声紋認証で個人を識別する人工知能

中村 祐輔

61日は母の19回目の命日である。私は母が19歳の時に生まれたので、母が亡くなった年齢に達したことになる。親が亡くなった年齢に達するのは、人生の節目のような気がする。心筋梗塞や脳卒中でも起こらない限り、そして、交通事故・事件に巻き込まれない限り、急死することはないだろうが、そろそろ、その時に備えての準備をしておく必要があるかもしれない。

内閣府のプロジェクトは5年間となっているが、成果が上がらなければ3年で終わるかもしれない。あと5年間、無事に過ごせる保証などないが、今まで通り、日々、全力で駆け抜けるしかない。シカゴに来て、すでに6年と2ヶ月が過ぎたことを考えると、5年はあっという間に過ぎてしまう。最近はあまりにも忙しく、朝型の私が、気がつけば日付が変わっている毎日を送っている。日にちの感覚が失われてきたが、気づけば、シカゴの生活もあと10日ほどだ。片付けるべきことを片付けようとしているのだが、周りの動きが。

ここで、話は一転するが、シカゴ大学での退職金積立金・年金の整理もあり、TIAAという会社のウエブページにアクセスした。本人確認のためにと、いくつかの質問があったが、驚いた。ありきたりの質問の後に、「あなたは1985-86年にどの州に住んでいましたか?」「2013年にはどの町に住んでいましたか?」、この程度は年金を納めて情報が把握されているので、当然の質問だと思った。以前もコメントしたが、1984年―1989年のユタ大学在籍当時の年金記録は、きっちりと残されていた。しかし、私の日本の年金記録は、まだ、つながっていない。電話をしても、たらい回しにされ、行方不明のままである。何回が試みてあきらめたが、誰も責任を持たないシステムは変わらないだろう。

ここで話を戻すと、第3問は「あなたの持っている(もう売却したのだが)トヨタRAV4は何年に作られたものか?」だった。最近売却したこともあり覚えていたが、買った中古車が何年製など普通は覚えていないだろう。しかし、ローンも組んでいないのにもかかわらず、買った車の情報まで社会保障番号?と連結されているとはたいしたものだ。そして、さらに驚いたのは、ウエブだけではどうしていいのかよくわからず、電話連絡した時だ。いろいろな本人確認のための質問が続いて、それをクリアした後、「あなたの声紋を記録して、本人確認に利用できる。今後はいろいろな質問に答えなくていい。これに登録するか?」と質問された。歯が抜けても、ちゃんと聞き分けてくれるとのことだった。虫歯の多い私でも使えそうだ。

これも一種の人工知能だ。米国の人工知能は進んでいるのか?私が知らないだけだったのか?クレジットカードなどでは、音声を聞き取って、必要な部署に誘導してつなげることがすでに行われているが、声紋による個人識別は初めての経験だ。これが家庭レベルでできて、血縁者の声紋を記録しておきさえすれば、「オレオレ詐欺」など簡単に排除できるはずだ。極端で実現するのは無理だと思うが、全国民の声紋を記録しておけば、犯罪抑制にもつながるかもしれない。しかし、いろいろな企業のオペレーターとの会話を記録を誰かが蓄積する気になれば、大きなデータベースなど簡単に出来てしまう。私の会話記録などANAにはたくさん残されているだろう。

いずれにせよ、音声を認識するシステムは、かなり進んでいるのが実情だ。内閣府のプロジェクトでは、診療現場でいろいろな言語・方言などを聞き取れるシステムを早く確立したいものだ。

P.S:先ほどまで、ネオアンチゲンが重要ながん特異的抗原になると世界で初めて(1995年に)報告したHans Schreiber教授の自宅に招かれてパーティーに参加した。私が自宅に帰る時に車で送ってくれた。最後に一言、「I miss you, Yusuke. I do not want to be famous, but I want to do something for cancer patients.」とポツリとつぶやいた。「So do I.」と言おうとしたが、母の代わりにつぶやいたような気がして、胸に迫るものがあり、言葉がでなかった。

(あと11日でこの景色ともお別れだ!)

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編集部より:この記事は、シカゴ大学医学部内科教授・外科教授、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のシカゴ便り」2018年6月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。