ブロックチェーンを用いた「半直接民主制」アプローチ --- 蒔田 純

寄稿

地方議会議員のなり手不足

我が国が直面している人口減少という課題は、民主主義の基本的な在り方にまで影響を及ぼすものと考えられる。現在、先進民主主義国において政治の基本となっているのは、国民(住民)が選挙によって代表者を選任し、その代表者が政治的決定を行うという代議制民主主義であり、我が国においても、国・地方のいずれでも、この仕組みが採用されている。しかし、加速度的な人口減少の進展は、特に地方において、代議制民主主義の存続を危ぶまざるを得ないような状況を引き起こしている。

昨年5月、高知県の大川村が、村議会を廃止して、有権者が直接、予算等の議案を審議する「町村総会」を設置するための検討を始めたことが全国的な話題となった。全人口に占める65歳以上人口の割合が4割を超え、定数6の議会の中で3人が70代後半という村の現状を考えると、村議会議員のなり手の確保が極めて難しいというのがその理由である。

議員定数が10未満の自治体議長の4割超が「(町村総会の設置を)将来検討する可能性がある」と答えていることに見られるように(「毎日新聞」2017年6月12日)、これは大川村だけの問題では決してなく、今後全国の小規模自治体において判断を迫られる可能性のあるものと考えられる。大川村はその後、一旦は村総会の設置に関する議論を休止することを明らかにしたが(「日本経済新聞」2017年9月12日)、その主たる理由の一つが、「町村総会の具体的な運営方法については何も定めがなく、一から研究を行うのは負担が大きいと判断したため」であることに鑑みても、自治体における直接民主制的な政治運営の在り方について検討を行うことは、今後の我が国における地方自治・民主政治の基本的な姿を考える上で大きな意義を持つと言える。

ブロックチェーンを用いた「半直接民主制」の試み

地方における直接民主制的な政治運営の在り方というテーマを考える際、技術的な基盤になり得るのがブロックチェーンである。ブロックチェーンは仮想通貨に留まらず、今や様々な分野における価値取引のインフラとして活用が進んでいるが、参加者全員の相互監視により、中央の監督者を要せずに、システム全体に改ざん不能の信頼性を担保するその特徴は、「議員」という仲介者を排除する直接民主制にも適用可能であると考えられる。

例えば「リキッド・デモクラシー(Liquid Democracy)」という概念が近年、海外で生まれている。これは政策・立法への有権者の直接的な関与を目指したものであり、次のことを基本としている。

(1)有権者は具体的な政策への賛否を直接投票で表明する。

(2)有権者は自らが信頼できる代理人(proxy)を選定し、関心がなく詳細が分からない政策案件への投票を委任できる。

(3)代理人は更に自らの代理人を選定できる。

(4)有権者はいつでも代理人を変更できる。

この仕組みによって、あらゆる政策案件はその問題に詳しい人たちによる直接投票で決定され、しかもその決定は全国民(住民)の信頼に基づく直接民主制的な正統性を得ることとなるのである。いわば直接民主制と間接民主制を足して二で割ったような方法であり、「半直接民主制」と呼ぶことができる。

現実政治における動き

「リキッド・デモクラシー」による「半直接民主制」を実現しようとすると、従来のシステムでは、「票の譲渡が正しく合意に基づくものなのか不正なものなのか分からない」「有権者が投じた票が本当に正しく結果に反映されているのか分からない」「集計に莫大な人手とコストがかかる」等の難点があった。しかし、投票記録や譲渡記録をブロックチェーンに記録することで、これらを解決することが期待される。

Flux公式サイトより:編集部

オーストラリアでは「リキッド・デモクラシー」を目指す「Flux」という政党が創設され、実際に国政選挙に候補者を立てているが、彼らはこの理念を具現化させるため、ブロックチェーンに基づく支援者用のアプリを開発した。ここでは支援者は、ある時は投票を委任される代理人に、ある時は投票を委任する委任者となって、票を互いにやり取りしながら個別の立法案件への態度を決め、その集積結果がFlux所属議員の議会における投票行動を拘束する、という仕組みである。

これの下では有権者と個々の政策案件とを仲介する議員の存在意義が極限まで縮小することは明らかであり、それを可能としているのが、参加者間の相互信頼を基盤に全体としての信用性・透明性を担保するブロックチェーン技術なのである。

Fluxは実際には未だ選挙で当選者を出せておらず、初めて候補者を立てた2016年の上院議員選挙でも0.15%の得票を得たに過ぎないが、米国でも「リキッド・デモクラシー」を主張する候補者が州議会議員選挙に立候補するなど、政治の世界におけるその具体的な動きは徐々に広まりつつある。

我が国における「半直接民主制」

筆者は、大川村のような、我が国の地方議会における議員のなり手不足問題に関して、ブロックチェーンを用いた直接民主制的アプローチによる解決策を提示すべく、研究を進めている。「リキッド・デモクラシー」等、「半直接民主制」の概念整理を進めつつ、ブロックチェーン技術を持つ民間企業と連携してその実装を目指し、やがてはそれを用いて自治体の現場で実証実験を行いたいと考えている。

代議制民主主義という現代政治の基底的な仕組みが、人口減少という今日的課題の下で根本的な問い直しを迫られる中、テクノロジーを用いてその解決を目指す取り組みの具体化が必要となっている。

蒔田 純(まきた・じゅん)弘前大学教育学部 専任講師

1977年生。政策研究大学院大学博士課程修了。博士(政策研究)。衆議院議員政策担当秘書、総務大臣秘書官、新経済連盟スタッフ等を経て現職。北海道厚沢部町地方創生アドバイザー。