「中部電力、FIT後の住宅太陽光の電力を購入」の衝撃

2018年07月26日 08:30

来年10月に電力業界を大きく転換させるイベントが起きる。40万軒の屋根に太陽光発電を載せた住宅が卒FITすなわち固定価格買い取り制度の適用が終了して自由に電力を販売する権利を得る。この人たちをターゲットに、多くの業界関係者が様々なビジネスを仕掛けている。

一番顕著なのは、自家消費を増やすためにリチウムイオン蓄電池を販売しようとする動きだ。こういった初期の頃に太陽光発電を導入した方はイノベーターの可能性が高いから、一般のお客様より新しい事に興味を持つ可能性が高い。だから電池の値段が多少高くても、自家消費を増やせたり、将来グリッドに蓄電池から電気を売る、すなわちデマンドレスポンスや仮想発電所(VPP)に参加して収入を得るという行為に興味を持つ可能性が高い。蓄電池の訪問販売をする事業者の格好のターゲットだ。

あるいは余った電気を相当程度高い価格で買い取る動きもここに来て急速に出てきている。Looopは1kWhあたりで6円以上で買い取ると早くから宣言して、囲い込みに力を入れている。水戸のスマートテックは人数限定ながら10円で買い取ると発表した。

つい最近まで、1円でも買電を引き受けする事業者は現れないのではという懸念があった。しかし考えてみれば、こうしたお客様はイノベーターでもあり、一般のお客様より電気を多く使ってくれるから、電力小売事業者にとっては優良顧客だ。だから買い取りは赤字覚悟で高値にしても、顧客接点を高めて囲い込もうとする動きが出てくるのは当然だ。

ところが、そうした事業者にとって悩ましいのは、誰がいつFIT切れになるのかという顧客情報を持ち合わせていないので、ターゲット営業ができないことだ。不特定多数にダイレクトメールを送ることはコスト上見合わない。プル型営業、すなわちウエブサイトやショッピングモールでイベントを開いてもそういった顧客に遭遇する確率はかなり低いので現実的ではない。

ところが、その情報を持ち合わせている圧倒的なアドバンテージを持っているクラスターが3つ存在する。

第一に、太陽光パネルメーカーだ。彼らは10年前の販売時点の顧客情報を有している。といっても、10年前にパネルを販売していたメーカーはかなり限られてはいる。そのうちの有力企業がシャープと京セラだ。実際先日の新聞記事では、この二社が顧客リスト片手に、積極的に顧客宅を訪問して蓄電池を販売していて、業績が好調ということが書かれていた。

第二に、太陽光発電付き新築住宅を10年前に売ったハウスメーカー及び工務店だ。

第三に、電力会社の送配電部門だ。彼らは誰がいつFITを導入したかという正確な履歴を保有している。

こうした状況の中で、誰がどのように動くか、この業界ではさながらゲーム理論のように他社の動向を注意深く観察して自社の動きを考えている。株式会社電力シェアリングというベンチャーを経営する僕もそのうちの一人だ。何故ならばFIT切れの太陽光発電を所有する住宅が余った電気を近所におすそ分けするのが経営合理性が高いと考えているからだ。

そういった中で、7月23日に業界に衝撃を与えるニュースが飛び込んできた。それは、

日経XTECHの「中部電力、FIT後の住宅太陽光の電力を購入、時空を超えて取引」だ。

中部電力は7月23日、住宅太陽光の電力を時間と空間を越えて取引できるサービス「これからデンキ」を発表した。2019年11月に一部住宅太陽光の固定価格買取制度(FIT)の買取期間が終了した後も継続して発電電力を買い取ることを基本方針とし、顧客が自ら発電した電気をさまざまな形で取引できるようにする。

私は内部情報を全く知らないので、類推でしかないが、ここでいう「中部電力」とは同社の小売部門のことだろう。そしてこれは確信を持って言えることは、同社の規制部門に当たる送配電部門は小売部門とは同じ会社とは言ってもファイアーウォールがあって、絶対にFIT切れの顧客名簿を小売部門に渡さないだろうという事だ。それはおそらく法律に触れる可能性があるからだ。

さて、中部電力は、「これからデンキ」をどのようにプロモーションしていくのだろうか?プロモーションには大きく二つの方法、プル型営業とプッシュ型営業がある。

プル型営業、すなわちテレビやインタネット、新聞、電車の広告で宣伝を打って顧客を引きつける場合は全く問題がない。

問題なのは、プッシュ型営業、すなわち顧客にダイレクトメールを送ったり、訪問販売をしたりする、あるいはインターネットでインプレッション型広告を打つといった、ターゲット営業をする場合だ。一般電気事業者は真面目で真摯な方々だから、規制部門のデータを営業部門に流用してその顧客リストを流用することは決してないだろう。

しかし、ダイレクトメールや訪問販売を受けた顧客はもしかしたらあらぬ嫌疑をかけるかもしれない。「どうやってうちがFIT切れするってわかたんだろう。まさか規制部門のデータで特定したんじゃないのか?」と。あるいは、競業他社は、「まさか中部電力さん、規制部門のデータを流用してるんじゃないのか」と。

これに抗弁するのは容易ではない。「やっていないことを証明する」のは悪魔の証明で不可能だからだ。

そうすると同社はこうしたリスクを承知した上で、プッシュ型営業を展開して行くのかどうか、大変気になるところだ。

とはいえ、僕自身はこういった動きで、電気のシェアリングという習慣が一般顧客の中に浸透する事を大変歓迎する。

再エネ化、デジタル化により日本の電力セクターの改革が進行して、世界にロールモデルを展開することが夢だからだ。業界の健全な発展を願ってやまない。

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酒井 直樹
株式会社電力シェアリング代表

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