アルゼンチンのゼネストの背後にある労働組合の影響力

2018年07月14日 06:00

ambito.comより引用(編集部)

南米アルゼンチンでマクリ大統領になって3度目のゼネストが6月25日に決行された。このゼネストを推進したのはペロニスタに密着した「労働総同盟(CGT)」である。

ペロニスタとは戦後の9年間アルゼンチンの発展を指揮したペロン将軍の影響を受けた政治家が創設した政党「正義党」の党員が一般にペロニスタと呼ばれている。

ペロン将軍はその後1973年に一度政界に復帰したが、1年も満たない内に心臓発作で他界。副大統領だった彼の夫人イサベル・ペロンが大統領に昇格した。しかし、その2年後に軍事クーデターが発生して軍事政権が1982年まで続いた。イサベル・ペロンはスペインに亡命。

軍事政権の後、1989年から2015年までペロニスタの正義党から大統領が選出された。カルロス・メネム、ロドリゲス・サアー、エドゥアルド・ドゥアルテ、ネストル・キルチネール、クリスチーナ・フェルナンデスと5人のペロニスタが大統領に就任してアルゼンチンの政権を担ったのである。なお、途中1年間だけペロニスタ以外からひとり大統領が選出されている。

CGTは長年このペロニスタに密着しながら、労働者の為の組合として存続して来たのである。軍事政権の後、1983年からマクリ大統領の政権下の最初のゼネストまで40回のゼネストが決行されているという。

しかし、経済的に安定していたネストル・キルチネールの時はゼネストは1回だけ。また、CGTの賃上げ要求などを容易に受け入れていたクリスチーナ・フェルナンデスの政権下ではゼネストは一度も決行されていない。しかし、その時のアルゼンチンの経済は最悪の状態で、彼女の政権下での非公式のインフレは2009年を除いて毎年20%以上。彼女の政権下で最悪の2014年の非公式インフレは38.53%と記録されていた。その年の政府発表によるインフレは23.9%であった。当時、政府が公表するデーターは信頼性に欠けるというのは良く知られていた。

現在のマクリ大統領はペロニスタではない。それも関係してか、彼の政権下で今回のゼネストが3度目である。CGTで一番影響力をもっているとされている運輸組合ベテランのウーゴ・モヤノ委員長は今回のゼネスト決行に当たって「クリスチーナ(フェルナンデス)の時は誰もが飯が食べられた。ところが今は、飯が食べられない人がいる」と述べてマクリ政権を批判した

今回のゼネストの規模が大きくなったのは、ペロニストではない労働組合の「アルゼンチン労働者センター(CTA)」もストに参加したからである。CTAもストに加わったのは政府が国際通貨基金(IMF)に金融支援を要請し、それに応えてIMFは500億ドル(5兆4000億円)の融資を決定したからである。それは即ち、政府は緊縮策をより徹底して実施するようになるということを組合側は察し、また、高い率のインフレの前に給与の値上げ要求も政府が容易に受け入れない可能性があると見たからである。

アルゼンチンの多くの国民にとって鮮明に記憶に残っているのは2001年の預金封鎖に繋がったIMFの融資であった。当時、財政再建にIMFはアルゼンチン政府に厳しく緊縮策の実施を要請したのであった。

その影響もあって、アルゼンチンの国民の目にはIMFは国の富を貪る組織だ映っているのである。政府に賃上げを常に要求してこれまで存続して来た労働組合にとって、常に緊縮策を要請するIMFの介入は都合が良くないのである。CGTは今年始めに昨年のインフレ24.8%と今年のインフレの趨勢を見据えて、まずは15%の昇給を要求している。今年の政府のインフレ予測は27%前後と見ている。

アルゼンチン経済の発展を妨げているのは労働組合の影響力が非常に強いということである。彼らが存続できるための条件は組合員の為に給与の値上げを達成することである。その要求が出来る裏付けとして、アルゼンチンはインフレがマンネリ化して上昇しているという現実である。即ち、インフレの上昇と給与の値上げが追いかけごっこをしているのである。それに加え、労働組合は労働条件の改善などを政府や経営者側に要求するのである。

またもうひとつ経済の発展を妨げるいる事情がある。大手企業の寡占化である。一つの企業が市場で100%の占有率をもっているというケースが結構ある。その影響で、市場で価格競争が存在しない。生産業者の思うように価格が設定されるという問題がある。それが、またインフレ率が常に高い傾向になる理由である。

ラテンアメリカで労働組合に労働者が加盟する比率が一番高いのはアルゼンチンだとされている。その比率を見るとアルゼンチン40%、ブラジル16.6%、チリ14.4%、メキシコ9.2%、コロンビア5.7%となっており、組合員は1700-2000万人いるとされている。労働組合の数も3000以上あるという。その中で王者として君臨して来たのがCGTのトップのウーゴ・モヤノ委員長である。

彼らの影響力が如何に強いかということを示す具体例がある。マクリ大統領が労働大臣にホルヘ・ロウソンを任命することを決めていた。ところが、組合側がそれに反対。理由は彼は企業側に近い人物だというのである。そこでマクリはホルヘ・トゥリアカを任命した。彼の父親は90年代のペロニスタの組合員でジョッキークラブの会員になることを労働組合員としては初めて申請した人物であった。

更に、アルゼンチンの労働組合が資金力でも如何に強力であるかを示す例として、彼らは大学、病院、報道メディアなどの所有者でもある。サッカークラブも彼らによって運営されているクラブもある。

2016年にはアルゼンチンで左派系の新聞『Página12』を買収している。また、フランシスコ法王にも謁見するほどである。

労働組合と言っても、彼らは一つの巨大組織のようなもので、政権を担う政党が代わっても労働組合の存在を無視できないのである。軍事政権も彼らと取り決めをしたという。勿論、カトリック教会も彼らがアルゼンチンの社会経済に重要な存在であることを認めているという。だから、フランシスコ法王にも謁見できるのである

マクリ大統領はペロニストではないので、ペロニストに関係していない労働組合を擁護する傾向にあるという。ペロニストではない組合の社会奉仕活動に政府は資金を提供したり、その組合員に医療サービスを保障したりしてペロニスタの労働組合と差別化するのだという。勿論、ペロニスタの労働組合の方が遥かに影響力は強いので、彼らの要求も無視できない。

軍事政権の後、マクリ大統領の前まで正義党に属さない二人の大統領が登場しているが、二人とも政権途中で経済問題から辞任している。ペロニストではないマクリ大統領もそれを意識しているのか、労働組合との関係維持には慎重に対応しているようだ。その為にもインフレの上昇を如何に抑えて、組合側の常なる昇給の要求を過少に抑えるかというのが大統領として政権維持に必要な条件となっている。

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