年休取ったら良いことづくし、社内の男性育休取得率まで急上昇!

駒崎 弘樹

国内最大手製薬会社「武田薬品工業」。

医療関係者であれば現場を下支えする医療用医薬品の取扱トップメーカーとしてご存知かと思います。一般の方は、アリナミンやベンザブロックなど一般用医薬品でおなじみかもしれません。

今回は、武田薬品工業の社内で2016年度にスタートした非常にユニークな社会貢献プログラム、「年休取得で社会貢献!プログラム」2年目の成果についてご紹介したいと思います。

このプログラムは、全社員の年次有休取得率に応じて会社が選定したNPO法人へ寄付をするというもの。働き方改革が、社内や個人レベルでプラス効果をもたらすだけでなく、社会的インパクトにまで波及するしくみです。

社員の意識改革にあたっては、「武田薬品の社員であると同時に、社会の中の個人」である意識を育てる必要を感じたという仕掛け人、寺川さん、吹田さんインタビューを行いました。

グローバルHR日本人事室労務管理 寺川澄夫さん

コーポレート・コミュニケーションズ&パブリックアフェアーズCSR 吹田博史さん

有休取得に消極的だった社内がドラスティックに変わった背景

駒崎:初年度である2016年度は、年休取得率65%を目標に掲げて取り組まれた結果、目標を上回る66.5%の取得率を達成されたんでしたね。2年目の2017年度はいかがでしたか?

寺川:2017年度は、70%という目標を掲げ、結果的には71.2%と目標を達成しました。このプログラムは3年計画ですので、最終年度の2018年度は、71.2%以上を目標とする予定です。

駒崎:素晴らしい結果ですね!もともとの御社の年休取得率というのは・・?

寺川:3、4年前まではせいぜい55%程度、およそ半数が年休を使いきらない状況だったんですよ。

駒崎:ではやはり、このプログラムがスタートして変化があったんですね。

寺川:会社全体の意識が確実に変わりました。やはり、会社として目標を掲げることによって、従業員にも響きましたね。組織全体として一体感をもって進めることができています。

駒崎:この仕組みがうまいな、と思うのは、「年休ちゃんととりましょう!」の推進だと、「私は別にお休み必要ないんですよ」みたいな人が必ず出てきちゃうけど、自分が休みを取ることで、自分の時間も増えて、社会貢献もできて、会社からも高評価されて。っていいことづくめな点ですね。

吹田:社会貢献と会社の働き方改革を組み合わせたことによって、従業員の背中を押すことができるようになったと思います。

駒崎:実際に社内からどんな声が届いていますか?

寺川:例えば、今までだったら「子どもが病気」や「遠方への旅行」とかどうしても理由や目的がないと年休を取りづらかったけど、今は「いつでも年休を取っていいんだ」と、ハードルが下がったという声もあります。

駒崎:会社が後押ししてくれるから、うまく活用しようという意識に社内が変わってきたんですね。

寺川:年休が取りやすくなったことで、日頃の働き方もフレキシブルに変えることに繋がりました。例えば在宅勤務やフレックスタイム制など、すでにあった制度についても、より自立的に安心して使えるようになったという声が多いです。

駒崎:いつでも柔軟に働く時間や場所を調整できる安心感があれば「なにかあった時のために!」と過剰に有休を貯金しておく必要がないですもんね。

働き方の柔軟性と有給消化率に相関関係があるというのは、大切なインサイトですね。

有休取得率があがると、男性の育休取得率も急上昇!

寺川:社内のもうひとつ大きな変化としては、男性社員の意識が変わったことです。同世代の子育て中の男性同士で、「じゃあ年休取って家族合同でどこか行こうか」みたいな動きが出てきたりとか。結果的に男性の育休取得率がすごく上がってきました。もともと18%だった男性の育休取得率が、現在70%程度まで増えているのです。

育児休暇は最初の5日間が有給ですが、それを超えて10日間、長い人では1ヶ月とかいう例が出てきてるのも成果です。

駒崎:男性も育児にしっかりコミットしようみたいな風土ができてきてるんですね。国全体でいうと男性の育休取得率はわずか5%ですから、実に14倍!

※育児休業取得率の推移(厚生労働省平成30年5月30日発表資料より)

吹田:組織の中でそういう事例が出てくると、やはり周りの雰囲気が変わります。特に男性の育休取得は波及効果がものすごくあります。

駒崎:僕も男性の育休取得を盛り上げる厚労省イクメンプロジェクトの座長をやっているので、そういう話めちゃめちゃ嬉しいです!

吹田:武田薬品には社内SNSがあるのですが、男性の育児を支援するようなグループが、自然発生的にできました。そこでメンバーが様々な社内発信を行っていますね。

駒崎:発信することって重要ですよね。仲間が増えていってムーブメントにできるから。でも逆に、「いや、そうはいうても忙しいから休みなんて取れないよ」と、そういうネガティブな声みたいなのはなかったですか?

寺川:最近はあまり聞かなくなりましたね。社内では、今回のプログラムの他にも働き方を変えようというようなワークショップを、各部門で年間を通じて定期的にやっているので、今まで休暇を取ることにネガティブだった人たちも、やっぱりそういう輪の中に入っていって、そういうことも言えなくなってきているのではないかと。

上司からも、働き方変えていこうよ、というフォローも入ることによって、変化してきました。

NPOと協働することで、社会的インパクトを最大化したい

吹田:他の変化としては、私はCSR部門に所属しているので特に感じるのかもしれませんが、このプログラムを通じて、社会貢献の先を見る社員が増えてきた印象を持っています。

例えば、フローレンスさんへの寄付を通じて、初めて障害児保育問題や赤ちゃんの虐待死問題を知った社員も多いでしょう。「こんな社会課題があるんだ」と見える化できたっていうのは大きいです。

駒崎:今回、フローレンスをプログラムの寄付先に選定いただいていますが、NPOとの関わりは他にもたくさんあるのですか?

吹田:はい、NPOさんとの協働はなくてはならないものだと考えています。

企業って、社会においてどんな価値を創造していくかが今問われていると思います。しかし、企業だけでは世の中を変えられないので、NPOさんと連携して社会に働きかけていくことは非常に重要だと考えます。現場をよく知っていらっしゃるNPOさんと組むことによって包括的に社会課題を解決していけると思います。

東日本大震災を機に、多くのNPOと協働する経験を得た

駒崎:これまでには、どんな事例がありましたか?

吹田:大きなきっかけは、東日本大震災の復興支援です。一般用医薬品のアリナミンの錠剤が1錠売れたら1円、アリナミンのドリンクが1本売れたら1円を社内で積み立てる「日本を元気に・復興支援」というプロジェクトをやりました。医薬品にはすでに付加価値がついているので、お客様向けの寄付つき商品、という打ち出し方ではなく、社内で積み立てる方式としました。

3年間続けることで31億円が積み立てられ、東日本大震災の復興支援活動に寄付しました。実際に、現場ではどんな支援活動を行っているのか?どんなニーズがあるのか?というところで、我々は現場がわからないことから、多くのNPOや民間団体とパートナーシップを組むことになりました。

12団体13プログラムの支援活動を実施し、今でも5プログラムが継続して行われています。NPOさんなくしては包括的な活動はできないと感じています。

駒崎:たしかに。2011年以降、NPOの存在感が高まったのを感じています。

吹田:社員のボランティアに対する意識も、東日本大震災前後で大きく変わりました。現場に行くと行かないのでは、全然違いますね。活動現場から戻った時に、自分の仕事が社会と地続きである感覚を持つようになります。

寺川武田薬品の社員である前に、人として社会の一員である感覚をもつことで業務にも還元されます。人事としても東日本大震災後にボランティア休暇を制度にしました。

吹田:最初は東日本大震災を対象とした時限立法でしたが、それを伸ばそうよということで制度化して、さらにボランティア休暇を取得して被災地で活動する人には、ボランティア保険料も会社が負担することになりました。

社会の中の個人として、アクションできる従業員が増えると良い

駒崎:なるほど。今後NPOに期待することや、特にフローレンスに期待することはどういう部分ですか。

吹田:先ほどのお話とも繋がりますが、企業目線でお伝えすると、NPOさんと協働する一番のメリットは、従業員が新たに学ぶことが多く、視野を広げるきっかけになる点です。フローレンスの駒崎さんがどうしてこうした事業を立ち上げたのか、スタッフの皆さんはどういう気持ちで仕事に取り組んでいるのか、社会課題と解決モデルの2つに触れることができます。

寺川:従業員がフローレンスさんの現場の活動に加わっていったり、自分でアクションを起こせるようになると、従業員の活躍するフィールドが広がるという意味で理想的ですね。

フローレンスさんの取り組まれている、特に子育てと育児の両立とか、待機児童の問題、新生児医療や保育分野の課題は、大きな社会問題でもあり、武田薬品としても深関心のある課題と考えています。引き続きフローレンスさんの活動を支援させて貰いたいと思います。今回の「年休取得で社会貢献!プログラム」は、その第一歩です。

駒崎:ありがとうございます!最後に今後CSRとして武田薬品さんが取り組まれていきたいことがあれば教えて下さい。

吹田:NPOとの協働は企業の内向きなマインドを変えるっていうことがよく言われていますが、企業がNPOさんをどう変容させていくかも興味がありますね。

CSR担当としては、NPOさんサイドにもイノベーションを起こしてみたい。どっちもwin-winでやっていければと思います。

寺川:例えばフローレンスさんの取り組みに共感した社員が、「クラウドファンディングを立ち上げたよ!」とか、ぱっと社内のSNSで流していくとか。そういう循環が生まれるといいですよね。

駒崎:どうやったら企業さんとwin-winになり絆を作れるのか、まだまだ知見や事例が少ないので、ぜひお互いのニーズを知り合って深めていきたいです。ぜひこれからも絆深く連携させてください。

本日はありがとうございました。

いかがでしたでしょうか。

武田薬品工業のホームページにて【「年休取得で社会貢献!」プログラム 2年目の寄付について】詳細が発表されています。

武田薬品工業さん、ありがとうございました!

フローレンスでは、企業とのタイアップによるご支援をお待ちしております。

私たちNPOだけでは社会を変えることはできません。多くの仲間となってくださる方々と協働して、新しいソーシャルインパクトを起こしていきたいと思います。

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※テープ起こし by ブラインドライターズ


編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2018年8月2日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。