バロンズ:金融株の低迷が鳴らすシグナルとは

2018年07月09日 11:30

バロンズ誌、今週のカバーは委任状争奪戦を取り上げる。2017年10月に決着がついたものの、P&Gと物言う投資家のネルソン・ペルツ氏の委任状争いは前代未聞の領域に達した。辛くも勝利したP&G側とペルス氏率いるトライアン・ファンド・マネジメントは委任状争いに6,000万ドルを投入、米国史上で最大規模を記録したものである。アルミ部品メーカーのアーコニックとエリオット・マネジメントとの委任状争いの3,250万ドルの2倍近くに膨らんだ。P&Gとトライアンは委任争奪戦についてコメントを避けたが、投票過程が複雑で膨大なコスト負担が必要であるとの認識で一致しており、委任状争いに変化が必要との見解を寄せる。では、どのような変革が求められるのか、詳細は本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、今週は米6月雇用統計と金融株の低迷を取り上げる。抄訳は、以下の通り。

長きにわたる強気相場、労働市場のブームをもたらす—Aging Bull Produces a Booming Jobs Market.

米国の労働市場は、一段と勢いづいた。家計調査をみると、失業率こそ6月は5月から上昇したものの、労働市場に60.1万人が流入し、10.2万人が新たに職をみつけることができた。引退していくベビーブーマー世代の影響で労働人口は減少傾向をたどっていたものの、25〜54歳の労働人口で回復を示す。事業所調査である雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)では前月比21.3万人増と、市場予想の19.5万人増を上回った。平均時給も前月比0.2%上昇、前年比では2.7%の上昇となった。

今回の結果は、他の経済指標と一線を画す。例えばISMは燃料価格ではなくトラック運転手不足により輸送コストが上昇したと報告したが、JPモルガンによればトラック輸送業・非管理職・生産労働者の平均時給は前年比1.3%の上昇に過ぎない。

トラック運転手とIT関連、5月ベージュブックなど人手不足が最も指摘される業種でも、平均時給の伸びは明暗分かれる。

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(作成:My Big Apple NY)

エバーコアISIは、米4〜6月期の成長率につき前期比年率4.0%増と試算すると共に、労働時間は2.4%上昇を予想しており、労働生産性をめぐり1.6%の上昇を見込む。単位労働コストは1.0%の上昇にとどまるため「インフレが抑制され、利鞘を確保できる」状況だ。

中小企業楽観度指数を公表する全米独立企業連盟(NFIB)によれば、人材不足を背景に賃金は力強い上昇の兆しをみせている。それでも、現状で賃金インフレが発生していない理由は、高賃金の引退者に代わりに低賃金の若い世代が職に就いていることが挙げられよう。

雇用統計・NFPをセクター別でみると、製造業が前月比3.6万人増加し年初来で最高となった。ストラテガス・グループは、製造業の力強さを受けて関税を課すなら今かもしれないと指摘する。

米国は、中国輸入品340億ドルに25%の追加関税を発動した。トランプ大統領はモンタナ州の集会で、中国が報復措置を講じるなら追加で2,000億ドル相当、さらには3,000億ドルの中国製品に関税を賦課すると宣言済みである。

これまでのところ、追加関税の効果は貿易戦争で予想される規模とは程遠い。6月FOMC議事要旨では、設備投資の手控えや先送りにつながると明記された。しかし、経済的な影響はアジアを含め限定的である。マシューズ・アジア・ファンドのアンディ・ロスマン氏は、中国が輸出主導から内需主導へ舵を切ったため、中国に対する追加関税の打撃は想定以下にとどまる可能性があると指摘する。いずれにしても、ウェルズ・ファーゴ・インベストメント・インスティチュートは、関税をめぐる議論は行ったり来たりを繰り返した後、80%の確率で好結果につながると予想、多くの市場関係者と同じく楽観的だ。

貿易の問題は、強気派の勢いを削いでいない。S&P500とナスダックは週足で3週ぶりに上昇に転じ、それぞれ1.5%高、2.4%高で引けた。S&P公益指数は1996年以来となる4週続伸を果たし、2%高でクローズ。ダウも0.8%高で週を終え、3週続落にブレーキを掛けている。

経済指標は、ルネッサンス・マクロ・リサーチ率いるジェフ・デグラーフ氏が指摘するように、景気拡大期の終焉でみられるような平均を上回る成長率と物価上昇を示している。その間に、米株相場は平均以下のリターンにとどまるものの、公益をはじめ不動産投資信託、エネルギー、生活必需品、素材がアウトパフォームする傾向が高い。市場はまだ、弱気派に席巻されていないようだ。

とはいえ、銀行株がさえない点は市場からの警告とも受け止められよう。年初来のパフォーマンスを振り返ると、金融 セレクト セクターSPDR(XLF)は4.9%下落し、SPDR S&P500トラスト(SPY)の2.3%上昇より弱い。背景にイールドカーブのフラット化が考えられ、米2年債利回りと米10年債利回りのスプレッドは28bpと2007年以来で最小を記録した。

フラット化は、投資家が将来的に金利上昇を見込んでいないというメッセージを伝えている。金利デリバティブ市場でも同様で、1年物金利スワップレートは5日に2.622%、1年先フォワードレートは3.008%だった。後者は、6月13日時点の3.068%から低下したわけだが、なぜなのか。

FOMCのドット・チャートは6月、年内あと2回の利上げを見込んでいることを示した。しかし、市場の読みは異なり、FF先物市場は9月利上げの確率を80%としているが、12月は拮抗している。

過去をひも解くと、イールドカーブのフラット化は経済減速を先取りしてきた。2007年8月以来のフラット化は金融危機の始まりを意味し、欧州のマネーマーケットが混乱に陥るなか、Fedは同年8月17日に公定歩合を引き下げた。その年の12月には景気後退に沈み、9ヵ月後には金融危機のクライマックスとしてリーマン・ブラザーズが破綻した。

金融株の低パフォーマンスは、経済減速の典型的な予兆なのだろうか。テクニカル・リサーチで定評のあるルイーズ・ヤマダ氏は「金融株の弱さは金利ではなく、国際決済銀行(BIS)の年次レポートが指摘したように世界の債務がグローバルGDP比で179%だった金融危機の水準を超え、217%に積み上がった事実にあるのかもしれない」と語る。

債務者、主にエマージング国経済は膨大なドル建て債務を抱え、金利上昇に脆弱だ。また米企業のレパトリも、世界でのドル供給の逼迫を促す。結果、ドル建て債務を背負う政府や民間の債務者は現金をかき集めるため、株売却を余儀なくされる状況だ。金融株の低パフォーマンスは、こうした市場のストレスを反映しており、2008年とは違うと言えるだろう。

また、ヤマダ氏はFANGからG—グーグルの親会社アルファベットが脱落する可能性をにらんでいる。足元、アルファベットの株価が他銘柄と比較し低迷中であり「上昇を牽引するセクターでのテクニカル上の乱れは、大幅な市場調整の前触れ」というわけだ。資産を守る上で、慎重であることに十分というものはない。

——世界の債務拡大はBISだけでなく、IIFも警告を発してきました。米株も、2月をはじめ下落局面では債務比率の高い銘柄が狙い撃ちされていたものです。これまで金融危機の引き金を引いたのは過剰債務であるだけに、強気相場の終焉は債務過多の銘柄によってもたらされかねません。バフェット指数は過去3番目の高水準まで上昇し、株価が割高であることに間違いないですからね。

(カバー写真:Steve Walser/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年7月8日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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