なぜ日本型組織では不祥事が繰り返されるのか?その本質は

尾藤 克之

写真は「時代の証言者」(読売新聞)

まさか、その日のうちに逮捕されるとは思っていませんでした。大阪まで来てほしいという大阪地検特捜部からの連絡を受け、遅れてはいけないと、前の晩に大阪に泊まることにしました。万が一、1日では終わらなかった時のことを考えて、かばんの中には2日分の着替えと好きなミステリーの本などを入れて、東京から新幹線に乗りました。地検の建物に向かったのは2009年6月14日。日曜日の朝のことです。

今回は、『日本型組織の病を考える』(角川新書)を紹介したい。筆者は元厚労事務次官の、村木氏。2009年、郵便不正事件で逮捕。10年、無罪が確定し、復職。13年、厚労事務次官。現在、伊藤忠商事社外取締役。津田塾大学客員教授をつとめる。著書に、『あきらめない 働くあなたに贈る真実のメッセージ』(日経BP社)、『私は負けない「郵便不正事件」はこうして作られた』(中央公論新社)などがある。

なぜ、日本型組織では、同じような不祥事が繰り返されるのか?「郵便不正事件」で検察により冤罪に巻き込まれた村木氏が、初めて口を開いた。

「郵便不正事件」とはなんだったのか

ここで、「郵便不正事件」をおさらいしたい。これは、障害者団体向けの郵便割引制度を悪用し、実態のない団体名義で企業のDM広告が格安で大量発送された事件のこと。障害者団体とされる「凛の会」元会長、割引制度を受けるための偽証明書を発行したとして、局長の村木氏が虚偽有印公文書作成・同行使罪で起訴された。

その後、村木氏は無罪となり、本事件の担当主任検事、上司の元特捜部長、元特捜部副部長の検事3人による、本事件での職務遂行が犯罪の疑いをかけられ、逆に最高検察庁に逮捕された。村木氏は、「特捜部の違法な逮捕・起訴で精神的苦痛を受けた」として国家賠償を求めて提訴、国は請求の一部に対し認諾を表明する。

筆者自身にとっても非常に関心のある事件だったが、同時に違和感を覚えた。事件では、郵便割引制度の悪用が問題になったが、郵便割引制度では同様の事案が横行していたからである。例えば、新卒採用のDMは部数が多いと割引率が高くなる。指定する日時に納めて、到着日にバッファをもたせると割引率が最大で30%超になる。

さらに、DMは各社とも材質や大きさが異なる。納品時に機械で計算するところ、申告制のところさまざまである。申告制の場合、部数は自己申告になる。そのため、申告部数より割増しで納めることは当然だった。実際に、このようなことは各郵便局でおこなわれていたし、郵便局自体が利益を上げようとDM受注に力をいれていた。

そのため、村木氏の事件が発覚した際、各郵便局で日常的におこなっていることであり、大した事件とも思わなかったのである。「郵便不正事件」をきっかけに、郵便割引制度適用が厳しくなったと聞いた。あってはならない事件だが、郵便局が、日常の業務を精査して、間違いを洗い出す契機になったのではないかと感じた。

日本型組織がなかなか変われない理由

繰り返す不祥事の本質は何か。日本型組織の不祥事を「建前と本音」というキーワードで読み解いた時、何が見えてくるのか?本書の興味深い箇所を紹介したい。

「こんな話を聞いたことがあります。発達障害やひきこもりの若者をたくさん雇っている会社の話です。そこで彼らは、コンピューターゲームのバグ探しを担当しています。世界から見て、日本のコンピューターゲームは品質がとても高く、バグがとても少ないそうです。ただし、ゲームにそこまで完璧さを求めるのは日本人だけです。」(村木氏)

「アメリカのゲームなら、みんなが遊ぶことでバグが発見され改善されていくそうです。絶対間違えてはいけないこととか、完璧な完成品を作ることに関しては、日本人は得意かもしれないけれど、思い切りよく物事を進め、完成品でなくてもみんなの力を借りて物事を良くしていくということは、案外苦手なのかもしれないと思いました。」(同)

確かに、日本人は協調性があるといわれる一方、新しいことをやる、速く変化する、柔軟に対応してみんなで何かを作り上げていくといったことは苦手かも知れない。

「2018年も1月に、「ダボス会議」が開かれました。会議に出席した幾人もの日本企業のトップたちから、『日本はこのままではまずいのではないか』『相当な危機感を持った』という話を聞きました。今、世界はものすごいスピードで変化しています。特に、隣国である中国の変化の速さが目をひきます。日本はそれができていない。」(村木氏)

「女性活躍だけでなく、少子高齢化にしても、国の財政赤字にしても、問題だという認識はあるのに、その対策は遅々として進まない。ずるずる課題を先送りして時間を浪費してしまう。同質的な社会の中にいるため、自らが置かれた状況に気づきにくく、外の状況に鈍感だということもあるのかもしれません。」(同)

村木氏は本書の中で、冤罪のち厚生労働事務次官まで務めたからこそ知ることのできた、硬直化した日本型組織を動かす「静かな改革」を提唱する。退官後も「若草プロジェクト」などで世直しを続ける村木氏が、諦めずにこの国を変えるために世に問うた渾身の書。日本が置かれている病理に対して初めて口を開く。

尾藤克之
コラムニスト