グリーンマフィアが暗躍するESG投資とは

2018年07月09日 06:00

主流化するESG投資

ESG投資という言葉がある。環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)に配慮している企業を重視・選別して行う投資を意味する。環境では二酸化炭素の排出量削減や化学物質の管理、社会では人権問題への対応や地域社会での貢献活動、企業統治ではコンプライアンスのあり方、社外取締役の独立性、情報開示などを重視する。

国際連合が2006年、投資家がとるべき行動として責任投資原則(PRI:Principles for Responsible Investment)を打ち出し、ESGの観点から投資するよう提唱したため、欧米の機関投資家を中心に企業の投資価値を測る新しい評価項目として関心を集めるようになり、欧米の資本市場での特に年金ファンドといった公的資金の投資尺度として主流になっている。

例えば、ある東証一部上場の日本の老舗卸売発電大手企業はかつて株主に占める外資比率が高かったが、火力発電が主流という事でスコア下がり今や外資資金が一斉に引き上げて株価に影響を与えかねないなどということが現実に起きている。日本のファンドや機関投資家の間でもESG投資は急速に浸透している。

追従する日本企業

7月7日の日経新聞にこんな記事が載った。

再エネ促進へ異業種連合 イオンやドコモ 国鈍く、民間先行

イオンやソフトバンクグループなど100超の企業・団体が6日、再生可能エネルギーの普及に取り組む「気候変動イニシアティブ(JCI)」を設立した。気候変動に手を打つ国内最大の異業種連合だ。背中を押したのは投資マネーの動き。環境や社会問題への取り組みを評価する「ESG投資」が広がる中、国の動きが鈍い再生エネ普及に民間の危機感が募る。

自己資本利益率(ROE)ならぬ「ROC(炭素利益率)」で企業を評価する。純利益をCO2排出量で割った値だ。記事の中で、「こんなにCO2を排出している割に、利益が少ないですね」。ある素材メーカーの投資家向け広報(IR)担当者は、欧州の機関投資家に指摘されて驚いたそうだ。

グリーンマフィアのしたたかな戦略

ESG投資がここまで興隆した背景には「グリーンマフィア」とでもいうべき人々の長い活動の歴史がある。再生可能エネルギーや電気自動車を普及させて新しい産業を興し、気候変動にも対応しようというグリーンエコノミーを打ち出した。聖地はドイツで、後にオバマ大統領がグリーンニューディール政策で呼応した。コンサルタントを中心とするインテリジェントで意識の高いリベラル派知識層がエコシステムを形成した。公式には、1997年に京都で開かれた国連気候変動枠組み条約第3回締約国会議(COP3)で採択された温室効果ガスの排出削減に関する法的な枠組みを定めた国際ルール京都議定書から始まる。

それからあれよあれよという間に欧州で太陽光発電が普及して、その流れが本格化する。2009年12月に開催されたデンマークのコペンハーゲンの第15回会議(COP15)でその盛り上がりが最高潮に達した。雪の続く寒い日だったが、会場は熱気に包まれていた。当時、アジア開発銀行という外交ゲームの場で上席気候変動専門官をしていた私もこうした「グリーンマフィア」の流れに乗じて、国連のUNFCCCのパチャウリ議長を担ぎ出してワークショップを開催し、アジアへの太陽光発電普及の怪気炎を上げた。これが面白いくらいにうまくいった。

この会議では気温上昇2度以内の目標、2050年までの世界全体の排出量を50パーセント減、先進国全体の排出量を80パーセント減を目指した。どこまで拘束力を持った合意ができるかが焦点となった。ところが、中国の一方的な振る舞いが世界主要国のひんしゅくを買い、中国に対する見方が180度転換した歴史的分水嶺となった。途上国と先進国の間の対立が鮮明になり、まず米国が参加せず、次に日本が脱退した。

この会議を契機に太陽光発電はアジアで大きく普及することになるが、皮肉なことに仕掛け人であるグリーンマフィアたちに利益は廻って来なかった。新興太陽光発電メーカーQセルズは一時的には世界ランクトップに躍り出たが、すぐに中国国営企業とのコスト競争に破れて倒産。米国のオバマ銘柄のベンチャーの多くも倒産。当時創設された二酸化炭素排出権取引市場は値段がつかない状態が続いた。いわゆる気候変動スペシャリストは不遇の時代が続いた。

そこで彼らは大きな教訓を得た。それは政府間(GtoG)でやると、ろくなことはないということだ。すぐに外交の駆け引きに使われるし、政府のフットワークは遅いし、政策変更リスクが付きまとう。そこで彼らは方針を変え、政府筋が支援するNGOを作って資本市場から民間企業を揺さぶろうという戦略に出た。いくつかの非政府組織が誕生するがここではCDPとRE100を取り上げる。

CDPとRE100

CDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)は、機関投資家が連携し、企業に対して気候変動への戦略や具体的な温室効果ガスの排出量に関する公表を求めるプロジェクトだ。このプロジェクトは2000年に開始し、主要国の時価総額の上位企業に対して、毎年質問表が送付されており、企業側からの回答率も年々高まってきていて日本企業もその洗礼を受けている。しかしその支配構造は謎に包まれる。

RE100は、国際環境NGOのThe Climate Group(TCG)が2014年に開始したイニシアチブだ。The Climate Groupは2004年に、当時の英国ブレア首相の支援を受け、英国ロンドンに設立され、現在122社が加盟している。RE100プロジェクトに加盟するには、事業運営を100%再生可能エネルギーで行うことを宣言しなければならない。こちらのガバナンスも謎だ。

こうした欧州からの「雰囲気」が世界の資本市場を覆い、ESG投資が流行り言葉になっている。日本企業は明らかに振り回されている。

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酒井 直樹
株式会社電力シェアリング代表

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