精神科医が解説!あなたが緊張して実力を発揮できない理由

尾藤 克之
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写真は講演中の樺沢医師。

「試験や受験で緊張して、実力を十分発揮できない」「スポーツの試合で緊張して、実力を十分発揮できない」「人前で話すと緊張する。プレゼンが嫌で、嫌でしょうがない」。そんな、緊張しやすい人、緊張が苦手な人はいないか?「緊張しやすい人」は、「緊張しない人になりたい」と願うが、その必要はない。

今回は、『いい緊張は能力を2倍にする』(文響社)を紹介したい。著者は、樺沢紫苑医師。「日本で最もインターネットに詳しい精神科医」として、雑誌、新聞などの取材やメディア出演も多い。緊張をコントロールし、パフォーマンスをあげる方法を聞く。

82%の人は緊張しやすい

「プレゼンで人前に立つと、頭が真っ白になり、しどろもどろになってしまう」。自分は緊張しやすいので何とかしたいと思っている人は少なくない。

「全国の20歳以上の男女、1579人を対象に行われた緊張に関するアンケートがあります(ハピ研・アサヒグループホールディングス)。『あなたは緊張しやすいタイプですか?』という質問に対して、『とても緊張しやすい』は41%、『どちらかといえば緊張しやすい』は41%。なんと82%もの人が『緊張しやすい』と答えたのです。つまり、世の申の人のほとんどが『緊張しやすい』ということです。」(樺沢医師)

「また、『どんな場面で緊張しますか?』というアンケートでは、『大勢の前で話す時』『初対面の人に会うとき』『新しい職場に入る時』『プレゼン、報告』『受験、試験、面接』『発表会、演奏会』などが挙げられています。」(同)

人目にさらされ評価をともなう場面ほど、プレッシャーがかかるということだろう。人生を左右するような重大な局面ほど、緊張しやすくなるともいえる。

「結果として、『緊張しやすい人』は、そうした重大な局面で緊張して失敗してしまう。本来の力を発揮できずに悔しい思いを、何度もしてきているはずです。『自分の緊張がコントロールできたら、人生はもっと変わるのに』。緊張しやすい人は、必ずと言っていいほどそう思っているはずです。」(樺沢医師)

「もし、『緊張にものすごく弱い人』が『緊張をコントロールできる人』に変わることができるならば、その人の人生は確実に変わります。プレッシャーのかかる場面でも、自分の本来の力を十分に発揮できるのですから。」(同)

緊張をコントロールする

樺沢医師は、「緊張は、あなたの最大の『味方』である」と解説する。「適度に緊張した状態」の方が、高いパフォーマンスを発揮できるようだ。

「オリンピックの決勝戦で、世界新記録がパンパン出ます。なぜでしょう?それは、オリンピックという『緊張』の舞台が追い風となって、選手は最高のパフォーマンスを発揮するからこそ、世界新記録が続出するのです。『緊張したらどうしよう』と、ほとんどの人は緊張を『敵』としてとらえていますが、それは間違いです。」(樺沢医師)

「緊張というのは、『味方』です。『向かい風』ではなく、『追い風』なのです。緊張する時に分泌されるノルアドレナリンという物質は、私たちの脳や身体のパフォーマンスを瞬時に極限まで高めてくれる物質なので、それを上手に使うことさえできれば、『緊張を味方にして最高のパフォーマンスを発揮する』ことは不可能ではありません。」(同)

そして、実現するには、正しい呼吸法を覚えなくてはいけない。しかし、「悪魔の呼吸法」をしている人がいると樺沢医師は警鐘を鳴らす。

「深呼吸の重要性については、過去の著書にも何度も登場していますが、『深呼吸しても全然効果がありません』といった、深呼吸に対する否定的な意見を目にすることがあります。たった1分でも、交感神経から副交感神経に切り替わるのに、どうして深呼吸で過緊張が緩和されない人がいるんだろう?という疑問が生まれました。」(樺沢医師)

「疑問をいだいていたある日、ある試験会場で深呼吸をしている人を見かけました。その人は、深呼吸で過緊張をやわらげようと必死に深呼吸をしていました。スーハー、スーハー。3秒で吸って、3秒で吐く。ものすごく速いペースの呼吸です。私は、これを見た瞬間に思ったのです。『あっ、これダメなパターンの深呼吸だ』と。」(同)

パフォーマンスを高める呼吸法

「呼吸が浅く、呼吸回数も多い、間違った深呼吸では、緊張をやわらげる効果は全くありません。しかし、考えてみると、『正しい深呼吸の方法』を人から習ったことはありません。ヨガや瞑想、あるいは発声法を習ったり、ボイストレーニングを受けたことがある人は、正しい呼吸法、深呼吸や腹式呼吸の方法を知っているでしょう。」(樺沢医師)

「そうした経験のない人は『正しい深呼吸の方法』を知らないのです。つまり、『緊張しすぎたら深呼吸をしなさい』と言われても、我流でやるしかない。正しい深呼吸、腹式呼吸ができるはずもなく、『間違った深呼吸』をしている人も多いのです。」(同)

これまでも、「緊張本」「あがり症本」は、たくさん出ている。既刊本には緊張したときの様々な対処法は書かれているが、根本的な解決法が書かれていない。緊張の正体を理解し、緊張をコントロールし、パフォーマンスをあげる方法。興味深い一冊といえる。

尾藤克之
コラムニスト