「拉致問題よりも慰安婦問題が大切」な文在寅政権

宇山 卓栄

青瓦台Facebookより(編集部)

拉致に触れない左派政権

不思議なことがある。なぜ、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は自国の拉致被害者について、一切触れようとしないのか。文大統領は弁護士時代から、人権問題を自身のライフワークにしてきた。そんな彼が、無垢の民が北へ連れ去られ、酷い目に合わされていることをわかっていながら、知らんふりだ。

韓国の拉致被害者の数は公式には486人と発表されている。しかし、これは表向きの数字で、そのほとんどが、漁船ごと北朝鮮工作船に拉致された漁民の被害者である。こういう明らかに拉致されたケース以外の、闇で連れ去られたようなケースは含まれていない。そのようなケースを含めれば、相当な数になるはずだ。

また、朝鮮戦争時代の混乱の中、連れ去られた韓国人は8万人以上とも言われている。金大中(キム・デジュン)大統領や盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領ら歴代の左派政権も現政権と同様に、拉致問題を取り上げなかった。
韓国の拉致被害者家族協議会は拉致問題を取り上げるよう、政府に求めているが、文大統領はこれを無視している。4月と5月に、金正恩委員長と会談しながら、拉致については一切触れなかった。「板門店宣言」では、「拉致」の言葉すらない。

司法は文大統領に「ノー」

「人権派」文大統領がさすがに、熱心に取り組んでいる問題がある。それは慰安婦問題だ。
2015年の日韓外相会談によって、日韓合意が結ばれ、慰安婦問題の「最終かつ不可逆的な解決」を合意した。

しかし、文大統領は合意を踏みにじり、「(この合意は)政府がおばあさんたち(元慰安婦たち)の意見を聞かずに一方的に推進した、内容も手続きも間違っているものだ」と述べた。その上で、わざわざ合意検討タスクフォース(作業部会)を立ち上げて、合意の不当性を繰り返し、訴えた。さすが、「人権派」としての筋を通すべく、しつこく食い下がっている。

文大統領は慰安婦とされる人たちの人権擁護には、誠に熱心であるが、拉致被害者の人権には知らん顔だ。実にご立派な「人権派」ではないか。

慰安婦とされる女性たちは、2015年の日韓合意に反発して、国に損害賠償(慰謝料1億ウォン、約1000万円)請求訴訟を起こしていたが、6月15日、ソウル中央地裁は訴えを棄却した。司法の判断として当然だ。ソウル中央地裁は「(日韓合意に)不十分な点はあるが、外交行為の範囲内であり、違法性を認めるのは難しい」と表明した。「内容も手続きも間違っている」とする文大統領に対し、司法が真っ向から異論を唱える格好となった。

偽善臭漂う文政権

「在韓米軍撤退論」で物議を醸した文正仁(ムン・ジョンイン)大統領特別補佐官は6月14日、梨花女子大学で行われた討論会で、「今、何よりも重要なのは非核化であるので、絶対に人権問題を(対北朝鮮交渉の)前提条件にしてはならない」と述べた。文正仁補佐官は文大統領の真意を代弁してくれる頼もしいアドバイザーだ。
彼らにとって、拉致問題をはじめとする人権問題というのは北朝鮮に忖度するという至上命題の前では、どうでもよいことなのである。

安倍首相や河野外相は、文大統領や康京和(カン・ギョンファ)外相に、日本人の拉致問題を4月の南北首脳会談で取り上げるよう要請していたが、康外相は「何が議題になるか話すのは難しい」と言って、体よく断った。因みに、康外相も人権をライフワークに国連外交を担当してきた非正規の外交官の出身だ。実に、ご立派な「人権派」の面々が文政権には集まっている。

自国の拉致被害者さえも知らん顔をする彼らに、日本人の拉致被害者のことなど眼中にあるはずがない。彼らに頼むだけ、ムダだ。相手にしなくてよい。日本は拉致問題で、韓国はもちろん、アメリカに頼ることもできない。自分たちで解決するしかない。