米朝首脳会談など:北の核放棄に私が懐疑的な理由

2018年06月16日 06:00

ホワイトハウスFacebook:編集部

石破 茂です。

米朝首脳会談は壮大な政治ショーではあったものの、現段階で評価するのは極めて難しい。対立から対話へと大きく舵が切られたこと自体は評価すべきですし、それが今回の最大の成果だったのですが、長い対話の道のりの始まりとも言うべきものでしょう。

金正恩委員長は、南北首脳会談と中国訪問に続く華々しい外交デビュー第三幕を果たして世界中にその存在を見せつけ、体制の保証(保障・Guaranteeではなく)を取り付け、中国の要人専用機に乗ってシンガポール入りして中国が後ろ盾であることも誇示し、北朝鮮の非核化については「検証可能」という言葉が落ちたことが示すように何らの言質も与えないという、失うものの無い成果を手中にし、「偉大な委員長様に米国や世界が譲歩した」という国内基盤の強化も果たしたように思われます。

対するトランプ大統領も、「今までのどの大統領もなしえなかったことを自分だからこそ実現することが出来た」とことさらに強調することで米国内向けに存在感を示すという成果を手にしたというべきでしょう。まさしくトランプファーストそのものです。

我々が考えなくてはならないのは、今後日本ならびに北東アジアの安全保障はどのように変化し、その中にあって日本は何をなすべきかを徹底的に考え、施策を進めることです。

米国一辺倒、米国頼みの外交から脱却すべきだとの見解も多く見られますが、外交と防衛は一体なのであって、米国を「唯一の同盟国」として防衛の多くを依存している以上、「米国頼み」にならざるを得ないのはむしろ当然というべきであり、選択の幅はもともと極めて狭いのです。

だからこそ国連の中核概念である集団的自衛権の行使を憲法上は容認し、その行使の態様は法律によって制約されるとすることで政策的判断の幅を広げ、防衛力を強化し、拉致問題を含む国連における発言力を高めるべき(北方領土問題も問題解決の鍵はここにあるはずです)とここ20年近く訴えているのですが、どの立場からも全くと言っていいほどにこの声が上がらないことはどういうことなのか。

反対派は「集団的自衛権は米国と共に世界中で戦争する道を開くもの」という固定的な観念から一歩も抜け出せず(この立場に立つ政党が本当にそう信じるなら、政権に就いたら国連の場で国連憲章にある集団的自衛権条項の撤廃を訴えると公約すべきです)、保守派はこの問題については沈黙を決め込み、議論が全く進まない日本をよそに、世界の情勢は急変しようとしています。

今回の米朝共同声明は「朝鮮半島の平和体制が実現すれば非核化が実現する」との論理であり、「非核化が実現すれば朝鮮半島の平和が実現する」という従来の米国の論理とは真逆になっています。

戦争の終結宣言から平和条約に至るまで北朝鮮は時間を稼ぐことが出来、その間に核・ミサイルの能力向上を図ることも可能となるのではないでしょうか。実験施設を破壊するなどのデモンストレーションは行うのでしょうが、既に実験が完了した実験施設を破壊しても実質的な意味はないでしょう。

北朝鮮が主張する「朝鮮半島の非核化」とアメリカの主張する「北朝鮮の非核化」は全く異なり、この溝を埋めるのは容易ではありませんが、何よりも気がかりなのはトランプ大統領が会見で「米韓演習は挑発的であり、中止することで多額の経費を節約できる」と述べるとともに、将来的な朝鮮半島からの撤退の可能性にも言及したことです。

それは在韓米軍のみならず、朝鮮国連軍の存在をも失わせるものであり、平和協定締結により日本と朝鮮国連軍との地位協定もその根拠が無くなります(米国のみならず、英、仏、豪など11か国が参加する朝鮮国連軍との地位協定により、諸国は日本の港や港湾を使っての活動が可能となっています)。

そうなった場合、日本は新たな安全保障環境に今よりも格段に困難な状況の中で直面することになりますが、これをどう回避するのか、不幸にしてそうなった場合にどう対応するのか、今から考えておかなければなりません。

北朝鮮の核放棄に私が懐疑的なのは、今回日本の報道ではほとんど触れられていませんが、1994年に米・露・英がウクライナの核の放棄と引き換えにその独立や主権を保証することを約束した「ブダペスト覚書」(後に中国とフランスも保証)を、ロシアがあっさりと踏みにじってクリミアを併合したという歴史的事実が、金委員長の念頭にあるに違いないと思うからです。

クリミア併合の際、ロシアは独特の論理を展開してその正当性を主張しましたが、それは1968年、チェコスロバキアの首都プラハに旧ソ連の戦車部隊が侵攻して、民主主義の萌芽を武力で摘み取った時に展開した集団的自衛権援用の論理に酷似したもので、唖然とさせられたものです。

プーチン大統領は大統領選挙の投票日をわざわざクリミア併合記念日に設定し、圧勝しました。同大統領やロシア人の領土に対する執念や力による外交の信奉は、経済的な利益を大きく超えた、日本人の想像を絶するものであるように思われます。

外交でも内政でも、言葉の持つ重みや信頼性が急速に失われつつあるように思われます。ゲーム感覚が当たり前のように横行し、誰を、何を信じればよいのかわからなくなっている、今まで経験したことのない時代の到来を感じています。

週末は、16日土曜日が旧三井銀行本町支店長 星野欣也氏の米寿を祝う会(午後1時・都内)、東京都中野区三田会総会・懇親会(午後5時・同)。

17日日曜日は大阪府下各地での講演や懇談会、「ビートたけしのTV 日本の防衛はどうなるスペシャル」出演(午後9時・テレビ朝日系列・収録)という日程です。

私の入行店である三井銀行本町支店長を昭和55年から2年間務められた星野欣也氏は人格・識見ともに実に素晴らしい方で、後に専務取締役まで栄進されました。星野支店長ご在任中に本町支店に在籍した者が集まって支店長を囲む会をここのところ毎年開催しているのですが、40年近い時空を超えて、新入行員として無我夢中で働いたあの時代の雰囲気が蘇る、年に一度の本当に楽しいひとときです。

梅雨らしい日々が続いた今週の東京都心でした。皆様お元気でお過ごしくださいませ。


編集部より:この記事は、衆議院議員の石破茂氏(鳥取1区、自由民主党)のオフィシャルブログ 2018年6月15日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた石破氏に感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は『石破茂オフィシャルブログ』をご覧ください。

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石破 茂
衆議院議員(鳥取1区、自由民主党)、

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