米中覇権争い突入と朝鮮半島情勢(七夕の日に思う)

松川 るい

おはようございます。土曜の早朝、気づけば今日は7月7日、七夕ですね(昨日娘が笹の葉を幼稚園から持ち帰ってました。。)。前回ブログをアップしてからはや3週間です。この間に、いろいろありました。

6月末に開催された済州フォーラムという韓国曰く韓国版ダボス会議のような国際フォーラムにパネリストとして参加し、朝鮮半島に対する韓国の見方や各国の見方について肌身で感じることもできましたし、また、テレビ討論番組などで自分の見立てについてお話させて頂く機会もありました(が、やはり、どうしても断片的になりがち)。書きたいと思いながら忙しすぎてあっという間に時間がたったという感じです。

ポンペオ長官が北朝鮮訪問を終えて本日訪日予定ということなので、今、書いたら全然違って夜に書き直したくなるんじゃないか、なんて思いながらですが、時間の都合もあるので、とりあえず書いてみます。

ホワイトハウスFBより:編集部

最も重要な出来事は、本日、米中の貿易戦争がいよいよ本格的に始まったということでしょうか。これは、ただの貿易戦争ではなく、私は、米中の覇権争いそのものだと捉えています。特に、次なるテクノロジーについてのどちらが凌駕するかは米中の覇権の決定的要因になりかねません。米国は国家の生存本能に基づき、今、中国を叩かなければ米中の覇権の交代があり得ると思ってやっている。だから、そんなに簡単に終わらない。いったん小康状態になっても、両国の関係について最終的な折り合いがつかない限りは続くように思います。

1890年代に英国がドイツに科学技術から哲学まで凌駕され、今、ドイツを叩きのめさなければドイツに覇権を奪われてしまうと考え、ライバルNo1のフランスと思想的に相いれないロシアとの間に同盟関係を結んでドイツを第一次大戦で破り、その結果英国の覇権を継続させたのと同じような構図が表れているように思います。トランプ大統領は、米ロ首脳会談を発表していますし、本格的に米ロ関係の改善を図るつもりではないでしょうか。

ニクソン大統領は冷戦を勝ち抜くために、当時の主敵ソ連と対峙する上で、中国とソ連を分断する必要を感じて、米中国交正常化を実現しました。同じように、トランプ大統領も中露分断を図っているように思います。中露は多くの利害があるので分断というのは無理でしょうが、少なくともロシアを中国のみに追いやる愚を避けたいのではないでしょうか。自分も痛手を被るが、相手(主敵)がより大きく決定的なダメージを被れば良い、という。これは、英蘭戦争でも見られたように歴史上では覇権争いで珍しいことではありません。仕掛けられた相手側はできれば避けたいと思いながら、許容レベルを超えた仕掛けに反応せざるを得なくなったわけです。

中国は、6月22日の中国外事工作会議で発表したとおり、米国との関係は「上手くマネージ」したい。だって、時間は自分を利していると思っていますからね。ですから、我慢できるものなら我慢したかったはずですが、米国の行動はそれを許すレベルを超えていたということでしょう。結果的に、米中関係は半島情勢にも影響するでしょう。というか、核施設の活動継続の兆候など、北朝鮮の後ろ向きな動きは、このような米中関係に影響されたものである可能性があると思います。なお、討論番組でも指摘してきましたが、半島情勢が米中の覇権争いに影響を与えたわけではありません。むしろ逆でしょう。

なお、経済面では、6月末に行った国際セミナーでは、ポール・クルッグマン氏は、米中貿易戦争が発動されれば世界貿易の3分の1の減少につながる恐れがあると言っていました。長続きすれば、世界のブロック経済化を招くおそれがあり、リベラルな国際秩序が後退し「力の政治」化している現下の国際情勢の潮流に、さらなるダメージを与えることでしょう。

ポンペオ氏の4月訪朝時の公開写真(ホワイトハウス公式FBより:編集部)

さて、北朝鮮です。ポンペオ国務長官が昨日、北朝鮮を訪問し、米朝首脳会談合意後のフォローアップ、特に非核化プロセスについて詰めたはず。本日訪日予定です。非核化について進展があればと願いますが、最近、北朝鮮は核ミサイル施設について拡充するような動きをしている様子を衛星が捉えたといった報道があり、むしろ非核化に逆行した行動をしているとの情報があります。本当だとすれば、大変、由々しき事態です。そして、「一体なぜ。」という疑問がわきます。いくつか考えられます。でも、この点については現時点では私はこれと言えません。

まず、これまでも書いてきたので若干重複しますが、私は、金正恩委員長は、トランプ政権下において平和条約締結を達成し(つまり体制保証の永続化と自然な流れとしての在韓米軍撤退と米韓同盟の穏健化につながる流れ)、その基盤の上に、体制維持しながら外国投資を呼び込み市場経済化を進めて経済発展させる(ソ連ではなく中国みたいな国になる、さしずめ自分は北朝鮮の鄧小平といったところ)ことを最重要課題としていると思います。トランプの後の政権が、朝鮮半島に関心を持つかどうかわかりませんから。ざっくり言って、2年内ぐらいに米国との間で平和条約を締結したい、ということ。そして、それが実現するのであれば、核兵器を放棄しても構わないと決断したはずです(穴に最後の1、2個核兵器を隠しおくとか核技術を温存するといったことは当然狙うとして。)。そうでないとそもそも米朝首脳会談に臨めません。

トランプ大統領も、自分の政権下で(特に11月の中間選挙も念頭に)、米国への脅威を除去したい、そのために、北朝鮮の核放棄とICBMの廃棄を実現したい、それが実現できるなら平和条約を結んで良いと考えている。したがって、米朝の利害は基本的に一致しているところがあり、だからこそ米朝首脳会談が実現したわけです。

ところが、ここで気になる動きが出ます。米朝首脳会談の1週間後の6月19日に金正恩委員長は訪中し、習近平国家主席と会談します。さらに、その後1週間ぐらいで中朝国境地帯に視察にいく。また、米朝直後に金永南最高人民会議議長が訪ロ。

訪中自体は、米朝会談の報告ということで、米朝会談直前の中朝関係を考えれば、それ自体は奇異なことではありませんが、ちょっと早すぎじゃないかというのが気になったののと、もう一つは、中国ではなく北朝鮮側の発表文の中で(あまり注目されていないようですが)、「習総書記は、今次訪中は中朝両党間の戦略的意思疎通の強化を重視する金委員長の意志の表れであるとし、金委員長の3月訪中後、中朝関係は新たな発展段階に入っている旨発言。」とされたことです。

素直に読めば、つまり、北朝鮮は、(今後ずっとかどうかわかりませんが)対米交渉を中国と共にやることにしたわけです。中国にそう言わされたのか、北朝鮮自身が望んでそうしたのかはわかりません。両方あり得ることです(習近平総書記の発言としつつ、中国では発表に入っていないのにわざわざ北側の発表だけで言及されている)。北朝鮮は、米朝首脳会談をやってみたけれど、米国の要求する非核化のプロセスが結構厳しくて北朝鮮の体制保証をしながら実施できるか安心できなくなった、または、米中の覇権争いが本格化する兆しが見える中で、中国が米朝ペースで朝鮮半島の帰趨が決まっていくプロセスを善しとしなくなったのかもしれません。

いずれにせよ、北朝鮮の非核化と平和条約締結のプロセスは、米朝だけではなく、より一層、米中の問題となってきたと感じます。私は、北朝鮮は、主体思想で70年生きてきたこともあり、北朝鮮の戦略としては、中朝改善だけでなく、親米も同時実現して、米中をバランスさせることで自立性を保つつもりなのだろうと考えてきましたが、もしかしたら、米中覇権争いが本格化したために、中国が北朝鮮に選択を迫り、結局、北朝鮮は中国を選んだということなのかもしれません。今日、ポンペオ長官が北朝鮮側と協議した結果を教えてくれるでしょうから、それでかなり感触はわかるのではないでしょうか。

中露が、安保理制裁を緩めるよう要請した(結局、反対されて引っ込めましたが)という動きもあります。ロシアも参戦してきましたし、以下述べますが、韓国が非核化以上に朝鮮半島の平和構築や経済構想に心奪われているので(同じ民族の半島国家として理解はしますが中露の動きと相俟って、なし崩し的に非核化がマージナライズ(矮小化)されていかないか心配される状況ではあります。ここは、米国がどれぐらい妥協せずに交渉していくかということが重要です。

6月26,27日と韓国の済州フォーラムで韓国の政治家、青瓦台含む政府関係者、有識者と接しましたが、南北融和、平和条約締結、その過程での南北連結、南北朝鮮とユーラシア大陸との連結に関する様々な経済・エネルギー構想など、要するに、非核化というより、平和構築と半島・大陸連結による経済構想の方に関心が傾いているとの感を強く持ちました。27日の中央日報の第一面は京義線と新義線の連結協議合意でしたし。そして、韓露首脳会談でも韓北ロ参加国の経済構想に合意。中朝間でも様々な経済構想がありますし、こうしたことが一気に動き出すと、朝鮮半島とユーラシア大陸にまたがるダイナミックな連携がより活発化することでしょう。

そこまで大きな構想でなくとも、特区への外国投資については、韓国企業や中国や米国も北朝鮮への投資を真剣に考えはじめていることと思います。むろん北朝鮮の非核化が進まなければ制裁解除はできず、絵に描いた餅になるわけですが、日本も、こうした動きを注視し、ダイナミックな構想を描いていくべきだと思います。拉致・核・ミサイルの問題の解決と矛盾はしないと思います。ミクロでとらえるのではなく、マクロ的な構想を持ちながら諸問題に当たる発想が必要です。

非核化については、割合保守的として知られる韓国人有識者も「cautiously optimistic」という感じで、そもそもが、非核化は韓国のイシューではなく、米朝で何とかしてくれる、逆に米朝でなければどうしようもない問題という感じで、韓国の立ち位置からすれば理解できるところではありますが、この調子でいくと、最終的には、在韓米軍の縮小・撤退もますますあり得そうな気がしてきました。

もちろん、韓国といってもいろいろな考えがあります。ムンジェイン大統領も親北左派ではありますが、リアリスティックな考えの持ち主であり、米韓同盟の重要性は理解していると思いますし、在韓米軍が北朝鮮が完全に安心できる存在となるまでの間、韓国にとって重要であることはわかっているでしょう。韓国国防部始め保守派とくればいうまでもありません。(「統一」だって、若者世代からすれば、徴兵制がなくなるのは大歓迎!ですが、経済負担や雇用を北に取られるのは嫌だということで一枚岩ではないでしょう。)

ですが、畢竟、在韓米軍は主として北朝鮮の脅威に対処するための存在です。平和条約が締結されたり、その方向にあれば自ずと韓国にとっての重要性が減じることにはなるでしょう。しかもトランプ大統領自身は、コスパの観点から縮小をいずれ考えたいと言っています。トランプ大統領は、本能的に割と本質を突く嗅覚ももっていることを考えて深読みすれば、別にコスパだけだなく、朝鮮半島自体、一体米国にとってどれぐらい軍事的戦略的価値があるのだろうか、と疑念を持っているのかもしれません。

さて、ここまで書いておいてなんですが、本当に、わからないのは、北朝鮮です。なぜ、核施設やミサイル施設の拡充という後ろ向きな動きをこのタイミングで米国に見せたのか(衛星で見られているのを承知でやっているはず)。ポンペオ長官と北朝鮮高官とのフォローアップ協議まで実に3週間もかかりましたし、その協議の直前にこうした後ろ向きな動きをして見せたわけです。米国に対し、高官協議前に「米国ペースにはならないぞ」ということを示す「戦術的」動きなのか。それとも、もう少し本質的に核を全て廃棄するつもりはない(ちょっと残しておきたい)ということなのか、しかし、こんなに早くそういう動きをすれば、北朝鮮が死ぬほど実現したいと思っていたはずの平和条約締結は遠のいてしまい、実現が危ぶまれます。

なぜ、そのようなリスクを冒すのか。または、核放棄に反対する国内勢力の問題なのか。北朝鮮は、一度、戦術的に米国批判をして、トランプからキャンセルを申し渡され、慌てて軌道修正したこともあり、米国を試す危険もわかっていると思います。もっとも、トランプ大統領が余りにも早く(翌日)手のひら返して会談オッケーにしたせいで、足元を見られているのか。

実際、米朝首脳会談の最大の成果は、北発か米国発かに関わらず軍事的事態はほぼなくなったということなので、怖くなくなったのか。それとも、中国から、米国との競争に中国は勝つし、北朝鮮の安全は中国が保障するからと言われて、本格的に方針を変える兆しなのか。しかし、それはどう考えても余りにもったいないし時期尚早なので、ありえないだろう。とか、わからないことだらけです。本日と明日のポンペオ長官と日本側の協議を踏まえ、さらに考えてみたいと思います。


編集部より:このブログは参議院議員、松川るい氏の公式ブログ 2018年7月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は、「松川るいが行く!」をご覧ください。