沖縄知事選の乱:安里氏は「琉球のトランプ」になれるか

2018年07月09日 11:30

事務所開きで挨拶する安里繁信氏(新しい沖縄を創る会FBより)

2018年の政治日程で、自民党総裁選に次ぐ重要選挙となる沖縄県知事選(11月18日投開票)の行方が混沌としてきた。

左派勢力からの県政奪還を目指す自民党沖縄県連は5日、宜野湾市長の佐喜真淳(さきま・あつし)氏を擁立する方針を決めたが、同じく自民推薦での出馬を狙っていた物流・広告会社シンバホールディングス会長の安里繁信(あさと・しげのぶ)氏が、出馬の構えを崩しておらず、保守分裂になるのか波紋を広げている。

知事選を巡っては、前回初当選した翁長雄志氏にがん治療による健康問題が浮上。さらに翁長知事を支援する左派勢力「オール沖縄」が推す現職が名護市長選で敗れるなど退潮傾向にあっただけに、仮に保守分裂となった場合、一騎打ちで激戦を競り勝つ目算だった自民党県連だけでなく、安倍政権にとっても思わぬ誤算だ。

というのも、安里氏が強行出馬で票割れし、佐喜真氏と共倒れになれば、辺野古基地建設に反対してきた左派県政の続投となり、国政・日米関係にも影響する可能性もあるからだ。

自民党の“牙城”占拠の奇襲!

安里氏は自民県連の候補者選考委員会に先立ち、3日に出馬表明。一部には「副知事狙いのパフォーマンス」などと近い将来の「ディール」を予期する見方もあったが、しかし、自民県連が知事選の選挙事務所で長年使用してきたビルの一室に先手を打つ形で借りてしまい、政界関係者やメディアに波紋を広げている。

沖縄タイムスの記事でこの「奇襲」作戦の一報を知ったとき、筆者は2年前の都知事選直前の小池百合子氏を彷彿とさせるパフォーマンスに興味を覚えた。安里氏本人か参謀の入れ知恵なのかわからないが、いずれにせよ、メディア受けする「空中戦」のセンスは感じさせる。

安里氏は48歳。グループ全体で年商142億円(2015年度決算)の企業を率い、沖縄出身で初めて日本青年会議所会頭にも就任するなど、「青年実業家」として売り出してきた。

若いだけあり、ツイッターの活用も積極的で、4年前の選挙のあとツイートがない翁長知事(9日朝時点)、フォロワー数が500程度でこの1年使っていない佐喜真氏と比べても、自らに好意的なネット民の反応をRTするなどしている。全国で屈指の若年比率が高い沖縄にあってはウケる可能性はある。自民党の候補者選定に関しても、確かに彼が主張するように「佐喜真氏ありき」で進んでいたのはたしかで、憤慨する理由も理解はできる。

ただし、官邸を含め、佐喜真氏を選んだ理由には相応の根拠もあるだろう。政治的に付き合いやすい関係というのはもちろんだが、ほかの大型選挙での候補者選考と同じく、極秘の世論調査で“ふるい”をかけて「翁長知事にもっとも勝てる可能性のある」候補者という数字が弾き出されたのかもしれない。また、米軍基地や尖閣対応などの安全保障問題も見据えた時、政治経験のある人の方が即戦力になりやすいのは確かだ。

一方、琉球新報によれば、安里氏に対しては公明や維新にネガ反応があるようで、こうしたことをトータルで勘案した候補者選考だったのだろう。

庶民ウケしづらい経営者の選挙戦:人間臭いドブ板選挙ができるか

それでも、安里氏が何が何でも出馬したいというのであれば、右からは「業界団体+創価学会」の自公の圧力を受け、左では労組、共産党などのオール沖縄と対峙するという手厚い組織票に挟まれ、厳しい選挙となるのは必定だ。となれば、まさにトランプ的、小池的な、既存政治の支持層とは異なる人たちを掘り起こすしかない。

人口の少ない沖縄で、なおかつ知事選の投票率も6割以上とこれまで高かった中で、“新しい政治”を希求する階層がどれほどいるのか心許ないのは確かだが、いずれにせよ、一般論として経営者として知名度が高い新人候補者の「庶民ウケ」はいいとは言えない。東京の選挙でいえば都知事選でワタミ創業者の渡邉美樹氏が、参院選でタリーズコーヒージャパン創業者の松田公太氏が、それぞれ都心部で得票を集めながら、下町地域では伸び悩んだことにも表れている。

一方、国情は違うが、不動産王だったトランプ氏の場合は、テレビのバラエティ番組の司会者としての圧倒的な知名度があった。そして、ラストベルトの労働者などに丁寧に訴求する「人間臭い」選挙マーケティングを展開し、民主党のリベラル政権や、共和党主流派を推す都会のエリート層のための政治とは異なるストーリーを提案し続けた。

右でも左でもないポピュリズムと斬新な政策がカギ?

つまり、いずれにせよ、経営者らしい戦略的なマーケティングをもとに、あとはいかに庶民、中小零細企業をターゲットにしたドブ板選挙ができるか。さらに言えば、名護市長選で「中国からパンダを連れてきて景気対策」などと頓珍漢な経済政策を掲げる左派勢力とも異なる活性化政策を打ち出せるのか。

経営者らしい発想もアピールポイントだろう。たとえば沖縄が全国で一番貧しいままになっている原因の一つが、全国学力テストで万年最下位が続く中学生の学力低迷だ。これにバングラデシュの貧困層への教育で成果を出したようなDVD授業を活用したり、NPOとの連携で補習授業を展開したりして学力の底上げをはかるなど、斬新な政策アイデアを魅力的に語りかけることがきたら、無党派層や若者層に多少は訴求できるかもしれない。

ときに事務所占拠のような「炎上芸」も交えつつ、安里氏は、旧来型保守とも左派層とも違う文脈でポピュリズムを展開できるのか。近年の沖縄の政治家にはいなかったタイプだけに、このまま本当に出馬を強行するかが注目される。

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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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