ギリシャの経済は後退を続け、年金はこれまで13回減額された

白石 和幸

CromagnondePeyrignac /flickr:編集部

ギリシャで急進左派政党シリザ(Syriza)が2015年1月の選挙で勝利し、EUに対しギリシャが抱えている債務の再編を要請し、それが受け入れられない場合はユーロ通貨からの離脱も検討する用意があると仄めかし手から3年余りが経過している。その時、EU加盟国の全GDPの僅か2%しか占めていない国がユーロ通貨の解体を招くのではないかという恐れも生じさせた。

そのギリシャが、今も危機から脱皮できないでいる。これまでEUから3度の金融支援を受けて来たが、ギリシャ経済に立ち直りは観察できない。市民は益々厳しい生活を余儀なくさせられている。2010年からストは50回経験しているという。

2010年から2015年までにGDPは25%の後退、4人にひとりが失業者、負債はGDPの180%。ギリシャが経済回復するには外貨を稼ぐ必要があるが、輸出も外国からの投資も乏しい。ギリシャの輸出はGDPの10%しか占めていないというのはEU加盟国の中で最低の規模で、これでは経済を建て直すことは不可能である。しかも、ユーロ通貨は例えば2014年は1ドルが1.25ユーロであったのが。現在1.05ユーロ前後にありユーロが強く、輸出は難くなっている。給与も下降しており国内消費は伸びない。

多くの企業も外国に逃避した。しかも、脱税は横行している。税金は国民の富を盗む行為だ、というのが一般にギリシャ人の概念だという。

このような事情を抱えているギリシャが回復する見込みは立っていない。

だからギリシャが破綻せず存続して行くにはEUからの金融支援を仰がざるを得ないのである。これまで3回の金融支援で3340億ユーロ(43兆4000億円)という支援金がEUから付与されて来たのである。

今も、シリザのチプラス政権は7月の75億ユーロ(9750億円)の返済を控え、新たに85憶ユーロ(1兆1050億円)の融資を受ける予定にしている。借金返済の為に新たに借金をするという自転車操業の繰り替えしである。

その融資の担保にされているひとつが、年金の削減である。チプラス首相が選挙戦で国民に「年金の削減は絶対にしない」と公約していたが、2018年の削減額はGDPの1%に相当する額が予定されているという。そして2019年には少なくとも90万人の年金受給者が受ける総額の18%に相当する額が削減されることになるという。

これまで年金は13回削減されている。この削減は年金受給者にとってより厳しい生活を余儀なくさせられることになるが、国家レベルでより深刻なのは年金が一家の唯一の収入だという世帯が全体の52%を占めているというのである。

700ユーロ(9万1000円)の年金を貰っているイアニスさん(70歳)は家の家賃とその他諸経費を支払ったあとはひと月の生活費には届かないという。それで毎週水曜日にアテネの中心部で非営利組織ステップスが用意する食事を食べに行くそうだ。彼が吸うたばこは安価なパキスタン製の密輸入されたたばこだという。普通のたばこを買えるだけのお金に余裕はないのだ。

ディミトゥリスさん(85歳)は石油会社に役員として勤務していたことから恵まれた年金1850ユーロ(24万円)を貰っていたという。しかし、年金削減の影響で今では1100ユーロ(14万3000円)まで減額されているそうだ。彼の夫人は亡くなったが、彼は長生きせねばならないという。10歳と12歳の孫と嫁の生活費を負担するためである。息子は北欧に出稼ぎに行ったが、定職に就くことができないので、家族に仕送りが出来ない状態だ。そこで、孫にとっておじいちゃんが父親に代わって孫の家庭の生活費を負担しているという。

ディミトゥリスさんのように1000ユーロ(13万円)以上の年金を貰っている人は年金受給者の8%しかいないそうだ。年金受給者の120万人は500ユーロ(6万5000円)以上にはならないという。

ギリシャ政府が問題として抱えているのは現在年金受給者の数が270万人であるが、その年金を支給するのが容易ではない。2050年には65歳以上が人口の33%を占めることになるという。

ギリシャに対してEUの計画が予定通り運んで行けば今年8月に金融支援も必要なくなると見込んでいるという。しかし、このような予測が立てられるような好材料は何ひとつない。

(参考記事:Los jubilados griegos ya suman 13 recortes de pensiones y se preparan para más