30代男在宅介護者からみた「万引き家族」

奥村 シンゴ

映画「万引き家族」公式サイトより:編集部

万引き家族を鑑賞してきた。

30代少しで認知症祖母の在宅介護を経験して6年目の私は、「犯罪を犯してでも家族の愛や絆の形は色々あっていい」というこの映画の描き方に強烈な違和感を覚え、「なんでこんな映画がカンヌ最高賞を受賞したのか」と疑問を抱いた。

簡単なあらすじはこうだ。

東京の下町に、父と母と父の息子と母の妹が父の母の持つ今にもつぶれそうな古い家で一緒に生活していた。

父は日雇い建設業、母はクリーニング工場のパート、ほかに頼れるものは父の母の年金だけで、お金がない生活。
足りない分は父と子が万引きを繰り返す。

そのような生活環境下の中、万引き途中で虐待をうけている少女を連れて帰ってくる。
母の妹はJK見学店で働いている。
貧困な家庭で血縁関係がなくても、海に遊びに行くなど仲むつまじい家族の姿が描かれている。

ある日、父の母が突然死亡したが、父と母は死亡届を出さす、死体を埋めて父の母の年金を受給し続け、他の家族には「誰にも言うんじゃねえよ」と言う。

その後、夜逃げを敢行しようとするが警察に捕まり、年金不正受給、死体遺棄、(虐待された少女を勝手に連れてきたので)誘拐の罪になる。

そして、誘拐した少女は元の家に戻り、父の息子は施設に入る。

一つだった家族がそれぞれバラバラになっていく。

虐待されたからといって誘拐したり、お金がないからといって万引きを繰り返したり、年金を不正受給したりしながら生活しても、幸せな家族もあるというような描き方がされていたと思う。

だが、それらは家族の愛や絆の形以前に、犯罪行為だ。

私は祖母と母親と3人兄弟(私は長男)の5人で生活していた。

母親はガンだけで3回、ほかに脳梗塞、拒食症、甲状腺機能亢進症など、何度か命に関わる病気をして体はけっして強くなかった。

だが、その分祖母が女一人で3人を育ててくれ、生活はギリギリだったが、不自由を感じることなくすごせた。

その後、弟と妹は結婚し家庭をもち、祖母は認知症になり、孫の私を中心に母親にも手伝ってもらいながら、一緒に介護をしている状況だ。

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家庭をもっていることもあり、弟と妹家族は祖母の家から近いが、会いにくることは1年に数回だけだ。

母親が病気で倒れたり、祖母が認知症になり、随分と家族の形が変わった。

また、私が長男であることを理由に介護を半ば押しつけられはしたが、祖母は私にとって母親以上の存在なので、働きながらできる限りみていきたいと思っている。

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周囲からは「30歳すぎで在宅介護なんて気の毒だよ」、「将来どうするの?地獄だよ」、「兄弟は手伝ってくれないの?何してるの?」などと言われるが、まだ祖母も母親も、疎遠ながら弟も妹も生きてくれている。

私自身もまだまだ無名ライターではあるが、任される仕事も少しずつ増え、友達、仲間、恋人もいて、幸せな方だ。

世間には、生きたくても病気や事故で亡くなってしまう人、ある日突然体が動かなる人、災害で肉親や友人を突然失い深い悲しみにくれる人など沢山いるが、犯罪を犯すことはレアケースである。

どんな複雑な家族の形であろうと、大抵の人は真面目に働き収入を得て生活しているわけで、この映画がなぜカンヌ最高賞を受賞したのか、違和感と疑問が残った。

奥村 シンゴ フリーライター
大学卒業後、大手上場一部企業で営業や顧客対応などの業務を経験し、32歳から家族の介護で離職。在宅介護と並行してフリーライターとして活動し、テレビ、介護、メディアのテーマを中心に各種ネットメディアに寄稿。テレビ・ネット番組や企業のリサーチ、マーケティングなども担当している。