任するらしい。

このほど決まった政策協定では、支給年齢の引き上げが決まっていたのを取りやめ、低所得者には月額780ユーロのベーシックインカムの支給、所得税は23~43%だったのを15~20%に減税、難民の厳しい削減が織り込まれ、予算には1000億から1700億ユーロの穴が空く。