ベトナムIT事情①オフショア開発で終わってはいけない

福田 峰之

国会議員の秘書になりたての頃、今から30年前、ベトナムに何度か訪問しました。米国の経済制裁が解かれた際に、日本がODAとして何を支援すべきなのか、調査に行っていたのです。20代半ばの僕は、道路や橋、港を見て、そして鉄道に乗って、街はベトナム戦争の痕跡がいたる所で見れて、大きな衝撃をうけたものです。

ベトナムには日本大使館もなく、商社を始めとする何人かの日本ビジネスマンと食事をしたことを覚えています。30年ぶりのベトナムは、ハードとしての街は大きく変わり、自転車がバイクと自動車になり、配車サービスのGrabが街中に溢れていたのです。僕の覚えているベトナムが唯一残っていたのは、道路に椅子が並べられ、そこで食べるフォーの屋台、そして街で売られるフランスパンでした。

今回のベトナム訪問は、思い出にふけるためのものではなく、僕の専門分野であるIT事情を調査し、実感することが目的です。事情だけなら文献を読めば済む話ですが、その後ろ側にある真実や理由、可能性は直接出向かないと理解できませんし、関わる人の「思い」は言葉では説明不能で、肌で感じなくてはいけません。

僕にとって、ベトナムに対する関心事項は、社会課題解決のために、ITによるサービス自体を生み出し、提供することによって大きなビジネスを作り出せるのに、ベトナムではオフショア開発がメインになっているという点です。ハノイではIT関連企業を訪問して実態を確認してきました。

RIKKEI(代表取締役 Phan The Dung)は立命館大学、慶応義塾大学の留学生が中心として立ち上げたオフショア開発企業。日本からの受託が多く、日本語対応できるスタッフを充実させて、顧客とのコミュニケーションストレスを低減させている。中途採用が80%だが、プログラミングスクールを無料で開催したり、社員が学生にプログラムを教えインタ―ンから新卒で就職したりするケースが増えてきているという。

特徴的なのはシステムを納入した後に、顧客に対して詳細なアンケートを依頼し、企業内での個人評価、グループ評価をしている点です。その詳細なアンケートはノウハウの塊のようなものです。今後は受託開発ではなく、自らがサービス提供をしていく企業になりたいという思いをもっており、その1つの商品が自社内でも使っているアンケートの仕組みを含めた企業向け業務管理システムです。

INNOVATUBE(投資アナリスト Nguyen Phuong Lam)は、スタートアップのエコシステムを作り上げるために交流会を開催したり、マッチングの場や政府への繋ぎを提供する企業です。このエコシステムはベトナム企業だけでなく海外企業も使うことが出来るようになっています。同フロアーにはco-workingスペースが設置され、電動アシスト自転車、再エネベンチャー等、あらたなビジネスを考案する企業が入居していました。

GMO-Z.comRUNSYSTEM(副社長 Nguyen Tan Minh)は、GMOが出資している企業でダナン市、ホーチミン市、そして東京にもオフィスがあるオフショア開発をメインにする企業。日本企業とベトナム企業とのコラボレーションが始まっています。

3S Intersoft(社長 Nguyen Hoai Nam、副社長 射鹿良次)は通販会社の自社システムを開発することからスタートした受託開発を得意とする企業。

VIETNAM PRICE(CEO-Founder Nguyen Ngoc Diep)は、ベトナム版楽天モールを運営している開発とサービスを提供している企業。日本で成功している商店街モール事業をベトナムで行うために、投資家との交流イベントに参加して出資を依頼した。米国企業が投資を決定し、その後サイバーエージェント、リクルート、セゾンの投資を受ける。現在はハノイ、ホーチミン、ダナンでサービスを提供している。一方で、新規ビジネスに対する投資や、インキュベーターとしてco-workingスペースの提供も行っている。

ハノイでの企業訪問、IT人材からのヒアリング等を通じてベトナムIT事情が見えてきました。ベトナム政府は2025年までに、IT人材を15倍(100万人)にする政府目標を掲げ、外国語大学も含めて300校でITを教えているが、現実的には50万人の養成となるようだ。特に高度な人材育成は、ハノイ工科大学、ホーチミン工科大学、ハノイ国家大学となっているが、工科大学の出身者の多くは、技術に走り、ビジネスの部分は無関心となっている。

また2014年に政府はスタートアップ宣言「スタートアップ国家プログラム」を開始し支援体制は出来上がったが、人材育成に関するサポートなどは無く、思うように進んでいないという。しかし、2016年には約1500のスタートアップがあったという。一方で、政府はIT企業に対し4年目までは免税との政策的な支援はある。IT事業者も業界団体であるVINASA(Vietnam Softwere and Service Assochiation)を組織して社会的影響力をつけ始めている。

海外からの人材育成サポートの仕組みも確立されている。スイスが提供しているのはスイスインターシッププログラムと言いインキュベーションプログラムを学びにスイスに留学させている。そのブランチがベトナムにあり、プログラムのサポートを直接行いスイスに人材を送り込んでいる。

その他にもアジア開発銀行やフィンランドが提供しているプログラムもある。日本政府は日本の大学に留学するための奨学金を提供している。シンガポールは中学生の時代に優秀な人材をシンガポールで学ばせている。

中学生はシンガポール、社会人はスイス、組織的なネットワークよりも、学びの場でつくられた個人的ネットワークがビジネスの広がりや社会課題の解決に繋がっている。ベトナムのITエコシステム構築は、日本企業や個人は協力しているが、日本政府が協力しているわけではない。

ベトナムのIT企業の多くはオフショア開発がメインのビジネスになっている。コーディングのみであれば、日本の人件費の25%。しかし、結果的にビジネス部分のサポートをする人材が必要なので、人件費は日本の40%くらいとなっている。

ベトナムのIT人材は言われたコードを書くことは得意だけれども、社会課題を解決してビジネスを展開するデジタルビジネス的思考というものを学んでいないという。オフショア開発の競争性は人件費が安いということに尽きてしまう。

また個々人もコードを書くという単純作業による賃金の為、少しでも条件が良い企業があると移動してしまい、積み上げによる能力向上につながっていかない。経済が発展すれば人件費は上がる、そうなるとオフショアは更に人件費の安い国に移動することになってしまう。

今後のベトナムIT企業が歩むべき道は、国民に、そして世界に直接ビジネスを提供し、社会の課題をITで解決することにより大きなビジネスに繋げていくことだと思う。その為には、社会課題を自ら見出す目を育てること、生み出せれた新たなチャレンジを自由に実証できるフィールドを用意することだと思う。

しかし、これは日本でも出来ていないことであり、両国で役割分担しながら協力しあっていくことが1つの形だと思う。

その為のスタートとしては、世界の良いビジネスモデルをもってきて、ベトナムIT企業に呼び掛けて投資し、実証・実装をしてもらう。さらに投資を呼び込んで世界に展開する、こうした1歩からスタートしてみたらどうだろうか。


編集部より:この記事は元内閣府副大臣、前衆議院議員、福田峰之氏のブログ 2018年7月7日の記事を転載しました。オリジナル記事をお読みになりたい方は、福田峰之オフィシャルブログ「政治の時間」をご覧ください。