バロンズ:トランプ氏の利上げ牽制より、景気後退シグナルに注意

2018年07月23日 06:00

バロンズ誌、今週のカバーにプライベート・デットの一種であるダイレクト・レンディングを掲げる。金融規制の強化を受け浸透してきたダイレクト・レンディングは、ウォールストリートで確固たる地位を築きつつあり、関連ファンドに資金が流入中だ。ダイレクト・レンディングの融資額は銀行が取り扱う金額以下の1,000万ドル〜2.5億ドルで、利払い・税金・償却前利益(EBITDA)で5,000万ドル〜1億ドル規模の企業が対象となる。プライベート・エクイティからヘッジファンド、保険会社、資産運用大手など信用市場のプレーヤーの誰もがダイレクト・レンディングを扱い、個人投資家も関連ファンドを取得することが可能だ。

問題は、その融資の審査が困難であることだ。投資格付け会社ムーディーズによれば、5月のハイイールド債発行額は1,046億ドルと、2017年1月の914億ドルや金融危機以前の最高だった818億ドルを軽く超えている。ダイレクト・レンディングで組成されたファンドが出回るなかで、今後どうなっていくのか。詳細は、本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測する名物コラムのアップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、今週はトランプ大統領によるFed批判と景気後退のサインを取り上げる。抄訳は、以下の通り。

トランプのFed批判、裏目に出るリスク—Trump’s Fed Smackdown Could Backfire.

米露首脳会談より、ニュースのヘッドラインを飾ったのはトランプ大統領の利上げ牽制だ。19日付けのCNBCインタビューで、Fedの利上げに対し「喜ばしくない(not thrilled)」と発言。翌20日付けのツイッターでも「米国が利上げを行いドルが上昇するに合わせ、中国と欧州連合(EU)、その他も自国通貨を低位に抑え、我々より競争上で有利な立場を奪っていった」と非難した。こうしたトランプ大統領のFed批判は中央銀行の独立性を脅かすものであると同時に、自分の意に添わない者への牽制でもある。

2016年の米大統領選で、トランプ氏は自身を「低金利派(low-interest-rate person)」と語った。自らを「債務王(king of debt)」と称し、「自分ほど債務を知る人間はいない」、「債務を駆使して財を成し、上手くいかない時は債務について交渉したものだ」と述べていただけに驚きではない(筆者注:そして4回の債務不履行経験がある)。

しかし、トランプ大統領は2016年に当時のイエレンFRB議長に対し、金利を低位に抑えていたかどで「恥じるべきだ」と攻撃、「間違った株式市場」を演出したと訴え、貯蓄者がほぼゼロ金利の影響で金利収入が十分ではないと責め立てた。

振り返れば、Fedの独立性に対する恭順とも言うべき敬意は、比較的近年のものだ。クリントン政権のルービン財務長官は金融政策には関与せず、その一方で「強いドル」を宣言し、次の2人の大統領下の財務長官も引き継いだ。米国の歴史をひも解くと、1896年のかの有名なウィイアム・ジェニングス・ブライアン下院議員(民主)による”Cross of Gold”演説のほか、利上げに反対したジョンソン大統領(当時)やニクソン大統領(当時)のように、Fedあるいは金融体制に干渉してきた政治家は少なくない。そして現在、トランプ大統領は再びFedを槍玉に挙げ始めた。

ホライゾン・インベストメンツのグレッグ・バリエール首席ストラテジストは、Fedヘの批判が思わぬ事態を生むと予想する一人だ。同氏は「パウエルFRB議長は優秀なプロフェッショナルで、政治的圧力に屈することはない人物だが、市場の見方に注意を払うだろう」と語る。仮にFedが年内に利上げを2回、2019年も2回行えば、トランプ大統領だけでなく民主党のリベラル派であるエリザベス・ウォーレン上院議員(マサチューセッツ州)やバーニー・サンダース上院議員(バーモント州)などから非難されるに違いない。しかし仮にFedが利上げペースをさらに緩めれば、バリエール氏いわく「パウエルFRB議長が政治圧力に屈したとの疑惑が浮上する」だろう。つまり、パウエルFRB議長がどのように動こうが、問題視されるということだ。

トランプ大統領がFedに利上げ牽制を放つ前から、イールドカーブは黄信号を点灯させてきた。米2年債と米10年債のスプレッドは前週に25bpと、2007年7月以来の水準まで縮小している。

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(作成:My Big Apple NY)

イールドカーブのフラット化は、これまで景気後退のサインとして余りにも有名だ。しかし、別のスプレッドは不吉な兆しを示すものではない。マーケットウォッチのマーク・ハルバート記者は、米短期証券と米10年債のスプレッドを挙げ、元NY連銀エコノミストでレンセラー工科大学のArturo Estrella教授や元FRB理事でコロンビア大学の教授であるフレデリック・ミシュキン氏が使うモデルを基にすれば、景気後退の確率は10%に過ぎない。

イールドカーブは完全無欠の指標とかけ離れており、特に金融危機後の中央銀行による非伝統的政策の後では尚更だ。JPモルガンは、世界全体におけるマイナス金利の国債は7月11日時点で9.2兆ドル相当に及ぶと試算。バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチは、イタリアの政局やドイツの連立崩壊危機が欧州の金利を低下させ米国にも波及したと説明する。

MKMパートナーズのマイケル・ダーダ首席エコノミストは、米12ヵ月物と米10年債のスプレッドを注視し、これらが逆イールドとなり、且つ狭義のマネーサプライ(M1)の伸びがマイナスに傾けば、3〜8四半期後に景気後退に陥ると予想する。しかし、現状はどちらもそうはなっていない。

ノーザン・トラストの元首席エコノミストで、現在はレガシー・プライベート・トラストで投資アドバイザーを務めるポール・カスリエル氏も、米12ヵ月物と米10年債の利回りスプレッドを指標と捉え、前週までに43bpへ低下したと指摘する。カスリエル氏によれば、同時にFedが利上げを行うことでマネーサプライが減少、銀行による貸出も鈍化してきたという。

Fedは9月19〜20日開催のFOMCで25bpの追加利上げを行うことは確実だが、12月12〜13日開催のFOMCで利上げした場合、カスリエル氏は「2019年に景気後退に陥るリスクに備える必要がある」と主張する。米4〜6月期実質GDP成長率が4.5%増となる見通しで、本当に景気後退に入るのだろうか?

少なくとも、警告シグナルは黄信号を点灯させている。イールドカーブ以外に、ドル高が進行、金先物が下落し、さらに銅先物など産業関連の商品先物が下落し、流動性の伸び鈍化を示唆する。力強く成長し米株相場が過去最高値で推移する陰で、金融引き締めは経済の最大の向かい風であることに変わりはない。


イールドカーブもさることながら、記事文末に登場したように銅先物など商品先物価格の下落は懸念材料です。特に銅先物は6月に過去最高値を更新してから15%下落し、弱気相場に接近中。中国が銅消費の半分を担うなかで、トランプ政権の対中関税措置が嫌気され、ドル高も重石となっていることは明白です。このままいけば、2015年夏に経験した中国ショックの二の舞を踏まないとも言い切れません。9月頃ときて思い出されるのは、2,000億ドルの対中関税措置をめぐる動きです。8月20〜23日に公聴会を開催、8月末に公聴会後の反論意見が締め切られる予定ですよね。今年はリーマン・ショック10周年にひと波乱あってもおかしくなさそうです。

(カバー写真:Nicola Romagna/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年7月22日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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