性的少数派(LGBTIQ)の多様化

社会は多様化してきたとよく言われるが、同時に、「性の多様化」も急速に拡大してきた。LGBTという性的少数派についてはメディアでも時たま報道されてきたが、現在はもはやLGBTではなくLGBTIQという。レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、それにインターセクシャルとクィア(Queer)が新たに加わる。そこで性的マイノリティについて、スイス・インフォの特集「LGBTIQ」を参考にしながら、少し整理したい。

▲ミケランジェロの作品「アダムの創造」ウィキぺディアから

▲ミケランジェロの作品「アダムの創造」ウィキぺディアから

レズビアン、ゲイ、バイセクシャルは性的・恋愛感情的指向を表しているが、トランスジェンダーは性的アイデンティティー、インターセクシャルは生物的な性別を表す用語だ。
具体的には、レズビアンは女性同性愛者、ゲイは男性同性愛者、バイセクシャルは両性愛者、トランスジェンダーは性的転換者、インターセックスは性分化疾患者を意味する。それだけではない。パンセクシャル(あらゆる人を愛する全性愛者)、アセクシャル(他者に対して恋愛感情を抱かない無性愛者)という新しい性的指向や性的アイデンティティを表す言葉も生まれてきている。

人間は男と女の2性と考えられてきた。「第2の性」という表現はフランスの実存主義者シモーヌ・ド・ボーヴォワールの著作の題名でよく知られているが、ここにきて「第3の性」という表現が飛び出してきた。
この分野ではドイツが先行している。ドイツ連邦憲法裁判所は昨年11月、出生届に「男性」「女性」以外に「第3の選択肢」を認める判決を出した。ちなみに、オーストラリアとネパールでは既に第3の性別が認められており、男性・女性のどちらでもないと感じる人は「中間性」或いは「インターセクシャル」と表現できるという。

スイス・インフォは「第3の性」を主張するミルシュ・パティさんにインタビューしている。
「パティさんは、男性でも女性でもない。『彼』でも『彼女』でもない。英語ではパティさんのような人々を『they(彼ら)』と複数形で呼ぶことが多い。ドイツ語には『sier』『xier』という3人称に当たる新しい造語が存在するが、フランス語やその他多くの言語には、まだこの概念に対応する言葉が存在しない」

性的マイノリティは過去、差別され、虐待されてきた。19世紀後半、アイルランド出身の著名な劇作家オスカー・ワイルド(1854~1900)とその家族が体験した人生はその典型的な路程だ。オスカー・ワイルドは同性愛者だったゆえに投獄され、家族は迫害を逃れて姓名を変えて生きていかなければならなかった。幸い、今日では人権に対する民意が向上し、少数派の人権は尊重される方向に向かってきた。ただし、性的少数派は「われわれは社会からの寛容を願っているのではない。社会から受け入れられ認められることを求めている」と主張する。

最後に、性的マイノリティーについて当方の考えを少し述べたい。 旧約聖書の創世記には「神は自身の似姿で人を創造した。男と女を創造した」と記述されている。神は2性を創造したことになる。しかし、「失楽園」の話を思い出してほしい。アダムとエバは蛇で象徴された天使の誘惑を受け、神の戒めを破る。天使は人間の創造する前から存在していた。その天使と一体化したエバは天使から多くの性質、性向を受け継ぎ、それをアダムにも移す。すなわち、人間は「失楽園」後はもはや「神の似姿」ではなく、堕落した天使の多くの要素を受け継いだ存在となった。人間は堕落後も外的には男か女の2性だが、その性的指向に天使の指向が加わったわけだ。

ここまで書くと、大抵の読者は頭を振らざるを得なくなるだろう。神、アダム、エバまでは何とか忍耐しながらフォローしてくれた読者も、話が天使の登場となるとバカバカしくなってくるかもしれない。その意味で、性的少数派と同じように、当方の考えは少数派だろう。

まとめると、男にも女性的指向(ホルモン)があるように、女性にも男性的指向(ホルモン)がある。同じように天使も何らかの男性的指向と女性的指向を内包しているはずだ。男、女、天使の3者のプラスとマイナス面が歴史を通じて交差してきた。人間の性的指向の多様性はそこから生まれてきたのではないだろうか。

性の多様性、性的マイノリティーは多分、昔も存在しただろう。科学や医学の発展につれて「性の多様性」が実証的にも解明されてきたわけだ。聖書学的にいえば、これまで未解明だった「天使の世界」が次第に明らかになるにつれ、性的マイノリティーのルーツも分かってくるのではないか。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年6月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。