日経の大記者が示唆した自社の欠陥

中村 仁

日経コーポレートサイトより:編集部

閉鎖型体質で経営刷新の限界

日経新聞の「本社コメンテーター」と名乗るからには、日経を代表する大記者なのでしょう。その大記者がオピニオン欄で「日本株、浮かぶ3つの異質」という日本企業論を、紙面の半分を使って論評(7月18日)していました。筆者は梶原誠氏といい、日経は「当社の看板ライター」と、紹介しています。

証券市場における日本企業の問題点を分かりやすく書いています。それはいいとして、読んでいるうちに、「何だ、日経そのものの弱点、日本の新聞そのもの、日本型ジャーナリズムの欠陥と全く一致」と、思えてきました。文中の「日本企業」という表現を「日経新聞」と置き換えてみると、「日経を始めとする日本の新聞は日本でしか通用しない業態で、世界の経営刷新の波に乗り遅れている」と、感じました。

梶原氏は「日本株の3つの異質」として、まず「買いたい株が少ない。競争力のある企業のすそ野が狭い」と、指摘しています。第2の異質として、「買いたくない株が多い。いわば競争力の企業が多い」と、追い打ちをかけます。第3の異質として、「企業に改革を促す装置に乏しい。経営者の市場も小さい」ことをあげています。つまり「日経の3つの異質」と重なります。

市場では買えない新聞社株

列挙した日本企業の問題点は、日経そのもの、日本の新聞そのものに通じるのです。本人はそこまで意識して書いたのではないでしょう。書いているうちに、結果として日経新聞問題になってしまったのでしょう。「買いたい株が少ない」、「買いたくない株が多い」どころか、新聞社の株は上場もしておらず、各社は譲渡制限を設けているので、「市場では買いたくても買えない」のです。経営が低迷する今となっては、投資家は買えても買わないことでしょう。

日刊新聞紙法という法律(会社法)によって、「当該企業の事業に関係する者に譲渡を制限する」とあり、さらに譲渡の際は役員会の承認がいるはずです。新聞社の株は創業家、関連企業、役員、社員などに限って所有され、一般企業のように株式市場で自由に取得することができません。閉鎖型社会によって身を守れても、時代の流れから取り残されるという代償を払うはめになるのです。

これは商業主義、利益主義を最優先させる企業によって、新聞社が買収され、言論や表現の自由、公共性が歪められるのを防ぐ装置でした。そうした例外措置が言論の自由を守るために必要な時期はあったとしても、市場で新聞社株を取得できないことによる弊害も大きくなりました。日経に限らず、新聞界に共通する弊害です。

新聞経営者(創業家、会長・社長)が人事権を一手に握れば、他の役員、社員は抵抗できなくなります。株式が公開されていれば、株主が経営者に「物申す」ことができ、経営の透明度は増します。株式市場の存在価値の一つは、外部からのチェック機能なのに、新聞社に対してはそれがないのです。

部外者によって株式が所有されていないため、内部者による内輪の論理で経営が進められます。その結果、販売店網の維持、各地に分散している印刷工場の維持が優先され、思い切ったネット戦略を選択できず、紙印刷中心の旧態以前の経営方式から脱皮できないでいるのです。

経営者の内部昇格に安住

梶原氏が指摘する「経営者の市場の狭さ」はどうでしょうか。主要企業のトップが交代した場合、他社での勤務経験のあるトップは33%に過ぎず、北米の82%、世界全体の74%に比べ、他社から大物の経営者を引っ張ってくる経営風土ではありません。

この比率は日本企業全体の話であり、新聞界だけをとってみれば、他社からトップを起用することはまずなく、ほとんどが内部昇格です。内部昇格の多くは、意のまま操れる部下を自分の一存で後継者にするため、社長が交代しても思い切った戦略の転換はできないのです。こうしてネット時代の情報企業としては、時代からどんどん取り残されていく。

新聞社系列のテレビ局をみても、親会社の新聞社から社長や役員が送りこまれることが多く、ネット時代のテレビ局の経営を刷新していくことに遅れをとるのでしょう。新聞社の系列によって、地方テレビ局も系列化し、零細で過剰なテレビ業界がいまだに維持されているのです。

日経の役員構成をみると、会長、社長、専務3人、常務3人、それ以下の役員もすべて日本人です。グローバル化で世界的視野で経営戦略を練らねばならません。買収したFT紙はともかく、編集局の記者の全ては日本人でしょう。他の新聞社も同じでしょう。主要産業、企業で、上か下まですべてのポストが日本人という構成は極めて特殊で、グローバル化に対応できるとは思えません。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2018年7月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。