ついに上場「メルカリ」は日本の成長戦略も変えるか

6月15日の経済財政諮問会議・未来投資会議合同会議(官邸サイトより:編集部)

政府による「未来投資戦略2018」を絵に描いた餅にしてはならない

先月6月15日、政府は「未来投資戦略2018」を閣議決定した。
この戦略は「Society5.0」「データ駆動型社会」への変革を掲げ、日本の新たな成長をめざす。
世界では「デジタル革命」が潮流となり、データと人材の争奪戦が行われている。こうした世界の流れは一方で一部の企業や国家がデータを独占する「データ覇権主義」へとつながるのではないかとの懸念も広げている。

また最近は、データ社会は共産主義との親和性が高いなどと揶揄されることも多くなってきた。
中国の台頭など、世界の動きは数年で大きく変わり続けているとも言える。

政府は、状況の打開のためには、日本の強みを活かした上で、世界と戦えうる新たな日本経済を創り上げていかなければならないと感じているようだ。

政府による整理では、日本の強みは、技術力・研究力、人材、リアルデータ、資金といった豊富な「資源」とされており、同時に、人口減少、少子高齢化、エネルギー・環境制約等といった課題先進国である事も強みになるとしている。

今回の「未来投資戦略2018」では「Society 5.0」で実現できる新たな国民生活や経済社会の姿を具体的に提示し、従来型の制度・慣行や社会構造の改革を一気に進める仕組みを創ると示されている。

「Society 5.0」とは、第4次産業革命技術がもたらす変化や新たな展開の事であり、政府は「未来投資戦略2018」で5つの点で社会が変わるとしている。

社会変化の1つ目として上げているのが、「生活」や「産業」が変わるという視点だ。
働き手不足が言われて久しいが、自動運転や自動翻訳などや、移動・物流革命を起こすことで、こうした人手不足・移動弱者の解消といった「自動化」と、地理的・時間的制約の克服による新サービス創出によって、交通が不便地域においても医療や教育などもふくめ最適なサービスを享受できるようになるなど地理的要因を超え「遠隔化」と「リアルタイム化」が起こるとしている。

2つ目は、経済活動の「糧」が変わるという視点だ。
20世紀までの経済活動の基盤は「エネルギー」や「ファイナンス」だったが、こうした経済基盤の糧は、ブロックチェーンなどの技術革新で変革する可能性があり、日本にとって弱みとなった部分を克服した新たな時代になる可能性があるとしている。

デジタル新時代の基盤と言われる良質な「リアルデータ」は、日本の最大の強みでもあり、これを最大限に活かすチャンスでもある。

この他にも、「行政」や「インフラ」、「地域」や「コミュニティ」や「中小企業」、「人材」についても変わるといった視点が並べられているが、どれも世界の中で言われているものの羅列であり、普段からこうした次の時代を考えている人たちから見れば目新しいものがあるわけではない。

与党に限らず、政界の提示する成長戦略はこれまで与党も野党も結局の所、選挙の際に提示されるのは、バラマキ政策のつじつま合わせとして、その財源確保のために数字合わせで提示されるだけ、実態の成長とは程遠いものが多かった。

今回においても、成長戦略として文字を羅列するだけでは「絵に描いた餅」にしかならない。
ただ一方で、これまで旧態依然の産業支援しか提示してこなかったものから、データ競争など次の時代に向けての取り組みに大きく出遅れたこの国の成長戦略に対して、ようやく、大きく転換しようという新たな提示が出てきたこと、またこうした改革を本気で進める気があるのであれば、この国の経済においてもまだ間に合うのではないかと期待するところでもある。

ついに「メルカリ」が上場。何に期待され、何に答えなければいけないのか

メルカリ公式サイトより:編集部

こうした中、ほぼ同時期の6月19日、「日本唯一のユニコーン」などと注目を集めるフリーマーケットアプリの株式会社メルカリ(以下、メルカリ)が東証マザーズに上場した。

上場初日の株価は、市場の注目の高く、公開価格を大きく上回り時価総額は7,000億円を超えた。
メルカリの上場は、単に株式における期待やベンチャーとしての成長への期待だけでなく、日本経済そのものの今後に対する期待も大きい。

先に紹介した「未来投資戦略2018」において、政府は、時価総額が10 億ドルを超えるユニコーンを2023年までに20 社創出するとしている。

円換算すれば、時価総額が約1,100億円の企業ということになる。

国内においては、メルカリの上場によって、「メルカリに続くユニコーンはどこだ?」と期待が高まるところだが、米国や中国と比べ日本はそもそもその目標にエントリーするベンチャーの数も少なく、規模も小さい。

米国の調査会社のデータでは、現状の日本のユニコーン企業価値合計はわずか30億ドル程度、一方で米国や中国は3,000億ドルを優に越しており、その差は100倍を超える。

かつて「Japan as No.1」などと言われた幻想は捨て、現実の中でどう5年後10年後に世界と戦っていける経済状況を創って行けるか、またこれまでの成功体験という過去を捨て切ってかじを切りきれるかが問われているのではないだろうか。

こうした状況はいかにして打開できるのかと、時期を同じくして、経済産業省は、「第二のメルカリ」誕生を目指し、新たなプログラム「J-Startup」を立ち上げた。

選定された「J-Startup企業」約100社は、政府からVCを通じたファイナンス支援、規制緩和の仕組みである「サンドボックス」の利用支援、知財戦略の構築支援、海外展開の支援を、大手企業など民間のサポーター企業などによって、協業機会の提供、経営権・社内専門人材等によるメンタリング、オフィススペース・実証実験場等の提供、アクセレーションプログラムなどへの参加優遇などが支援される事になっている。

こうして政府による新たな成長戦略である「未来投資戦略2018」、経産省によるユニコーン企業創出プログラム「J-Startup」、その前段で起爆剤としてとくに金融分野などで期待される規制緩和の穴を開けるための仕組みである「サンドボックス」など、こうした一連の動きを見ると、なんとなくこの国の新たな産業創出や世界と戦える状況に改善されるのではないかと期待してくるところだが、古今東西、国の成長を支えてきたのは、政府の政策の推進ではなく、実際のところその実態を担う企業がどう生まれ、どう業績を伸ばすかにかかってきているところもある。

こうして考えて具体的な実態がそれぞれどの様に起こっていくことが期待されているのかを考えていくと、100社の筆頭として唯一ユニコーンとして選ばれている「J-Startup」は勿論、「未来投資戦略2018」においても、「サンドボックス」など規制緩和の仕組みにおいても、今の日本経済を打開する存在として、メルカリに期待されている事が大きい事が分かる。

公民連携による新たな成長戦略の実態を創り続けて行かなければ日本経済の未来はない

世間では未だに「森友加計問題」が言われるところもあるが、冒頭にも伝えたように、データ覇権主義、FinTecや仮想通貨による新たな金融競争と世界からの動きが危惧される中で、次世代への投資、取り組みで世界に大きく取り残されかけているこの国の経済をもう一度大きく転換していく必要があるのではないだろうか。

「未来投資戦略2018」で具体的に重点分野やフラッグシッププロジェクトとして掲げられているテーマは、「次世代モビリティ・システムの構築」、「次世代ヘルスケア・システムの構築」、「エネルギー転換・脱炭素化に向けたイノベーション」、「FinTech/キャッシュレス化」、「デジタル・ガバメントの推進」、「次世代インフラ・メンテナンス・システム/PPP・PFI手法の導入加速」、「農林水産業のスマート化」、「まちづくりと公共交通・ICT活用等の連携によるスマートシティ」、「中小・小規模事業者の生産性革命の更なる強化」の9つ。
どれも斬新なものではないが、近い将来かならず来る現実である。

こうした視点に基づいて今後の成長戦略推進の枠組として示されているのが、重点分野について官民の叡智を結集するため位置づけられた「産官協議会」の設置であり、「目指すべき経済社会の絵姿」共有として実現に必要な施策等は2019年夏までに取りまとめる事になっており、変革を牽引する「フラッグシップ・プロジェクト(FP)」の選定と推進を図るとされている。

今後こうした取り組みを本気で実践していこうとすれば、各業界の中でも、また政治的にも、さらには国民の中からも大きな抵抗が生まれてくる可能性もある。

しかし、これから先、5年10年というスパンで本当にこの国をより豊かな国にしていくためには、現代政治において経済は絶対に切り離せない問題であり、与野党を超え、さらに国民が立場を超え、前向きに議論すると共に、公民の垣根を超え、次の時代に向けて連液していく必要があるのではないかと思う。

タイミングを同じくして、筆者、高橋亮平も社長室政策企画参事として株式会社メルカリにもジョインする事となった。

政治行政からの取り組みだけでなく、実際に経済の担い手としても日本経済の立て直しにおいて、メルカリを通じても新たなモデル構築の一翼を担えればと思っている。

今週7月24日には平将明 衆議院議員、経済産業省商務情報政策局情報経済課長などを招き、「次の成長戦略と政策形成におけるベンチャー企業の役割」といったパネルディスカッションも行う。

これまでにない、一歩先の取り組みに踏み込んで行きたい。