バロンズ:賃上げ加速、必ずしもグッドニュースでない理由

2018年07月02日 11:30

バロンズ誌、今週のカバーに「2020年;強気相場終焉説」を掲げる。2009年3月から続く強気相場に対し、バーナンキ元FRB議長は走り回るアニメのキャラクターをもじって「ワイリー・コヨーテは崖から落ちて下向くだろう」と予想。弱気派ではないはずのエコノミストも世界経済には慎重で、欧州中央銀行(ECB)の金融政策については量的緩和の終了だけでなく2019年末にかけての利上げが意識され始めている。米企業の業績も2020年には鈍化が見込まれ、強気相場と環境は一変する見通しだ。何より、強気相場は約3,400日もの長きにわたり続き戦後平均の1,821日を超え、過去2番目のロングランを果たす。上昇率も戦後平均の161%高を大きく上回り、302%高に及ぶ。過去最長は、1987〜2000年の4,494日、582%高で、その後にITバブルが直撃した。果たして、今回の強気相場はどんな終末を迎えるのか。詳細は、本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、今週は米6月雇用統計を控え賃金上昇にスポットライトを当てる。抄訳は、以下の通り。

なぜ米株は現金に負けているのか—Why Stocks Are Losing Out to Cash

TINAとは「他に選択肢がない(There Is No Alternative)」の略で、ゼロ金利政策での普通株を表す言葉だ。しかし、最近ではキャッシュにお株を奪われつつある。バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチ(BAML)の顧客調査でも、流動性資産への選好度は明らかとなっている。Tビルの利回りとS&P500の配当利回りがほぼ同水準であるためで、TINAが通用しなくなっている証左だ。

それだけではなく、BAMLの調査では株式ファンドからの資金流出が前週に297億ドルと、過去2番目の高水準を記録した。年初の5週間こそ米株がとどまることを知らない快進撃を続けたため1,030億ドルもの巨額な流入規模を示したものの、その後の5ヵ月間の流入額は310億ドル程度に鈍化し、再び売り越しに転じている。

直近の資金流出は米中間の貿易戦争懸念に加え、中国の対米投資が制限されるリスクをにらみ6月25日にナスダックが2.1%安を示したことが一因だろう。FANGの一角を担うネットフリックスは6.5%も急落したが、年初から100%近くも値上がりしていただけに現金化されたに違いない。ハイテク関連自体も引き続き年初来の勝者で、インベスコ・QQQ トラスト(QQQ)の年初来のトータル・リターンは6月29日時点で10.63%高で、そのうち7.43%の上昇分は過去3ヵ月に遂げていた。

中国株は、米株より分が悪い状況だ。米国との貿易戦争泥沼化が嫌気され、上海総合は20%も急落し弱気相場に突入した。人民元も歩調を合わせて下落中で、対ドルでは過去2週間で3.5%安、貿易加重平均では2%安を示す。中国人民銀行は6月24日に4月以来、今年で2回目となる預金準備率を引き下げを断行、銀行システムに1,000億ドルの資金供給に踏み切った。つまり、人民銀行は関税賦課で迫る米国に、為替という最も効果的なカードを切ったと言える。

とはいえ、中国株の弱気相場入りや人民元安は、2015年夏にかけての市場混乱を彷彿とさせる。ナットウエスト・マーケッツの米国債ストラテジストが指摘するように当時、S&P500は10.5%安と調整相場入りした。中国の人民元安はエマージング通貨にも波及したものだ。

米国の国内要因も、見逃せない。米1月雇用統計では、平均時給が前年比2.9%と加速したため、利上げペース加速を警戒し米株相場と米債相場を震撼させた。6月FOMCではFedの利上げペースは年内4回に引き上げられたが、2019年から長期見通しにかけ変更はなくマーケットは平静を保つが、年後半に賃金加速が再現すれば、再び金融政策が脚光を浴びる余地を残す。

平均時給、そろそろ上向期を示すのか(チャートは米5月雇用統計発表時点)
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(作成:My Big Apple NY)

そもそも、米国の労働市場は転換点に差し掛かりつつある。米雇用動態調査で求人数が過去最高を記録するほか米中小企業楽観度指数で賃上げ回答が過去34年間で最大となった。これまで平均時給の前年比は2.5%付近で1980代のような4〜5%台での上昇を継続的に示してこなかったが、遂に加速するのだろうか。賃上げが加速しても、労働者にとってのパラダイスは長続きしない可能性がある。ジェローム・レヴィ・フォーキャスティングのデビッド・レヴィ代表が分析するように、物価上昇は利益率の縮小を招くだけでなく、Fedの利上げペースを引き上げさせる米国内、海外のバランスシートを圧迫すること必至で、世界経済に与える影響は小幅ではないと想定されるためだ。

税制改革で法人税減税が引き下げられたため賃上げ吸収力があるとの声も聞かれるが、利鞘縮小に直面することに変わりはない。2月の米株安は、いかにインフレ加速が市場を揺るがすかを体現したと言える。米6月雇用統計・非農業部門就労者数が市場予想の18.5万人増を超えたとしても、平均時給の上昇率で冷や水を浴びせられるリスクを残す。市場予想は2.9%だが、3%乗せに注意したい。


さて、米国の非金融企業の純付加価値に対する労働賃金をみると、2018年1〜3月期は69.3%と低迷を続けています。2016年の4〜6月期に69.8%と景気拡大期での最高を示した後は、サッパリです。

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(作成:FRBよりMy Big Apple NY)

比較的高賃金であるベビーブーマー世代の引退という構造要因も、この水準低迷を促していたことでしょう。足元では5月ベージュブック米5月雇用統計をはじめとした労働指標が賃上げ加速の兆しをみせていますが、平均時給の前年比3%乗せとともに非金融企業の労働賃金が純付加価値比で70%を超えてくるか、焦点となりそうです。

(カバー写真:emdot/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年7月1日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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