モロッコからスペインに難民の流入が急増

EL PAISより

今年に入って、地中海を渡ってスペインに不法入国する難民の数がイタリアを遂に追い越した。7月25日までにイタリアの沿岸に上陸した難民は18130人で、昨年の94448人と比較して80%の減少をしているのに対し、スペインは同期間で20992人の流入を記録し、昨年比3倍に増加しているという

地中海を渡ってイタリアに上陸する難民の出発点はリビアである。リビアは現在も内戦が続いており、治安が危険なことから難民はモロッコに起点を移しているという。

また、イタリア政府は国連が承認しているリビアのトリポリ政府と交渉して難民が地中海を渡ろうとするのを抑える為に海上を監視するパトロール艇を12隻寄贈したり、その他支援を惜しまないとしている。

イタリアは4200万ユーロ(54億6000万円)を難民受け入れや身柄の送還に充てる費用だとして計上しているが、この予算の中から勿論トリポリ政府に協力金が提供されているはずである。

一方のスペインは昨年から難民が急増する兆候が見られるようになっていた。彼らの出発点はモロッコ沿岸である。そこで、スペイン政府はモロッコ政府に対して難民のスペインへの流入を抑えることに協力するように要請した。それに対して、モロッコ政府は6000万ユーロ(78億円)に相当する機材などの寄贈を要求していることが明らかになっている。

それをメディアで取り上げたのはテロ関係の専門家イグナシオ・センブレロで、テレビ「ラ・セクスタ(LA SEXTA)」でそれを明らかにした。同氏によると、スペインのペドロ・サンチェス首相政府がモロッコ側にスペインへの難民の流入を抑える為に「何が必要か」を尋ねた>という。その回答が6000万ユーロに相当する乗り物、ヘリコプター、暴動鎮圧の為の備品、監視レーダー,その他手段などの寄贈だというのである。更に、同氏はグランデス・マルラスカ内務相がEU委員会に早速それを伝え、その費用をEUが負担するように要請したことも語った。

EUは2015年に北アフリカからの難民対策として35億ユーロ(4550億円)の信託金を設けている。この信託金の中から今回のモロッコ政府からの要望に応えるため拠出をスペイン政府はEU委員会に要請しているのである。

同様に、スペイン政府は急増している難民の保護費用として支援金を同じくEUに要請している。それに対して、ユンケル委員長からサンチェス首相に早速回答があり、5500万ユーロ(71億5000万円)の拠出を約束している。

この迅速な決定の背後には、サンチェス首相がスペインから流入してドイツにいる難民のスペインへの送還を受け入れる用意があることをメルケル首相に以前約束したことがあり、それに対して彼女の方からスペインの難民受け入れに協力すると約束していたことが関係しているはずだ。何しろ、今もメルケル首相の決定がEU委員会の決定になるからである。

モロッコ政府はいつもEUやスペインが交渉相手の時には必ず譲歩するが、その為の交換条件を打診して来るのが常とされている。この10年間にEUはモロッコ政府に対して難民問題に関連して1億ユーロ (130億円) 以上を寄贈しているという。

また、漁業交渉においてもモロッコの領海内での漁獲交渉も同様に裏で駆け引きがあるのが常とされている。

スペインのサンチェス新政権は社会労働党政権で、これまでモロッコのムハンマド6世との関係は社会労働党の政権とは常に良好な関係を維持している。一方のラホイ前首相が率いる国民党はモロッコと領土問題を抱えている西サハラの存在を支持していることからムハンマド国王とは円滑な関係にはない。

今年7月25日までにヨーロッパに流入した難民は5万5000人。そのほぼ40%に相当する難民がスペインに流入していることになる。この傾向はさらに増加する可能性が高いと見られている。

スペインは今もEU内でギリシャに次いで失業率の高い国である。難民がスペインで職場を見つけることは何か特別な例外を除いてほぼ不可能である。それでも難民が望んでいるのは安全に生活することができる国だという。その理由は彼らの多くが内戦や紛争を抱えた国からの出身者という背景があるからである。