共和党支持者は「本当に」保護主義者になったのか?

2018年07月08日 11:30

Gage Skidmore/flickr(編集部)

共和党支持者は自由貿易に否定的で保護主義的になった、という主張を日本でも目にするようになった。

たしかに、直近数年間の世論調査の結果として、共和党支持者が自由貿易に否定的になり、民主党支持者が自由貿易に肯定的になり、その傾向が逆転したためにいまや共和党支持者は保護主義を求めているという議論がある。

実際、ピュー・リサーチ・センターによる世論調査では「「自由貿易協定は米国のためになる」と答える人の比率が、2009年には共和党員で「良いこと」57%、「悪いこと」31%、11年には共和党員での賛否が逆転し、16年には最高で共和党で「悪いこと」63%、「良いこと」29%にまでとなったとされている。(現在は反対46%、賛成43%)これらの世論調査の数字を引用して、共和党支持者は「自由貿易に否定的になった」または「保護主義を求めるようになった」とする主張がある。(ハーバード大学らによる調査も取り上げられる傾向がある。)そして、その根拠は共和党支持者の白人貧困層が通商政策に対する主張を転換し、民主党支持者の労働組合の影響力が落ちたことが指摘されている。

しかし、多くの共和党保守派、つまりそれらの自由貿易協定に反対するとされる人々に触れる筆者は、このような共和党支持者に対する見解は共和党というイデオロギーの固まりを知識階層の人々はいまだに正確に理解できていない証左のように思う。

最も注目すべき基本的なポイントは、上記の調査を見ても分かるように「共和党支持者が否定しているものは、自由貿易『協定』であって、自由貿易『自体』ではない」ということだ。日本人には何を言っているのか分からないと思うが、この「協定」と「自体」の間には果てしないイデオロギー的な断絶が存在している。

この問題を理解するためには、共和党支持者にとっては「自由貿易協定」は経済問題ではなく、あくまでも国家主権に関わる問題だと認識されていることを理解しなくてはならない。そして、これは何故NAFTAやTPPといった多国間協定が共和党政権ではなく民主党政権において推進されてきたのか、という問いの答えにもなっている。

2012年大統領選挙当時、FTAやWTOを重視した共和党候補者であったロムニーは共和党主流派の候補者であった。ロムニーは共和党の中でもそれらに懐疑的な見解を持つ保守派とは遠い候補者であり、そのイデオロギー的傾向は民主党に近い人である。それに対して、ヒラリー、オバマ、エドワーズといった民主党側候補者は須らくNAFTAやWTOに対して懐疑的・否定的な姿勢を見せてきた。これは選挙対策上「経済政策としての自由貿易」に反対する労組に媚を売った結果だったのだろうと推測する。

しかし、現実には、オバマ大統領は政権中期から方針を転換し、FTAやTPPなどを推進していくことになる。これは長年にわたる労働組合の衰退によって民主党の保護主義的な傾向が減少したことももちろんであるが、民主党の支持基盤が沿岸部のグローバル志向が強い都市の人々に移行したことが重要な変化であるように思う。

これらの新しい民主党の支持基盤の人々は米国の自由を国際協定などで押し広げることによって実現しようという傾向がある。それらの人々は政策立案・アドボカシー能力も高く、衰退化していく労働組合とは一線を画す影響力を民主党内で持つようになっている。元々他国に対して介入主義的である民主党の中では、米国が推進する自由の発想を国際機関や国際協定を使って、国家主権を超えた形で実現することにイデオロギー上のためらいはない。

一方、共和党員はこのような国際機関や国際協定が自国の国家主権を侵害しているという認識を持つ傾向がある。これは共和党という護憲政党の支持者、つまり合衆国憲法を創った時の連邦政府、中央政府に対する不信感の延長線上に、この問題が位置付けられていると理解するべきだろう。つまり、国際機関や国際協定は国家のもう一段上の存在であり、それらは米国民の主権を侵害するものだという発想である。

ただし、これは断じて冒頭の議論にあったような保護主義的な自由貿易を否定する見解ではない。むしろ、その逆であり、中央集権的な政府機能への拒絶が「自由貿易協定」によって自国の民主主義でアンコントローラブルになることを恐れているだけで、共和党支持者は税の一種である関税の引き下げを始めとした「自由貿易自体」に否定的ではない。あくまで関税を一時的に支持していたとしても、それは保護主義ではなく他国の関税及び非関税障壁を解体するという建前の上での話に過ぎない。

この問題の本質は経済上の問題ではなく、あくまでも米国という国家創設時に立ち戻るイデオロギーの問題こそに本質がある。ここ数年来の間に「自由貿易協定」に対する共和党支持者の不信感が高まったことは数字の上ではそうであろう。しかし、それは「保護主義を求めるわけではなく」、あくまでも「中央政府≒国際機関」や「自分たちの主権が侵害される国際協定」への反発として捉えるべきだ。「自由貿易協定」に共和党支持者が反発を強めた理由は、オバマ大統領がそれらを推進したことに対する反感が強まったという側面もあり、共和党支持者にとっては民主党の大統領が進める「自由貿易」≒「国際協定」というイデオロギー上のイメージに問題あるということだろう。

米国、特に共和党というイデオロギー政党の支持者を分析する際に、経済的な下部構造が政治的主張である上部構造を規定する、というマルクス的な分析を当てはめることは明らかな間違いであり、トランプ大統領や共和党政権への正しい理解への妨げになるだろう。自由貿易が経済的に自らを傷つけるか否かという基準だけで共和党支持者は投票行動を行わないことは彼らと付き合いが本当にあるなら自明のことだ。

筆者が見る限りはハーバード大学を始めとした米国のリベラルの牙城となっている大学等が共和党保守派のイデオロギー的傾向に根本的に無理解であることから、その受け売りで成り立っている日本の知識産業では米国の根深い部分への理解が進んでいないように思う。

米国及び共和党理解は単純な数字の変化だけではなく、日本人とは全く異質なイデオロギーを持つ人々への洞察が欠かせないものであり、他国の情勢分析のプロフェッショナルとは政治思想に関する分析の素養も持つべきであろう。

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渡瀬 裕哉
国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員

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