イタリアの国債が大きく売られたあと急速に買い戻されたが、何が起きたのか

イタリアの10年債利回り(以下、長期金利)は5月7日頃に1.7%台にあったものが、5月29日には3.1%台まで急上昇した。つまりイタリアの国債価格が急落したのである。欧州の信用危機の際にイタリアの長期金利は一時7%台にまで上昇した。しかし、信用不安の後退に伴い、2015年3月に1.1%台に低下。その後やや上昇したものの、イタリアの長期金利は1.0%台から2.3%台あたりでのレンジ内の動きが続いた。今回、わずかな期間の間でそのレンジを一気に突き抜けて3%台に上昇してきたのである。

これを受けて欧米の金融市場ではリスク回避の動きを強めた。イタリア国債を保有している銀行の株なども大きく下落し、外為市場ではユーロが売られ、欧州の信用不安が再来かと懸念された。29日のイタリアの2年債利回りの上昇幅はユーロ導入後で最も大きくなったようで、市場参加者の動揺も伺える。ややパニック的な動きの背景となっているのは、イタリアの政局を巡る状勢変化である。

イタリアでは、ポピュリズム政党の「五つ星運動」と反移民を掲げる「同盟」が連立政権樹立に向けた政策で合意したものの、2党が選んだユーロ懐疑派の経済財務相候補の起用をマッタレッラ大統領が拒否し、ポピュリスト2党の指導者は組閣を断念した。五つ星のディマイオ党首はムーディーズの格下げが組閣を妨害したと批判し、大統領を弾劾する提案を検討していると指摘している。「同盟」のサルビーニ書記長は謀略の存在をほのめかし、再選挙を呼び掛けた。

イタリアでは大統領とポピュリズム2党の対立色が強まったことで、政治的な混迷が一段と深まった。再選挙となれば、ポピュリズム政党が勢力を一段と拡大させる懸念も強まり、市場ではリスク回避の動きを強めたのである。

スペインではラホイ首相の元側近が汚職事件で有罪判決を受けたことを踏まえ、最大野党の社会労働党がラホイ首相に対する不信任決議案を提出した。こちらも総選挙の可能性が出てきたことで、政局の先行き不透明感を強め、こちらもリスク回避の動きの要因となった。欧州の国債はイタリアを中心にスペインやポルトガルなど周辺国の国債が急落(利回りは急上昇)し、ドイツやオランダ、さらに英国の国債はリスク回避の動きによって買い進まれた(利回りは低下)。そして、米国債も大きく買われ、米長期金利は5月17日に3.1%台にあったものが、29日には2.78%に低下した。

イタリア銀行(中央銀行)のビスコ総裁は「信頼というかけがえのない資産を失うリスクから」常に数歩手前にあるとし、「イタリアの運命は欧州の運命だ」と述べていた(ブルームバーグ)。

イタリアの選挙結果次第では、ポピュリズム政党の「五つ星運動」と「同盟」が勢力を拡大し、いまのところ両党は否定しているが、ユーロ離脱に向けて舵を取る懸念がある。ビスコ総裁による「イタリアの運命は欧州の運命だ」という発言はこのあたりを意識したものではなかろうか。

ただし、今回の金融市場の混乱を見て、「五つ星運動」と「同盟」が再度連立政権協議に入る可能性も示唆したようで、大統領の弾劾も求めない考えを明らかにした。五つ星運動は政権樹立の争点となっている経済相の人選でも妥協点を探っているとし、ユーロ懐疑派のサボーナ氏擁立を断念する構えを示し、あらためて新政権樹立を模索する動きが出てきた。これにより大統領とポピュリズム2党の対立はそとまず免れる可能性が出てきた。

これを受けて30日の欧州市場では急激なリスク回避の巻き戻しが起きて、イタリアの10年債利回りは前日の3.13%から2.84%に急低下した。ドイツや英国、米国の国債は買い戻され、欧米の株式市場は反発となった。

これでイタリアのユーロ離脱といった最悪シナリオが免れるかどうかは、まだ予断は許さない。仮に「五つ星運動」と反移民を掲げる「同盟」が連立政権を樹立したとして、今後どのような行動を起こしてくるのか読めない面もある。いずれにしても今後のイタリアの選挙の行方次第によって、金融市場の動向が決まるかなといった状勢となってきている。

イタリアの長期金利の乱高下や、その背景となっているイタリアの政局のリスク、それによるユーロ圏の経済への影響などから、ECBの正常化に向けたロードマップも修正を余儀なくされる可能性も出てきたことにも注意したい。

金融市場の流れが大きく変わってくるのか、それとも市場の視線が米朝首脳会議など違うものに向けられてくるのか。今後の市場動向を見極める必要がありそうである。


編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2018年5月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。