精神科医が警鐘!日大アメフト部問題の本質はオープン化

尾藤 克之
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写真は講演中の樺沢医師。

4月26日にエントリーした、「山口達也メンバーの謝罪会見を精神科医に解説してもらった」のアクセスが未だに伸びている。アゴラの月間アクセスでも総合2位となっている。当時、専門的見地から考察した記事は少なく、「専門的見地から投稿した最初の記事」として注目されたものと考えている。

今回も、精神科医、ベストセラー作家として活動をされている、樺沢紫苑医師に「日大アメフト部問題から見えてくる本質」について解説していただく。なお、近著に『いい緊張は能力を2倍にする』(文響社)がある。

秘密を秘密にできない時代

最近、樺沢医師は「日大アメフト部問題についてどう思いますか?」と聞かれることが増えたそうだ。

「マスコミやブログ、SNSの論調は、内田前監督や日大の対応の悪さを批判、攻撃するものです。一方で、この事件は他人事ではないとも思っています。最近、起きている、一連の事件も『本質』は同じだからです。それは、次の5つになります。

(1)日大アメフト部、その対応の悪さで激しいバッシングを受ける。
(2)日大アメフト部、タックルをした宮川泰介選手は胸中を赤裸々に語り評価を上げる。
(3)元TOKIOの山口達也が飲酒の上、高校生にセクハラ行為をしたことが批判される。
(4)財務省のセクハラ事件。
(5)藤井聡太六段が、7段に昇段(5月18日)。

「これらは、全く別の事件。出来事のようですが、私から見ると、同じ現象に見えます。キーワードは『オープン』です。『見える化』『透明性』と言い換えてもいい。今や、インターネット、SNS全盛の時代です。芸能人の不倫問題がたやすく暴露されるのもそうですが、『秘密』を隠しておくということができません。」(樺沢医師)

これは、組織や企業が隠蔽工作を行おうにも、誰かがSNSに一行書けば、それが拡散して、数万人、数十万人が見ることを意味している。スキャンダルネタがあれば、週刊誌の編集部に簡単に送信できる。秘密を、秘密にしておくことが不可能な時代ともいえる。

「日大アメフト部の問題も、監督やコーチが専制君主のようにふるまってきたのは、今にはじまったことではないでしょう。内田前監督に限った問題ではなく、以前からもあったのではないでしょうか。アメフト部に限らず、日大の他の体育会でも、スパルタ的な練習、『しごき』、時代錯誤のパワハラなどが、存在していてもおかしくありません。それは日大に限ったことでもないかもしれません。それがたまたま、今回の『危険タックルの指示』をきっかけに、明らさまになったにすぎません。」(樺沢医師)

「日大アメフト事件によって、元TOKIOの山口達也の飲酒セクハラ事件はすっかり語られなくなりましたが、これも同じ体質です。今までも、ジャニーズのメンバーが様々な事件、不祥事を起こしてきましたが、事務所の力によって握りつぶしてきたわけです。」(同)

樺沢医師によれば、これは、週刊誌的には、「ジャニーズ事務所の弱体化」とも言われるが、それだけではなく、「オープン」の時代が加速しているからだと主張する。ジャニーズ事務所の力を使えば、マスコミ(テレビ、新聞、雜誌)を封じることは可能。しかし、SNSの全ユーザーをコントロールすることは不可能である。

マスコミの報道規制が無意味化する

「オープン」の時代というのは、オープンにしてやましいことがなければ問題ないということ。つまり、全てをさらけ出しても恥ずかしくない、「組織」「企業」「個人」であることが求められている。

「組織や企業の不祥事も隠しようがないのです。隠せば隠すほど、『隠した!』という事実も拡散して、余計火の粉は広がるだけです。『オープン』の時代は、決して悪い面ばかりではありません。宮川選手の記者会見は、事実を率直に語った会見をほとんどの人は好意的に見たようで、彼の勇気を称えるコメントが多数書き込まれました。」(樺沢医師)

「事実関係がそのまま明るみに出たことで、彼の『板挟みの状況』が、多くの人の知るところとなり、共感する人が現れた、ということです。内田前監督や日大は、今が『オープン』の時代であるということに全く気付いていないようで、自らの評判を下げる言動、行動しかしていないことは残念ともいえます。」(同)

これは、率直に話せば、許してはもらえないとしても、理解はしてもらえる。ということを、直感的に感じたから、素早い記者会見につながったと分析できる。

「これからの時代、隠蔽体質は絶対にダメなのです。他にも、隠蔽しようとして火の車になった事件はいくつもありますが、SNSの時代に、隠蔽は不可能です。これだけの事例が出ているのに、SNSを使わない、頭のかたい人たちには、それが全く理解できません。また、多くの企業、組織に、当てはまる話だと考えています。」(樺沢医師)

「パワハラやセクハラ。10年前、20年前は、当たり前で通っていたものが、今や、一瞬のもとに白日にさらされる時代となりました。そこに気付き、全てをさらけ出しても恥ずかしくない『組織』『自己』を作っていくしかありません。」(同)

ネガティブなニュースばかりが流れる中。5月18日、藤井聡太6段が、7段に昇段したニュースが流れた。先日、6段に昇段したばかりですが、ものすごいスピード昇段になる。さて、藤井聡太7段の昇段と、「オープン」がどう関わっているのか?

「将棋の世界では、全ての公式対局の棋譜が公開されており、対局終了直後から、その棋譜を見ることができます。他の棋士の棋譜を研究するのが、棋士にとって当然の勉強とされています。そんな中、藤井7段と対局した棋士は、『想像もしない意外な手を打つ』と言います。定石に縛られない自由な発想をしているということです。」(樺沢医師)

「『オープン』の時代では、全ての人が同じ情報を共有することになります。その共有情報を必死に分析しても、同じ結果しか出ないでしょう。情報の分析だけでは、抜きん出ることが、非常に難しい時代となります。では、どうするのか?それは、他の人と違った発想、考え方。あるいは、直感や独創性というもので、差別化するしかないのです。」(同)

樺沢医師は、「通り一遍」の分析では、全て似たような結果、結論にしかたどりつけないと強く警鐘している。

「オープン」の時代をどのように生きるのか

今後は人工知能もいたるところで導入してくるので影響度を検証しなければいけない。私たちは「オープン」の時代をどのように生きるのが望ましいのか。

「『オープン』の時代は、『個人』、そして『個性』の時代だと思います。人から凄いと思われる『個性』を持っている人は、多くの人から支持され応援される。アンフェアなことや法律を逸脱することをする、悪い『個性』は、徹底的にバッシングされる。今までの日本は、「他の人と同じ、横並び」であることが重要な価値観と考えられていましたが、今後、『横並び』の価値はゼロとなります。」(樺沢医師)

最後に樺沢医師のメッセージを引用し本稿をしめたい。「間違いなく、これからの10年は、『オープン』の時代、『個性』の時代になります。あなたには、その準備ができていますか?」。

尾藤克之
コラムニスト