建国202周年を迎えたアルゼンチン。大統領の支持率は僅か36%

Pagina12より

アルゼンチンの労働組合のひとつSUTERHのビクトル・サンタ・マリア委員長とウルグアイの雑誌『Caras y Caretas』の発行責任者アルベルト・グリリェがワールドカップが開催されている期間中にウルグアイのエンリケ・ムヒカ前大統領(2010-2015)をインタビューに訪問した。そのインタビューで、ムヒカはアルゼンチンのことに触れて次のように語った。

「私はウルグアイ人だが、ブエノスアイレスの港から蹴飛ばされたアルゼンチン人だ。だからアルゼンチンがどのように見えるかということに多く触れるのは余り都合がよくない。あたかも自分の国にいるようであるが、(ウルグアイ人だから)誤解されるようになる」

「不安を抱きながら言えることは、アルゼンチンが上手く行かないと、(その影響で)我々ウルグアイは強打を受けることになってしまう」

「私が(アルゼンチンについて)恐れを感じているのは負債のことだ。なぜならそれをいずれは(IMFに)返済せねばならないからだ」

「アルゼンチンは余りにも自然資源に恵まれているというのが不幸だ。だから無駄ずかいするようになってしまう。だけど、私の里だ。胸が痛む」

そのアルゼンチンが7月9日にスペインから独立して建国202周年を迎えた

それに因んで、就任してから2年半が経過して国民からほぼ60%の支持を失っているマクリ大統領が演説を行った。その一部を以下に紹介する。

「現在のアルゼンチン国民は真実の中で言論を尊重し、対立は後ろに置いて、国民の為に一丸となって働いた世代であったと(後世で)記憶されることを私は期待している」

と述べ、経済上の問題から対立が激化しそうな現在のアルゼンチン国民に

「我々は雷の中を通っているが、それは多くの状況から生み出されたものである。そこには我々の政治方針が理由によるものから、外国市場によるもの、前政権によって取られた政治などが問題としてある。しかし、国民は(政府を)信頼すべきだ、何故なら政府はどの方向に向かっているか、そして与えられた目標までどのようにして辿り着くかということを知っているからだ」

と語った。

マクリ大統領がこのような発言をしたのも、彼の政権が国民から信頼を失っているというのを承知しているからである。現地紙『Página12』が7月8日付で1200人を対象にした世論調査の結果を報じている。その結果の詳細を以下に示す前に、同紙はアルゼンチンの政権を長年に担って来た正義党に癒着した労働組合が買収した紙面であるということを知っておく必要がある。即ち、マクリ政権は正義党にとって反対勢力だということである。

この世論調査によると、4人の内の3人がマクリ政権を不安視して否定的に見ているという。また、10人中8人がマクリ政権の経済担当の閣僚を殆ど信頼しない、あるいはまったく信頼しないと答えている。

信頼、楽観、冷静という3つの感情がマクリが率いる政党「カンビエーモス(改革しよう)」を支持する要因となって、それが2015年12月の勝利を導いた。その支持が現在では25%以下にまで落ちているという。そこには、例えば、カンビエーモスの主要政策の一つであった貧困の解消に全く成果が出ていないという批判がある。

この貧困層の生活改善にも直接関係しているインフレが次第に上昇している。アルゼンチンでは高いインフレというのは慢性的になっているが、今年のインフレは30%になる見込みだと最近報じられるようになっている。6月の時点では27%と報じられていた。

マクリが大統領に就任した翌年の2016年は40.1%、2017は25.6%という結果が出ていた

アルゼンチンで高いインフレから開放されない理由で一番の問題は、各産業部門で寡占化が顕著になっていることである。その為、企業は市場での価格競争を避けることが出来て自社の利潤追求に向かうことが比較的容易にできる。例えば、200社の大手企業の内の60社は市場で100%のシェアーを占めているというのである。値上げが容易にできる環境にある。

例えば、自動車の部品でも80%から90%はアルゼンチン国内で生産できる能力を持っているにも拘らず、30%程度しか生産しない。それによって少量の生産で割高な価格を維持する。それは勿論、量産しての売上に比べ低い。しかし、そのようにして法人税を低く抑えようとするのである。そのようにして得た利益はタックスヘイブンの国に送金する。

企業のこのようなやり方に加えて、アルゼンチンは労働組合の力が非常に強い国。労働者の組合への依存率は40%で、ラテンアメリカで一番高い率を維持している。この労働組合がインフレで価格が値上がりする度に賃金の値上げを要求して来るのである。それを政府は飲まないと、容易にストを決行してしまうという傾向にある。

この様な悪循環の中で景気が低迷しているアルゼンチンでは最近2年間で、企業の創設と廃業との差し引きで絶対数として4787社が市場から姿を消したことになるとマルコス・ペーニャ内閣首席(首相)が発表している。その結果は雇用の減少に繋がることになる。

不況の影響もあって、アルゼンチンの国営通信社『テラム(Télam)』も同社のスタッフの35%に匹敵する350人以上の社員の解雇を発表している。

正義党が団結してひとりのリーダーが存在していれば、マクリ政権は1期だけの大統領で終わるようになるのは明白であるが、現在の正義党にはリーダーが不在である。

クリスチーナ・フェルナンデス前大統領が次期大統領選に再度立候補するという噂もあるが、彼女では党内をまとめるだけの力はもうない。しかも、訴訟問題をいくつか抱えている。

20世紀初頭のアルゼンチンは世界のリーダー国の一つであった。しかし、近年のアルゼンチンは混迷の時代をさまよっている。