医師に聞く!物忘れと認知症の違い?手で鳩が作れなければ危険

尾藤 克之

写真右が平松医師。『深層NEWS』(日本テレビ)

厚生労働省によると、日本の認知症患者数は2012年時点で約462万人、65歳以上の高齢者の約7人に1人と推計されている。また、認知症の前段階とされる「軽度認知障害」と推計される約400万人を合わせれば、高齢者の約4人に1人が認知症、もしくは予備群ということになる。2025年には、700万人に達すともいわれている。

今回は、『認知症の取扱説明書』(SB新書)を紹介したい。著者は平松類医師。NHK『あさイチ』、TBSテレビ『ジョブチューン』、フジテレビ『バイキング』、テレビ朝日『林修の今でしょ! 講座』、などメディア出演実績も多い。本書は、累計14万部突破の「医師が教える、老いた親など高齢者との上手な付き合い方」シリーズ最新刊となる。

「物忘れ」と「認知症」の違いとは

平松医師は「思い出せない」のが物忘れ、「覚えることすらできない」のが認知症だと解説する。しかし、その識別は簡単ではない。曜日や月日の感覚が低下するのも、認知症が原因か老化によるものかわかりにくい場合がある。

「さすがに実の子供の名前も忘れたとなると、認知症の疑いがかなり高くなります。これはとてもショックですが、もちろん悪気はありません。人の名前は忘れやすいのです。でも、あなたとの思い出や気持ちはどこかに残っています。認知症一つにしても、原因疾患から『アルツハイマー型認知症』『レビー小体型認知症』『脳血管性認知症』などに分類され、70種類近くあるともいわれており、識別も結構難しいのです。」(平松医師)

「病院で診断してもらえばすぐにわかる!」と思いがちだが、診断が同じということはないらしい。基準がいくつか存在し、どの基準を選ぶかは医師の自由だからである。

「かなり進行すれば、誰が診ても認知症と診断します。初期の認知症では、『認知症』と診断される一方で、他の医者からは『認知症ではない』と言われるということが起きています。簡単にいうと認知症は『脳に問題があることから、記憶や判断に問題があって、日常生活に支障が出る』という状態を指します。大切なのは、『日常常生活に支障が出ているかどうかを把握すること』です。」(平松医師)

ここでポイントになるのが冒頭で説明した、「普通の物忘れ」と「認知症」の違いになる。簡単な見分け方を説明したい。

「普通の物忘れは、は物忘れをしている自覚があります。旅行をした時に何を食べたかを忘れるのが『物忘れ』、旅行したこと自体を忘れるのが『認知症』です。このような記憶や場所がわからなくなったり、見えているはずのものが見えていなかったり、会話が成立し
なくなることが認知症の主な症状です。」(平松医師)

手で鳩が作れなければ認知症の疑い

受診に抵抗のない人は問題ない。しかし、もの忘れ外来や認知症外来にかかろうとすると、強い抵抗を受けることがある。「お父さん受診したほうがいいよ!」と娘、「ハァ?俺を誰だと思ってるんだ。バカにすんじゃねぇ!」と父。どうしたらいいものか。

「本人の頃合いを見るしかありません。『同い年の○○さんも認知症になったでしょ!大丈夫だと思うけど、念のために受けておかない?』と。このように説得してみてはいかがでしょうか。または、『今は問題ないけど、いざという時のために定期的にチェックしてもらう』という名目にして、実際にチェックしてもらえればOKです。」(平松医師)

「さらに、『狐-鳩テスト』といって、手で鳩の形ができるかを見るというのもいい方法です。『狐-鳩テスト』のようなものは、『試験』をするより『遊び』としてやってみることになりますから、嫌がられることは少ないです。手で狐の形や鳩の形をしてもらうと、鳩の形は認知症の初期の段階で、すでにしにくくなることがわかっています。」(同)

10年以上前の話になる。祖父が90歳を過ぎて認知症を発症した際、ホームヘルパーの派遣を要請した。数ヵ月後にあることに気付いた。祖父は郵政省を定年退職していたが、贈呈品としてもらった金時計が無くなっていたのである。ほかにも、希少価値の高い、切手シート、古銭、古貨幣、趣味で収集していた多くのコレクションも消滅していた。さらに、金庫に入れていた現金や有価証券類なども全て消えていた。

驚いたのは、新興宗教団体の入会申込書と、資産をお布施として提供するように書かれた書類(捺印前)を発見したことである。派遣会社に照会すると、「日頃のお礼に受け取ってほしいと言われた」と回答があった。日常会話が不可能なことから虚偽は明白である。その後、当局に通報したが介入には消極的だった。派遣会社はその後、倒産する。

家族が認知症を発症すると多くの問題が発生する。認知症の困った行動に対して、「周囲はどうすればいいのか」「本人は何をすべきか」を突き詰めた一冊。必見である。

尾藤克之
コラムニスト