欧米間に新しい「戦線」が拡大

2018年07月13日 11:30

ブリュッセルに本部を置く北大西洋条約機構(NATO)で11日、29カ国加盟国の首脳会議が開催され、2024年までに加盟国の軍事支出を国内総生産(GDP)比で2%をクリアする合意内容を実行する決意を表明した「首脳宣言」を採択した。NATOの軍事支出問題で批判的だったトランプ米大統領も署名した。

▲NATO首脳会談に参加した加盟国首脳(2018年7月11日、NATO公式サイトから)

▲NATO首脳会談に参加した加盟国首脳(2018年7月11日、NATO公式サイトから)

トランプ大統領は同日、ストルテンベルグ事務総長との朝食会の席でドイツを名指しで批判し、物議をかもした。同大統領は、「ドイツはロシアから天然ガスを購入するために数十億ドルを支出し、エネルギー供給をロシアに依存している一方、対ロシア防衛のためには米国の資金に依存している」と指摘、ドイツを“ロシアに捕囚されている”と批判し、「ドイツは経済大国だ。即刻、防衛支出を増額できるはずだ」と述べた。

その数時間後、メルケル首相は、「ドイツは東西に分断されてきたが、再統一後は自主的な主権国家としてやってきた」と反論、トランプ氏の「ドイツはロシアに捉われている」との発言には、「ドイツ軍はアフガニスタンでは米軍を支援している。わが国はアフガン派遣では米軍に次いで2番目だ。わが国は米国の利益も守っていることになる」と強調するとともに、「わが国はドイツ再統一ではNATOに助けられたが、今日、ドイツはNATOの為に貢献している」と述べた。

ちなみに、ハイコ・マース独外相が、「わが国はロシアにも、そして米国にも捕囚されていない。わが国は自由世界を保証する国の一国だ」と強調するなど、トランプ大統領のドイツ批判発言についてベルリンでも大きな反響を呼んでいる。

なお、メルケル首相は、「わが国は冷戦終了後、他の国と同様に軍事支出を削減したが、ここにきて軍事支出を2014年の決定に従ってGDP比2%の目標を達成するために努力する」と説明し、トランプ氏の要求に応じる姿勢を見せた。

NATO加盟国は2014年、軍事支出ではGDP比で2%を超えることを目標としてきたが、それをクリアしているのは現在、米国の3・5%を筆頭に、ギリシャ2・27%、エストニア2・14%、英国2・10%だけで、その他の加盟国は2%以下だ。米国の軍事総支出は2018年の段階で推定6230億ドルで、他の28カ国総合計の3120億ドルのほぼ倍である。その意味でトランプ氏の「欧州加盟国は米国の軍事支出で自国の防衛を守っている」という批判はフェイク情報ではない。トランプ氏批判の多い独週刊誌シュピーゲルも「トランプ氏の主張は正しい」と認める一方、欧州加盟国の米国依存体質の脱皮を促している。

冷戦時代は誰が「敵」かはっきりしていた。欧米民主国家はソ連・東欧共産政権と対抗し、NATOはワルシャワ条約機構と対立した。その後、共産政権が次々と崩壊し、ワ条約機構も1991年7月に解散した。 ポスト冷戦時代に入ると、国際テロ組織「アルカイダ」やイスラム過激テロ組織「イスラム国」(IS)が台頭し、NATOも新たな「敵」の台頭に対応を強いられた(NATO軍はアフガンに約1万6000人の兵力を駐留)。

一方、プーチン大統領が率いるロシアは大国復興を目指す一方、世界第2の経済大国となった中国は軍事的勢力を拡大し、新しいシルクロード構想(「一帯一路」)を唱える習近平国家主席は「中国の夢」を追い続け、欧州まその勢力圏を拡大してきた。ロシアと中国が再び欧米諸国と衝突する兆候すら出てきたわけだ。

問題は、欧米間で軍事防衛問題だけではなく、貿易問題からイランの核合意問題まで、新たなフロント(戦線)が出現してきたことだ。トランプ大統領は鉄鋼、アルミへの追加関税導入を表明。その直後、自動車とその部品に対しても同様の追加関税を導入する意向を表明。それに対し、欧州では保護貿易主義の傾向を示す米国への批判の声が高まってきた。イラン核合意でもトランプ大統領の一方的な離脱表明を受け、英国、ドイツ、フランスの3国はその対応に苦慮している、といった具合だ。

本音をいえば、欧州各国は、北朝鮮の独裁者金正恩氏(朝鮮労働党委員長)に対してすら「新しい友となれるかもしれない」と語るトランプ氏の行き当たりばったりの外交に当惑と懸念を感じ出しているのだ。

なお、11日の首脳会談では、マケドニア共和国の加盟交渉についても話し合われた。ストルテンベルグ事務総長は記者会見で、「加盟国はマケドニアとの加盟交渉の開始で一致した」と述べた。マケドニアの加盟問題ではギリシャが国名の呼称の変更を要求し、拒否権発動をしてきたが、マケドニアが「北マケドニア」と国名の変更に応じたことを受け、アテネは拒否権を撤回したことを受けたものだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年7月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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