「さよなら、おっさん社会」を超克しよう

2018年06月30日 11:30

私が毎日購読しているNews Picksでは「さよなら、おっさん社会」をめぐり熱い議論が戦わされている。これはとても良いことだ。いわゆる「おっさん社会」はアップデートが必要だという点では誰も反対しないだろう。

私は、前稿でIoTの社会ではおっさん社会も必要と論じた。今回は、世界を俯瞰する角度からこの問題についての私の意見を述べてみたい。「おっさん社会とさよなら」するかは、日本だけを見ていてもあまり意味がある結論には至らない。今、世界は産業革命からの資本主義経済の発展の最終局面にある。ただ、それはマルクスの予言した共産主義革命ではなかったけれど。

できるだけ、大量に製品を作って世界の隅々まで商品をばらまいて、大資本が利潤を喰み、労働者が搾取される。日本の「おっさん社会」は、第二次世界大戦後の東西冷戦パラダイムのもとでは、アメリカの核の傘に守られて、エコノミックアニマルと揶揄されながらも経済に専心し、世界の工場、輸出立国の「日本株式会社」を最適に廻すシステムとしては本当に上手く回った。

ところが、中国では鄧小平が改革解放路線に転じ、ベリリンの壁が崩壊し、グローバリズムが到来する。経済的には、ヒト・モノ・カネが自由に飛びまわり、世界共通プロトコルは「カネ・カネ・カネ」の徹底的な拝金主義。米国シリコンバレーでSteve JobsやBill Gates がIT製品・サービスのコンセプト・設計図面を作り、電子メールで地球の裏側の中国に資本を投下してギガファクトリーを建てて大量に生産し、アメリカブランドで世界の隅々にまで売りつける。そんなゲームチェンジに「おっさん社会」がついていけるわけなく、日本はGDP世界二位の座を中国に明け渡した。その煽りを受けたのが、ポストバブル世代だ、だから「おっさん」はもう出てって欲しいという気持ちはわからないでもない。

しかし、話はそう簡単ではない。リーマンショックが起きて2016年に上海株式市場がクラッシュし、消費者の所有欲求を喚起する資本主義経済の最終局面、IT革命と金融自由化をてことするグローバル経済はすでに終わりを迎えつつある。そこでもう一度「おっさん社会」が日本を再浮上させると前回述べた。その果実を享受するのは今の10-30代だ。彼らが「アップデートしたおっさん社会の主導層」になっていく。

具体的な例で説明したい。日経新聞の「BMW、中国大手に数千億円分発注 EV電池」がNewspicksで話題になっている

いわゆる蓄電池業界のヘゲモニーを巡る日米欧中韓の争いだ。そこには太陽電池と同じ傾向が見られる。日本製品が俄然強かったのに、中国が市場をさらっていく。政府のテコ入れで国内で壮大なPOCをして、海外に染み出す。野心的な経営者とグローバルからの資金調達で倍々プッシュでのギガファクトリーを建設し一気にマーケットを取る。保守的なオッサン文化の日本の会社には出来ない芸当だ。トランプ大統領はきっとダンピングと騒ぎ立てるだろうが、中国国内市場も政府の補助金をジャブジャブ入れているから、内外価格差はない。だからダンピングの定義に当てはまらない。

2000年代に太陽光発電でSuntechという中国のメーカーがシャープを凌駕して圧倒的なトップを取った。ちなみに同社創業者のシー社長は私の友人だ。

なぜSuntechという会社が太陽電池発電技術を手に入れたかというと、1970年代に京セラの稲盛会長が50年の先読みをして、サンヨーや昭和シェルとともに採算度外視で住宅用太陽電池を研究開発・製造・販売をしていたのだけれど、その一角にあった長野県小諸市の株式会社MSKという会社をSuntechが買収したことによる。

なぜMSKがサンテックに身売りしたかというと、当時原子力発電を強烈に推していた日本政府と電力会社が太陽光発電による電力業界の分散化へのゲームチェンジに早くから脅威を感じ、徹底的に商用化を阻止した。変革を好まない「おっさん社会」の悪いところだ。正直に白状しよう。僕もその村で阻止側に回っていた。

サンヨー(パナソニック)と京セラと昭和シェル(ソーラーフロンティア)は大企業で、その後2012年に福島第一原子力発電所事故を契機にムードが変わり、ドイツやスペインを真似て、ようやく固定価格買取制度を導入して花が開くことになる、気の遠くなるような30年間を耐え忍ぶことが出来た。しかし小諸の中小企業にはそれが出来なかったのでサンテックに売った。

ある意味では技術流失といってももよい。その事実はサンテックジャパンのホームページにてらいもなく記載されている。

そして中国の無錫にメガファクトリーを建設したサンテックは華麗にシャープを追い抜いていく。シャープはこれに中途半端に対抗する。元々は奈良県の葛城という工場で堅実に太陽電池を作っていた(僕もそこを10年前に訪れた。身の丈にあった古き良き伝統を守った生産ラインだった)。

ところが堺に世界的に見れば中途半端な規模の工場を建てコスト競争でSuntechに敗れる。シャープの鴻海への身売りのトリガーになった。ところがそのSuntechも恐らく中国共産党との距離が遠かったために、すぐに倒産して、国営企業が王座を握っている。今や日本にあるメガソーラーの9割は中国国営企業の製品だ。

で、電池を巡っても習近平が自らの政治生命をかけて中国メーカーにドーピングしている。その原資は、過去の輝かしいグローバル経済で一人勝ちした利潤の蓄積だ。蓄電池や太陽電池は品質による差別化が難しいので、価格勝負になる。おそらく中国が勝つだろう。

で、ここからが僕の言いたいところだ。恐らく、中国は太陽光と蓄電池で圧倒的な売上高と市場シェアを握るが、利益率は低い、あるいはマイナスだということだ。この安い汎用品を組み込んだ、インフラシステム(EVやロボットやブロックチェーンや電力システム)を使って、ローカルなエコシステムで最低限の消費しかせず、緩やかに暮らしていく、それが「新しい日本のおっさん社会」だ。

つまり、ポストグローバル社会では、少なくとも日本では、幸福の尺度は「金や所有欲求」ではなく、「身の丈にあった簡素な日々の暮らしを楽しむ。丸く、ゆるく繋がって生きていく、英語で言うとNorm Core」と言うトレンドだ。

安く整備された社会インフラやサービスをシェアしながら、スマホだけで低消費で生きていく。そんな縮小均衡社会で「勝った負けた」ではなく「密やかに暮らしを楽しむ」のがニューおっさん社会で、その中心にいるのが10-30代の「資本主義的には負け組」であった若者たちだ。日本には輝かしい未来が待っている。

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酒井 直樹
株式会社電力シェアリング代表

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