ストーリーテリングの破壊的効果①

2018年06月02日 06:00

以前、米国を中心に、「パワポを捨ててストーリーを語れ」を合い言葉にストーリーテリングが大流行していると書いた。

パワポを捨ててストーリーを語れ !

日本でも少しずつではあるが、ストーリーテリングを取り入れているケースが散見される。
では、ストーリーテリングのメリットは何なのだろう?

論理的な話を聞いていると、聞き手は自らの知識や経験値に照らして、条件反射的に「反論」を組み立ててしまうのに対し、ストーリーではそのような現象が(ほとんど)起こらないということだ。

例えば、
「昨今の技術進歩は本当に素晴らしい。地球の裏側にもジェット機で短時間で飛んでいけるし、エアコンによって真夏も真冬も快適な生活も送れる」
という意見を聞くと、多くの人が心の中で、
「技術進歩を賞賛しているが、技術進歩には副作用もある。地球温暖化を始めとする環境破壊が進んでいるではないか?」
という反論を組み立てるだろう。

しかし、次のようなストーリーを聞いた人はどう思うだろう。
「2年前、小学校に上がる予定だった、私の幼い娘が…余命半年と宣言されました。私は絶望に打ちひしがれ、何度も“これが悪夢であって欲しい”と願った者でした。憔悴しきったある日、担当医の先生が開発されたばかりの新治療を試してみないかと、提案してくれました。わらにもすがる思いで、お願いしました。奇跡が起こりました。娘の命が救われたのです! 今では…屋外で元気よく遊ぶこともできるようになりました」

意地悪な人でない限り(笑)、小さな娘さんが元気で遊んでいる姿を想像して「よかったなー」という温かな気持ちになることだろう。

しかし、翻って考えれば、このストーリーも実は「技術進歩を賞賛」している。
先のような無味乾燥な理屈だと、聞き手は条件反射的に反論を組み立ててしまうが、ストーリーとして語ると条件反射的な反論は出てこない(「ことが多い」と書くのが正確かもしれない)。

この点については、技術進歩のメリット“だけ”を具体的な事実に落とし込んだ「すり替え」にすぎないという批判が出るだろう。

実際、同じようにストーリー化しても、「技術進歩の副作用で温暖化が進み、私の住んでいる島はどんどん海面に没している。今日は昨日より水が家に近づいた」という内容であれば、正反対の効果がもたらされる。

しかし、ストーリーテリングのこの効果は、聞き手の理論的防御を解除させて、伝えたい内容を相手に伝達する手段に過ぎないと割り切れば、何ら問題はない。

「条件反射的な論理的反論」という事前のシールドを解除するための大きなツールが、ストーリーテリングなのだ。

事前のシールドだけを解除しても、第一関門を突破したに過ぎないのだから決してインチキではない。

説得の戦略 交渉心理学入門 (ディスカヴァー携書)
荘司 雅彦
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2017-06-22

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2018年6月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。

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