英ヒースロー空港は拡張案で合意だが、論争は収まらず

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Victor/flickr(編集部)

(英国の邦字紙「英国ニュースダイジェスト」の筆者コラム「英国メディアを読み解く」に補足しました。)

「ボリスはどこだ? 」

6月末、ウェストミンスター議会での審議中、野党の労働党議員から叫び声が上がりました。日本人にとってもなじみが深いヒースロー空港(ロンドン西部)に、第3の滑走路を新設する法案を国会で審議していたときのことです。

「ボリス」ことボリス・ジョンソン外相(当時。7月9日辞任)は、前職のロンドン市長であったときから新滑走路の建設には大反対の姿勢を取ってきましたが、この日、その姿が見当たらなかったのです。

空港の設備拡張賛成派と反対派の議論が白熱する中、最終的に政府の建設案は可決されました。ジョンソン氏はアフガニスタンを訪問中で、票を投じることはできませんでした。

新滑走路は2021年に建設が着工され、26年までに完成する予定です。総事業費は140億ポンド(約2兆460万円)に上るそうです。

ヒースロー空港は、第1次世界大戦中に軍用機の発着地となったのがその始まりです。1930年代には、航空機の組み立てや試験飛行に使われるようになりました。第2次大戦が勃発すると小規模の商業空輸を取り扱い、戦後は空軍に接収されました。「ロンドン空港」が敷地内で建設されたのは1944年。2年後には民間航空局に返還され、民間空港として正式オープンします。「ヒースロー空港」と名称変更されたのは1966年です。現在は「ヒースロー空港ホールディングス」が所有者になっています。

国際線利用者数では世界第2位(2017年は約7320万人)の同空港ですが、敷地面積はほかの欧州の主要空港と比較すると半分以下で、滑走路も2本しかありません。国際競争の面から、そして旅客サービスを向上させるためにも、空港設備の拡張が長年の課題となってきました。

今回の新滑走路建設決定までには、長年の紆余曲折がありました。設備拡張を掲げた白書が公表されたのは2003年。07年のパブリック・コンサルテーションを経て、09年、当時の労働党政権が新滑走路建設を支持します。しかしその後、地球温暖化への影響、地域住民からの騒音や大気汚染問題への懸念が、大きな抗議運動に発展していきます。

2010年の総選挙戦では、野党だった保守党と自由民主党が新滑走路建設反対を主張し、当時のロンドン市長ジョンソン氏は、テムズ川河口に浮かぶ人工島に新空港を建設するという大胆な計画をぶち上げました(!)。このときの総選挙で勝利した保守党と自民党が連立政権を組み、新滑走路建設案を中止してしまいます。

それでも、英南東部の空の旅の受け入れ能力を拡大するための試みは続いていきます。

2012年には拡張の可能性を査定する「空港委員会」が立ち上げられ、その翌年出された3つの提案の中の一つが第3滑走路の建設でした。政府がこれを支持する意向を示したのが、その3年後。そして今年6月上旬、政府が建設計画を閣議で了承し、これを踏まえて議会で同月25日に採決が行われ、ようやくゴー・サインが出ました。

この採決に関してクリス・グレイリング運輸相は、「5つの誓約」を表明し、その中で「事業費に税金は投入しない」と約束しました。拡張計画は10万人以上の新規雇用を生み出し、740億ポンド相当の経済効果があると述べています。

この第3滑走路の建設により、ヒースロー空港の年間の旅客輸送能力は1億3000万人に増える予定だそうです。また、環境対策や周辺住民への補償として26億ポンドを使うことも明言しています。

でも、不安要素も多々あります。

本当に事業費を民間資金だけで賄えるのか、ほかの空港と比較して高いと言われるヒースローの空港使用料が更に上がるのでは、そしてこれが運賃に転嫁されるのではという懸念です。新滑走路周辺の道路整備による交通渋滞も、頭痛の種と言われています。立ち退きを余儀なくされる約800戸の住人にとっては、大きな決断のときとなります。

サディク・カーン現ロンドン市長を含め、滑走路建設反対派の声は依然として強く、これからも論争が続きそうです。

キーワード 5つの誓約(Five point pledges)

グレイリング運輸相は、ヒースロー空港拡張で5つの原則を確約しました。

(1)税金は使わない
(2)経済効果(新国際線の開通、10万人の新規雇用、740億ポンドに上る恩恵)
(3)国内全体での恩恵(国内線航路を15%増発、地域経済活性化)、
(4)環境保護(温暖化や大気の質の基準を維持、夜間飛行制限に新基準など)
(5)誓約順守に法的縛りをかける。

さて、これは守られるでしょうか。


編集部より;この記事は、在英ジャーナリスト小林恭子氏のブログ「英国メディア・ウオッチ」2018年8月10日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「英国メディア・ウオッチ」をご覧ください。