経営者は要注意!保険会社のセールストークには穴がある

尾藤 克之

写真は税理士の松波さん(HPより)

「いまは売上が堅調だ」「よし!大きな受注がはいったぞ!」。売上は重要な経営指標であることは間違いない。経営者の半数は売上が好調なほど手元資金は「増える」と錯覚していることをご存じだろうか。ここに経営の落とし穴がある。

今回、紹介するのは『その節税が会社を殺す お金に強い社長がコッソリやってる節税&資金繰りの裏』(すばる舎)。著者は税理士の、松波竜太さん。会計事務所業界のキャリアが長く、多くの資金繰りと銀行交渉についてサポートをおこなってきた実績がある。本書では、会社を強くする節税・銀行の言いなりにならない交渉術がまとめられている。

保険会社のセールストークに注意

松波さんは、「保険会社のセールストークには穴がある」と解説する。とくに、「実質返戻率のカラクリ」に注意すべきとしている。果たしてどのようなカラクリか。

「保険会社から発行される解約返戻金の予定表などには、支払った保険料が単純にいくら戻ってくるのかという『単純返戻率』と、下がった法人税を考慮する『実質返戻率』が表示されていることが多いと思います。『単純返戻率では80 %だけれども、税効果を考えた実質返戻率では100%を超える』という保険会社のトークがあります。」(松波さん)

「このトークにはマジックがあります。戻ってきたときにかかる法人税が加味されていないのです。『解約した際にたまたま損失が出ていて法人税がかからない』ことが前提となっているのです。確かにちょうど満期や解約の時期に赤字であれば、法人税は免除されます。しかし一般的に、赤字は出そうと思って出すものではありません。」(同)

つまり、そううまくいく可能性は低いということになる。一般的には単純返戻率で検討しないと、保険会社に保険料を取られた上に解約返戻金に税金がかかるという、ダブルパンチをくらう危険性があるということ。かなりの注意が必要になる。

「ほかのケースを紹介します。最近は全額損金タイプの保険は少なくなり、半額タイプが主流となっています。1200万円の利益に対する法人税は338万円です。ここから100万円減らして238万円にするには、いくらの半額タイプに入ればいいのでしょうか?なんと540万円も支払わないと、法人税は100万円減らないのです。」(松波さん)

「法人税の100万円を納めないために、540万円のキャッシュアウトが生じてしまいます。さらに、保険契約の場合、かけた保険金が全額戻ってくるようになるまで、何年もかかります。赤字でも解約するともったいないと保険料を支払い続けているケースもあります。それでは本末転倒です。」(同)

さらに、松波さんは、「役員や従業員の退職金の準備に」と、保険を勧められる経営者が多いと解説する。保険を使って節税しながら退職金の準備をしないと、法人税を支払いながら貯めようとも難しい。一見正しく見えるが、これは単なる都市伝説である。

「退職金の準備として会社が毎年540万円を引き当てなければならないとします。ところが、これを準備するために保険に入っても、実は法人税は100万円しか安くなりません。逆に保険に入らなければ、法人税は100万円払っても440万円が手元に残ることになります。どちらが手元に資金が残るかは明白です!」(松波さん)

「その他大勢」から抜け出す

この本は、一般の営業マンなどにもおススメしたい。営業マンは受注が決まることで社内に売上げが立つ。しかし、そこから商品を納品するまでには時間が掛かる。一般的に、支払いサイト、入金サイトを考えて活動している営業マンは少ない。

自分の営業活動がどのようにお金にかわり、会社に寄与していくのか。お金の流れを把握することで経営のことが理解できるようになる。それは、「その他大勢」(言いかえるなら単なる普通)から抜け出すためのヒントになるかも知れない。

尾藤克之
コラムニスト