再び起こったCT画像の見落とし!予防のためのプロセス別対策法4箇条

松村 むつみ

千葉大学付属病院で、CT画像の見落としが起こっており、2013年以降に見落とされた9人のうち、4人の治療に遅れが出て、2人が死亡していたことが明らかになりました。

CT画像 がんの疑い見落とし患者2人死亡 千葉大附属病院(NHKニュース)

死亡した2人は、現在明らかになっている情報によると、60代の女性と70代の男性で、60代女性は腎臓の癌で、70代の男性は肺の癌で死亡したとのことですが、CTが撮影された当初はまだ治療可能な状態にあったとのことですが、画像診断報告書の確認を主治医が十分に行わなかったために見逃しが起こったとのことでした。

CTなど、画像診断結果の見落としは、これまでにもいくつかの医療機関で起こっており、筆者も、以前横浜市立大学附属市民総合医療センターにて起こった見落としについて記事を執筆しています。

なぜCTを撮っても医師はがんを見逃すのか?予防策は?

今回、画像診断医のはしくれとして、このような医療事故が起こらないことを強く願う気持ちから、ちょっと補足させていただきたいと思います。

以前の記事でわたしは、見逃しが起こりやすいのはどのような場合なのか、どうして起こるのかを解説しました。また、昨年11月の横浜市立大学附属市民総合医療センターでの見落としが発覚した際には、厚生労働省は、全国の医療機関に対して注意喚起を行っています。このような見落としは決して珍しくはなく、ヒューマンエラーは誰しもが起こしうることであるので、全国の医療機関も、頭を悩ませていると思います。部門間の連携や、画像診断部門で命に関わる病気が見つかったときの主治医への連絡などを徹底させるよう試みている医療機関も多いかと思います。

「病気の見落とし」にも種類がある。種類別の対策が必要

「CTで見つかった癌の見落としがあった」ときくと、原因が同一であると思いがちですが、実は、様々なプロセスの障害が考えられます。

1.「画像診断報告書」を書いた画像診断医が見落とした

あってはならないことですが、画像診断医も人間である以上、あり得ることです。画像診断医にも、疲れているときや体調の悪いときがあります(それを言い訳にしてはいけませんが)。検診施設などでは、画像を2人の医師で別々にチェックする「ダブルチェック」という体制をしいて見落としを防いでいることが多いです。大学病院を含む、検診施設以外の一般の医療機関の場合、画像診断医の数やコストの面からも、「ダブルチェック」は現実的ではありません。そのかわり、実質的には、多くの場合に内科や外科の主治医との「ダブルチェック」になっていたり、命の関わる疾患が偶発的に発見された場合には撮影した放射線技師が報告してくれたりします。

「画像診断医」による見落としを回避するには、画像診断医の読影する数の負担が多くなりすぎないことや(一症例の読影に充てる時間が短くなればなるほど、見落としは起こりやすくなる)、主治医や技師との連携を強くする必要があります。

2.撮影された画像を、画像診断医が読影していない

欧米では、CTやMRIなどの画像を撮影するのには、画像診断医の許可が必要であり、画像診断医が必要と認めたときのみ画像検査がオーダーされ、すみやかに全例が読影されます。画像検査が厳密な管理の下で運用されています。しかし、わが国では少し事情が異なります。

病院の中では、内科や外科などの一般診療科の主治医は、必要と思えば、画像診断医の許可がなくとも画像をオーダーでき、画像診断医に読影を依頼します。画像診断医は依頼された画像を読影し、診断するのですが、どういった理由でかはわかりませんが、「読影依頼」が行われないことがあります。この画像は、主治医しか見ないことになり、大変見落としのリスクが高いといえます。撮影された画像は、ほぼ全例、読影依頼にかけるように、全国の、病院で日々CTを依頼している主治医の先生方にはお願いしたいと思います。

また、「読影依頼」がかけられても、検査が多い施設の場合、全例が必ずしも読影されないことはあり得ます。画像診断医の数が足りず、読み残しができてしまうのです。必要のない検査をできるだけ減らすこと、画像診断医の数を増やすことが必要です。

3.「画像診断報告書」を、主治医が読んでいない(またはうっかり読み飛ばしてしまう)

これは、今まで病院での見逃しが指摘されてきた中で、もっとも多い原因がこれだと思われます。今回の事例も、これが当てはまります。わたしは、以前のコラムでも、主治医は今の時代は各々の専門に特化しているので、専門分野は注意深くチェックをしても、専門外のことは見落とし得ると指摘しました。

「画像診断報告書」は、電子カルテから通常見ることができますが、うっかり見忘れてしまうことは、人間なのでありうるかもしれません。そんな場合の対策としては、カルテにアラート機能をつけることが必須と思われます。必要性がいわれていても、多くの病院でなされていません。病院の管理者の方々、ぜひ、カルテにアラート機能をつけましょう!

また、主治医の先生にもお願いがあります。「画像診断報告書」の、すべてを詳細に読み込む必要はないと思いますが、最後の「画像診断」ないし「まとめ」のところは真っ先にチェックしてください。命に関わる偶発病変があれば、必ずそこに記載してあるはずです。

4.「画像診断報告書」は、ひょっとして難解かもしれない

わたしは毎日、それなりの量の「画像診断報告書」を作成している画像診断医ですが、「画像診断報告書」に記載されている内容は、ひょっとして難解かもしれないと思うことがあります。決められた用語で書いてはいるのですが、読む方が経験の少ない若手医師だったりすると、すべてを理解できないことがあるかもしれません。

わたしも、最初に画像診断分野に足を踏み入れたとき、もっとも戸惑ったのが、画像を診ること自体よりも、用語に慣れることでした。長く詳細で、まるで職人技のような報告書もたくさんあります。わたしも、詳細に書いてしまいがちなのですが、最近では、もっと簡略化したほうが読みやすいのではないか? シンプルな、誰が書いても同じになるような、定型的な箇条書きのほうがいいのではないかと思うこともあります。

画像診断報告書の「見やすさ」も、今後も課題かもしれません。