W杯に見た「政治とサッカー」の接触

2018年07月08日 10:00

(大会公式Facebookより:編集部)

第21回サッカー・ワールドカップ(W杯)ロシア大会は7日でベスト4が揃い、いよいよゴールが見えてきた。少し時間があるので、W杯にみた「政治とサッカー」の接触についてまとめてみた。

独週刊誌シュピーゲル(6月30日号)でW杯に参加したスペインのナショナルチームの内情が紹介されていた。スペインはロシア大会でグループ戦は突破したが、ベスト16戦でホスト国ロシアに敗戦して早々と敗退した。

スペインの戦歴は輝かしい。W杯覇者であり、欧州選手権の優勝国にもなったサッカー王国だが、ロシア大会ではその勢いは全く感じられなかった。黄金時代を築いたチームの世代交代が上手くいかなかったのか、大会直前の監督交代劇がチームの結束を崩してしまったのだろうか、と考えていた。だが、スペインの敗退の主因はどうやら別のところにあるというのだ。以下、シュピーゲル誌の記事を参考に説明する。

スペインで昨年9月、カタルーニャ州議会がスペイン中央政府から独立の是非を問う住民投票を実施したが、それ以来、カタルーニャ州独立運動が再び活発化していた。スペイン中央政府は同州の独立を拒否、独立派を分離主義者、テロリストとして糾弾。独立派指導者が国外に亡命したことはまだ記憶に新しい。

カタルーニャ州独立運動は今始まったものではなく、スペインが1479年に統一国を建設して以来、今日まで続いている。スペインはバスクなど17の自治州を抱える準連邦国家の多民族国家だ。その国がここにきて揺れ動いている。

ところで、その国家の苦悩をスペインのナショナルチームも背負っているというのだ。スペインのイレブンのうち、3人の選手はカタルーニャ出身だ。ジェラール・ピケ、セルヒオ・ブスケツ・ブルゴス、そしてジョルディ・アルバの3選手だ。彼らはいずれもFCバルセロナに所属している。

ナショナル・チームのデイフェンダー(DF)にはピケの他、セルヒオ・ラモスがセンターバックにいる。ラモスはレアル・マドリードに所属する一方、ピケはレアル・マドリードの宿敵FCバルセロナに所属、ラモスがスペイン中央政府を代表し、ピケは独立を願うカタルーニャ州出身のシンボルだという。そしてピケはスペインの為ではなく、カタルーニャ州のためにプレイし、ラモスはスペインの栄光のために奮闘するというのだ。

ロシア大会のW杯ではこの両者のチームワークが上手くいかずスペインは多くの得点を許してしまった。具体的には、グループ戦の3戦でスペインは5点を許した。その数は2008年の欧州選手権(EM)、2010年W杯、12年のEMの3大会での合計より1点少ないだけだ。これはスペイン・チームの2人のコンビネーションが上手く機能しなかったことを実証しているというのだ。

その上、スペインのフレン・ロペテギ監督はW杯開始直前、レアル・マドリードと次期監督契約を締結したことが明らかになり、解雇された。そのため、スポーツ・ディレクターが急きょ監督を務めた。すなわち、チームは本当の監督もチームのゴールを守るDFもいない状況でW杯に臨んだわけだ。シュピーゲル誌は「スペインには監督もDFもいない」と酷評している。

レーブ監督が率いる前回W杯王者ドイツでも同じような不祥事が生じている。W杯前にトルコ系の2人の代表(MFメスト・エジルとMFイルカイ・ギュンドアン)がトルコのエルドアン大統領と会見し、ユニフォームをもって大統領と記念写真を撮ったことが報じられると、「ドイツ代表の一員として相応しくない行動だ」という批判が高まった。2人をロシア大会に連れて行くのはよくない、といった声すら聞かれた(「W杯王者ドイツが『運勢』を失った時」2018年6月29日参考)。

それだけではない。ロシア大会では先月22日、スイス対セルビア戦でコソボ系の2人のスイス代表(グラニット・シャカ、ジェルダン・シャキリ)がゴール後、アルバニア国旗のシンボル、「鷲」のポーズをしたことに対し、「スイス選手がアルバニアのシンボルをするのは……」という声がスイス国内で高まった。ファンの中には「彼らはスイスのためにゴールしたのではなかった」といった失望の声すら聞かれた。外国人率25%を超えるスイスでは今回の2選手のようにスイスに定着した移民家庭出身が多い。

サッカーは世界最大の競技人口を有しているが、フィールドでは分からないが民族間の紛争や時の政情の影響を受けるサッカー選手も出てくる。国歌が歌えない移民出身の選手もいた。ロシア大会は多くの人間ドラマを見せながら、いよいよゴールに向かってベスト4が競う。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年7月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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