株価変動リスクを管理したリスクテイク

企業価値は、事業キャッシュフローの現在価値である。優れた投資家は、本質的なリスク、即ち、企業価値の変動と、それに付随する株価変動のリスクを混同しない。従って、市場要因等で株価が一時的に下落する可能性を十分に顧慮したえで、株式投資の本来の目的である企業の事業キャッシュフローの持続的成長に参画していく、つまり、適切に株価変動リスクを管理しながら、正しく賢く、本来の事業キャッシュフローについてのリスクテイクに徹しているのである。

多くの投資家は、ちょうど逆に、事業キャッシュフローのリスクテイクという本質を見失い、株価変動に一喜一憂するなかで、リスク管理に十分な注意を払わない。故に、資金使途等の都合で、あるいは、より多く、心理的弱さで、売るべきではないところで売り、損をしてしまう。

同じことだが、信用取引を使って、資金効率を上げて、より大きな利益を得ようとすることは、しばしば、追加証拠金の負担に耐え得ずして、売るべきではないところで売る結果となり、典型的に、リスク管理の不備により、株式投資本来のリスクテイクに失敗する例を作り出している。

こうした問題を、長期投資の必要性というふうに表現する人は、世のなかに大勢いる。しかし、そこでは、短期的な株価変動を本質的な要素としているからこそ、長期投資の必要性が強調されているとみられ、株式投資の本質が事業キャッシュフローにかかわるリスクテイクであることについては、不明確にされている。

むしろ、問題を時間の要素に解消することで、上場株式固有の付随リスクであるにすぎない株価変動を、さも株式投資の本質的なリスクテイクの対象であるかのように誤認させる弊害を生んでいるようである。実際、上場していないプライベートエクイティでは、企業価値の本源的変動こそあれ、市場要因に付随する株価変動というリスクはないのである。

株式に限らず、全ての投資対象について、何が本源的リスクテイクの対象で、何が付随リスクであるか、改めて、明確にする必要があるのである。

 

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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