法王の謝罪は痛みを初期化できるか

2018年08月28日 11:30

ダブリンを訪問中のローマ・カトリック教会最高指導者ローマ法王フランシスコは26日、アイルランド教会の聖職者が過去、未成年者に対して性的虐待を繰り返す一方、教会側はその事実を隠蔽していたことに対し、「重大なスキャンダルだ」と述べ、謝罪を表明した。同法王はタブリン滞在中に聖職者によって性的虐待を受けた8人の犠牲者と会った。

オーストリア国営放送の中継から、今年4月の復活祭でミサを行うフランシスコ法王

アイルランド教会ダブリン大司教区聖職者の性犯罪を調査してきた政府調査委員会は2009年11月、調査内容を公表し、大きな衝撃を与えた。調査対象は1975年から2004年の間で生じた聖職者の性犯罪だ。同国教会聖職者が過去、30年間に渡り、数百人の未成年者へ性犯罪を繰り返してきたという事実が明らかになった。

同国のダーモット・アハーン法相(当時)は、「性犯罪に関与した聖職者は刑罰を逃れることはできない」と指摘、調査が進めば、聖職者の中に逮捕者が出ることもあり得ると述べたほどだ。

カトリック教会の聖職者が未成年者に性的虐待を繰り返してきたという報告書はアイルランド教会を皮切りに、ドイツ教会、ベルギー教会、オーストラリア教会、チリ教会など世界各地で公表されてきた。

例えば、オーストラリア教会の聖職者の性犯罪調査王立委員会は昨年初めに暫定報告を公表したが、それによると、オーストラリア教会で1950年から2010年の間、少なくとも7%の聖職者が未成年者への性的虐待で告訴されている。身元が確認された件数だけで1880人の聖職者の名前が挙げられている。すなわち、100人の神父がいたらそのうち7人が未成年者への性的虐待を犯しているという衝撃的な内容だった。それだけではない。豪メルボルンの裁判所でバチカン財務長官のジョージ・ペル枢機卿(76)に対する性犯罪容疑に関する公判が今月13日から始まっている。

最近では米教会の報告書は衝撃的だった。米ペンシルベニア州のローマ・カトリック教会で300人以上の聖職者が過去70年間、1000人以上の未成年者に対し性的虐待を行っていたことが14日、州大陪審の報告書で明らかになったばかりだ。

聖職者の性犯罪件数や内容は異なるが、聖職者の性犯罪を教会上層部が隠蔽してきた点では同じだ。教会指導部は未成年者に性的虐待を犯した聖職者の共犯者だったという事実が明らかになってきたのだ。

第9回カトリック教会世界家庭集会に参加するためアイルランドの首都ダブリンを訪問したフランシスコ法王はそこで聖職者の性犯罪に対し、謝罪を繰り返した。その姿を見ていると、「謝罪は民族の痛みを初期化できるか」(2014年2月16日参考)というタイトルで書いたコラムを思い出した。英国に数百年間植民地化されたアイルランド民族の痛み、大国・英国への憎しみ、恨みをどのように克服し、昇華しようとしているかをテーマに書いた。

その一部を紹介する。

「英国がアイルランド民族に対して過去の植民地時代の蛮行に対し謝罪したとしても、アイルランド民族の感情(反英感情)は癒されないだろうと感じる。謝罪の言葉で癒されるには同国の植民地時代は余りにも長かったからだ。

モダンな表現をするとすれば、アイルランド民族の悲しみはそのDNAに既に刷り込まれ、細胞に記憶されている。問題は細胞に記憶された内容をどのように初期化できるかというテーマだ」

舞台(アイルランド)は同じだが、その「民族の痛み」を、(聖職者の性犯罪の)「犠牲者の痛み」に替えればいい。すなわち、「(ローマ法王の)謝罪は(聖職者によって犠牲となった未成年者の)痛みを初期化できるか」という問いかけだ。

オーストラリア教会を訪問し、そこで聖職者の性犯罪の犠牲者となった人と直接会見した前法王ベネディクト16世は涙を流したと報じられた。考えられない蛮行が、それも1件、2件ではなく数百件、数千件、神の使いであるべき聖職者によって犯されてきたという事実に直面し、近代法王の中で最高の神学者と呼ばれたベネディクト16世は泣く以外になかったのだ。

個人への謝罪となれば、日韓両国間の過去問題のように政治的、外交的解決は考えられない。やはり、蛮行を犯した当人が犠牲者に詫び、償う以外に道がないが、犯行者の謝罪が犠牲者の痛みを完全に初期化できるという保証もない。聖職者の性犯罪の場合、蛮行を犯した聖職者が既に死去したか、犯行の時効が過ぎたケースが多いのだ。

法王はタブリンでも、「聖職者の性犯罪を2度と起こしてはならない」と強調したが、ここにきてフランシスコ法王の責任を問うと共に、辞任要求すら出てきた。最高指導者としての引責問題ではない。法王自身が聖職者の性犯罪を隠していたという内部告発だ。

フランシスコ法王は就任後、聖職者の性犯罪に対しては“ゼロ寛容”を表明してきたが、ローマ法王庁の元駐米大使、カルロ・マリア・ビガーノ大司教は26日、オンラインで、「法王は米教会のセオドア・マキャリック枢機卿が若い神父や神学生に対し好ましくない性的行動を取っていたことを知りながら、その事実を隠し、沈黙していた」と非難する文書を公表しているのだ。

ローマ法王の謝罪が犠牲者の痛みを初期化できないばかりか、法王自身が聖職者の性犯罪の共犯者とすれば、どうすればいいのか。繰り返すが、ローマ・カトリック教会は本来、ベネディクト16世が2013年2月11日、生前退位を表明した時点で2000年の教会の使命を閉じて解体すべきだったのだ(「カトリック教会は解体すべきだった」(2018年8月17日参考)。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年8月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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