バロンズ:関税発動、米経済が支払う代償

2018年06月25日 11:30

バロンズ誌、今週のカバーに「ウォール街の良心」としてブラックロックのラリー・フィンク最高経営責任者(CEO)を掲げる。フィンク氏は元リーマン・ブラザーズの取締役とブラックロックを1988年に立ち上げ、2006年に国連が「責任ある投資原則」を公表すると金融危機が全米を直撃した2008年に同原則に署名。2009年にバークレイズのETF部門を傘下に置いた後はパッシブ運用の旗手となり、2017年には「長期的価値の創造のための広範にわたる説明責任」の一環として、ESG投資に積極的に取り組む姿勢を示した。ブラックロックの今後の戦略は、ウォール街の見本となるのか。詳細は本誌をご覧下さい。

当サイトが注目するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、今週はトランプ政権が次々に打ち出す関税措置を取り上げる。抄訳は、以下の通り。

関税が与える貿易への打撃 − Tariffs’ Toll on Trade.

ダウ工業株30種は22日に0.5%高で取引を終え続落基調を8日で止めたとはいえ、週足では2%安となった。その間に、ダウ平均が創成された1894年当時から構成銘柄だったGEが除外され、2014年に誕生したウォルグリーン・ブーツ・アライアンスの採用が決定した。その他の株価指数も下落し、S&P500は0.9%安、ナスダックも0.7%安で週を終えた。米株相場を圧迫したのは、貿易戦争激化への懸念に他ならない。トランプ大統領は18日夜、既に中国輸入品500億ドル相当に25%の関税を課す案を発表していたにも関わらず、追加で2,000億ドル相当の中国輸入品10%の関税を課すと警告。おまけに、トランプ大統領は22日にツイッターで欧州からの輸入車に20%の関税を賦課すると表明した。

独自動車メーカーのダイムラーは、既に貿易戦争の被害者である。同社がアラバマ州のタスカルーサ郡で生産するSUVは、中国による米国製品への報復関税を受け2018年の利益見通しを下方修正した。BMWのSUVもサウスカロライナ州スパータンバーグから中国へ向け輸出されてきたが、影響は免れないだろう。

経済的な影響も見逃せない。ナンシー・ラザー氏率いるコーナーストーン・マクロによれば、中国輸入品500億ドルに対する25%の関税額は125億ドルだが、二次的な影響として米経済に0.1%の増税効果を与え、中国輸入品2,000億ドルに10%の関税を賦課する場合は米経済に0.2%の増税効果を及ぼすという。つまり、経済への影響は限定的とはいえ「税制改革での景気押し上げ効果を抑制する」わけだ。さらに「二次的効果は企業の信頼感を損ねる他、ドル高という向かい風をもたらし、サプライチェーンの混乱を引き起こし、部品を輸入に頼る米国輸出企業の競争力を喪失させる」。

トランプ大統領は中国の対米貿易額が米国の対中貿易額を上回る現状を捉え、対中貿易戦争での勝利は容易との見解を示す。しかし、世界第1位と第2位の経済大国の貿易戦争は、不確実性と成長押し下げ効果をもたらしかねない。またコーナーストーン・マクロの分析では、2014年の中国輸入品のうち3分の2は中国製品だが、その他の3分の1は台湾やマレーシアなど他エマージング国が生産した中国を経由した部品だ。

貿易の裏には資本フローがある。トランプ政権は6月30日までに中国企業に対する投資規制を発表する予定だ。政治情報サイトのポリティコは、テクノロジー企業など「中国製造2025」と安全保障に関わる米企業1,000社への投資制限を設ける見通しだ。

貿易と資本フローでの論争はいずれ解決するのだろうが、その間に不確実性をもたらす。米中小型株指数ラッセル2000が他の大型株指数と違って20日に最高値を更新したのは、米連邦公開市場委員会(FOMC)が金融政策正常化に自信を示したことが影響したのかもしれない。

Fedのバランスシート、少しずつ縮小中。
bs
(作成:My Big Apple NY)

Fedと言えば、保有資産の圧縮を継続させており7月からの圧縮額をこれまでの900億ドルから1,200億ドルへ引き上げる。1951〜70年までFRB議長を務めたウィリアム・マクチェスニー・マーティン氏がかつてFRBの役割を「パーティーが続く間にパンチボウルを引き下げる」ことと表現したが、パウエルFRB議長も同様に感じているのだろう。パウエル氏は、欧州中央銀行(ECB)の年次フォーラムで追加利上げシナリオをあらためて宣言したほか、インフレより「金融の不均衡」について強調した。保有資産の圧縮は、パンチボウルの引き下げを意味する。

Fedが保有する米国債など証券残高は、2017年9月28日(保有資産の圧縮開始直前)時点から6月20日までに1,280億ドル減少し4.112兆ドルとなった。保有資産の負債サイドをみると、発行銀行券が815億ドル増加し、リバース・レポが2,113億ドル増加しており米財務省によるFedの預け入れ2,192億ドル増加した分をほぼ相殺している。準備預金は2,267億ドル減少、保有資産の圧縮額を約1,000億ドル上回った。

パウエルFRB議長は「金融の不均衡」について「一部の資産価格は過去の水準と比較して高い半面、広範にわたる過剰な借入あるいはレバレッジの兆候はみられていない。また、銀行の資本は金融危機以前と比較しかなり高水準にある」と述べ、6月FOMC後の記者会見の発言内容を繰り返した。グリーンスパン元FRB議長による「根拠なき熱狂」といった表現を避けた格好だ。とはいえ、過去2回の景気後退に合わせ金融危機が発生したと指摘することも忘れていない。Fedによる金融政策正常化の継続は、起こりうるバブル崩壊の阻止につながるか注目されよう。


パウエルFRB議長は、非金融機関の借入増かや一部の資産価格の上昇に配慮しながら、エマージング市場の混乱について言及していません。保護主義的な通商政策にも配慮をみせながら、「経済は力強い状態にある」と強気な姿勢を表明するなど金融政策の正常化に力点を置いています。その半面、ウォールストリートの一角では流動性逼迫をにらみ、早ければ2019年夏頃にも保有資産の圧縮を中断するとの観測も浮上中。これまでFedは、民間銀行の準備預金の水準についての議論は避けてきました。しかし金融システムの流動性確保のため、民間金融機関の準備預金が1.5兆ドル近くへ減少した段階で、Fedは保有資産圧縮の再考を余儀なくされかねません。米財務省が国債増発を続けるなかでは、米金利に上方圧力が加えられ続けるため、尚更でしょう。

(カバー写真:The White House/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年6月24日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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