金正恩、米中露3竦みの薄氷の上で開発独裁の瀬踏みか --- 佐藤 鴻全

2018年07月03日 06:00

ホワイトハウスFacebook:編集部

シンガポールの夜景

6月12日にシンガポールでのトランプと金正恩の米朝首脳会談が終わり、トランプは返す刀で習近平の率いる中国に貿易戦争を仕掛けている。

米朝合意の共同声明では、トランプによる北朝鮮の安全保障と、北朝鮮による「朝鮮半島に於ける完全非核化に向けての努力」が約束され、その手順、スケジュール等具体的なことは今後の交渉事項とされた。

トランプの思惑は、米朝友好を成果の一つとして中間選挙を乗り切って、もし金正恩の核廃棄に進展が見えなければ軍事オプションを含む制裁強化へ豹変するというものだろう。一方、金正恩のメインシナリオは、仮初の「体制保証」の下、部分的核廃棄を緩慢に行い、それに応じて制裁解除を得つつトランプ引退(3年ないし7年後)を待って核保有国として国際的に認知を受ける事にあると思われる。(参照:米朝首脳会談 トランプの2段階戦略と金正恩の思惑

しかし、今回の米朝首脳会談を通し金正恩は、上記メインシナリオと並行して、米中露3竦みによる薄氷のパワーバランスを実質的な体制保証として用い、核廃棄を進めて開発独裁へ転換する瀬踏みを始める風情も出てきた。その動機は、経済制裁が厳しく耐え難いという点、米国との良好な関係を持続できなければ中国の完全属国になってしまうという恐れ、シンガポールの夜景を見て感じた開発独裁による繁栄への希望といった所か。

もちろん、これには前述3国のパワーバランスが実質的な体制保証であるという点、軍部によるクーデター、開発独裁が軌道に乗った局面での民衆蜂起の可能性等の大き過ぎるリスクが伴い、いわばギャンブルである。そのため、有事の際の亡命オプションは必ず必要になってくる。亡命先は中国であれば中朝2千年来の屈辱となるので、スノーデンで実績があり客分として扱ってくれそうなプーチンのロシアとなるだろう。

トランプの大欲と日本

ともあれ金正恩の腹がどこにあるかに関わらず、ひとまず朝鮮半島は束の間の安定を得た。(私事、筆者も躊躇していた当地への旅行を今夏計画した。)

米中冷戦は、貿易戦争に限らず、それとリンクして南シナ海、台湾等での地政学的攻防へ加速して行くだろう。トランプは今月16日にフィンランドでプーチンと首脳会談を行う予定だ。

議会が、ジャーナリズムが、EUが、軍産複合体が何と言おうと、中露の紐帯に楔を打ち込んで、実質的な米露同盟に少しでも近付けなければ、アジア太平洋の、進んでは世界の覇権が中国へシフトするのは水が高きから低きに流れる如く自明なことだ。ロシアも問題を抱えているが中露の何れかがより地球にとって害があるか比較衡量が必要であろう。トランプには少なくともその大局が見えていると思われる。

今のところ日本は、対朝、対中では、トランプが作り出す潮流に乗るのが基本的に国益に適うと思われる。だが従属的であってはならない。

金に関して言えば、日韓基本条約での準賠償には北朝鮮分も入っていると考えられ、北朝鮮から過去の有償食糧援助の債権、拉致の賠償金は受け取れども、本来日本から北朝鮮に金を払う必要も理由もない。しかし、国際世論の趨勢や日朝平壌宣言を結んだ経緯から実際的にはある程度出さざるを得ないだろう。

それには、拉致、核、ミサイル問題の解決を条件とするのが大前提である。そしてこれは、極く低利であっても全額有償の円借款とするのが適当だ。トランプから要請された核廃棄費用については、国際的な基金を作ってそこに支出し、将来、上記円借款とスワップ出来る余地を残す等、強かさが必要だろう。

自我肥大の、エゴ大王であるトランプの大欲は、世界を大乱に引き込むのか、否それはほぼ確実だが、その果てに新しい世界秩序があるのか。日本は国際的大義を伴う長期的国益の実現を軸に据え、主体性を持って臨む必要があるだろう。

佐藤 鴻全  政治外交ウォッチャー、ブロガー、会社員

HP佐藤総研

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