「北の非核化」を逸らすフェイク情報

長谷川 良

歴史初の米朝首脳会談がシンガポールで開催されて2週間が経過した。トランプ大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の首脳会談の最大の課題は「北の非核化」だったし、その点は今でも変わらないが、時間の経過は全てを巧みに変質させる。トランプ氏のキャラクターも手伝って、米朝はあたかも友邦国のような雰囲気が醸し出されてきた。トランプ氏は金正恩氏に直通電話番号を与え、「いつでもコールを」といった具合だ。一方、北朝鮮はその後、米国批判を控え、両国関係が改善されてきたというイメージの操作に腐心している。

北朝鮮が過去実施した6回の核実験による地震波(包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)の公式サイトから)

もちろん、それなりの根拠はある。北は核実験、中・長距離弾道ミサイルの発射を控えると共に、もはや使用できなくなった核実験所を破壊するなど、それなりのパフォーマンスを繰り広げている。3人の米国人人質を解放、韓国動乱で亡くなった米兵士の遺骨の返還など、人道面の努力も忘れていない。あれもこれも、決して悪いことではないが、シンガポールの米朝首脳会談はそのために設置された会合ではない。

目的は北の非核化の実現だ。2週間も過ぎると、トランプ氏だけではなく、メディア関係者も当初の目的を忘れ、緊迫感は次第に薄れてきた。繰り返すが、両国関係の正常化はサイド・イベントとして大切だが、メインは北の非核化の実現だ。それが実現されなければ、「歴史初の米朝首脳会談は失敗だった」と後日、歴史家が判断を下すだろう。

米国は北の非核化が実現できるまで金正恩氏の友邦国になる必要はない。米国は北の核能力を破壊するという戦略的目標を決して忘れてはならない。新しい友達を見つけるのが上手いトランプ氏は「金正恩氏とケミストリー(相性)があう」と誇示したというが、相性云々より北の非核化の早期実現に集中すべき時だ。

要注意は、制裁論が後退し、経済支援の話がメディアで報じられてきていることだ。その背後に中国の情報工作、フェイク情報の拡大がある。

米朝首脳会談の内容は米朝2カ国しか知らない。日韓両国は米国から、中国、ロシアは北側からその会談内容を聞く。韓国政府も日本政府関係者も米朝首脳会談の内容を直接ではなく、間接的に聞く以外にない。安倍晋三首相ならばトランプ氏から聞くが、その内容と実際の首脳会談のそれとが一致しているという保証は残念ながらない。色が付き、薄められ、時には全く内容が違う場合だって考えられる。だから、韓国政府筋とか日本政府筋で流れる多くの情報は既に変質していると受け取っていいわけだ。

実際、米朝首脳会談後、中国は「制裁の時は過ぎた。制裁を段階的に解除して対北経済支援の話をしよう」というニュアンスの情報を流し出している。あたかも、北の非核化が実現できたか、ないしは、できる見通しが立った、という印象を与える情報を流すわけだ。気の早いメディアは直ぐに手を出す。その度に、「完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄」(CVID)は遠ざかる。

恣意的にフェイク情報を流す側は巧みだ。直ぐに偽情報と受け取られるようなやり方はしない。それでは、フェイクか事実かを識別する方法はあるだろうか。一つある。「フェイク情報」は詳細な尾鰭が付いてくることだ。なぜならば、フェイクだから、それをカムフラージュするために、「ああだ、こうだ」「だから、こうだ」といった具合に説明が長くなるケースが多い。一方、「事実」の場合、多くは短く、あっさりしている。なぜならば、説明するとか、説得する努力が必要でないからだ。

北の非核化の行方を考える場合、今後数カ月間はさまざまなフェイク・ニュースがメディアに流れてくるだろう。その時、そのニュースの長短をチェックし、説明の多い情報の場合、疑ってみることも重要だろう。フェイク・ニュースを流す人はどうしても多く語るからだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年6月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。