お金のIQ(知識や知恵)、EQ(知性や感性)の意味とは

尾藤 克之

2000年以降、日本では多くの会社で成果主義が導入された。成果主義による組織活性化が期待されたが、むしろ制度上の矛盾を露呈する結果になった。社員のマインドは疲弊し将来のパスが見えにくく漠然とした不安が蔓延する。その後、社員の内面にアプローチする理論としてEQ(Emotional Intelligence Quotient)が注目される。

画像は筆者撮影による

筆者は当時、EQJAPANという組織のディレクター(戦略部門、ソリューション部門管掌)として、セミナーや講演、企業への導入活動にまい進していた。この組織は、EQ理論提唱者のピーター・サロベイ博士(第23代イェール大学学長)、ジョン・メイヤー博士(ニューハンプシャー大学教授)と共同研究をおこなっていた唯一の研究機関である。

筆者は、EQを一言で説明するなら「包括的な人間関係構築能力」と答えるだろう。EQは人間関係とアウトプットに大きな影響を与えるからである。その後、EQブームは収束したが新たな理論が台頭する。本日、紹介する書籍は、その頃、話題になった本である。『お金のIQ お金のEQ』(サンマーク出版) を紹介したい。

著者は、本田健さん。100万部を突破した『ユダヤ人大富豪の教え』(大和書房)、『大富豪からの手紙』(ダイヤモンド社)など、130冊以上の著書実績がある。累計発行部数は700万部を突破し、日本を代表する作家であり投資家としても知られている。

お金のIQが高くても、EQが低いと破綻する

本田さんは、「お金の知識をたくさん持っていると、金持ちになれると思いがちですが、そうはならないのがおもしろいところです」と解説する。どのような意味か?

「私は小さいころから、父のところに経営相談にくる社長の話を、父のそばに座って、いっしょに聞かせてもらいました。彼らの話し方のスタイル、パワー、生き方を観察しながら、彼らのビジネスの浮き沈みを見てきました。そして、多くの実業家が、30年という時間の流れの中で、成功と破綻を繰り返すのをたくさん見てきました。『驕れる人も久しからず』というのは、まさしくそのとおりだと感じます。」(本田さん)

「たとえ、一時的に金持ちになったとしても、人を大事にしない社長は、思わぬところで足をすくわれてしまうのです。高すぎるお金のIQを持つ人は、最終的には破産してしまったり、不幸になるケースが多いと感じます。たバブル華やかなころ、お金のIQの高かった人は、銀行から借金をたくさんして、不動産を買った人でした。『借金して、投資しないやつは馬鹿だ』と豪語する人が、当時の最先端だったのです。」(同)

筆者は、バブル世代なので非常によくわかる。当時、ある大手不動産会社の採用業務を手伝ったことがある。学生向けパンフレットの表紙はパルテノン宮殿だった。さらに、ページをめくると「100億円を動かす男」として入社2年目の若者が登場していた。業務内容は土地転がしである。いまでは考えられない不思議な時代でもあった。

「先頭ランナーは、3000億円の資産と、2000億円の負債を持っているような人でした。バブルがはじけてどうなったでしょうか?負債は同じく2000億円で変わらないのに、資産は1000億円も大きく割り込むような状態になってしまいました。この間までは、いちばん先頭だと思っていたら、ゴールが180度変わってしまいました。」(本田さん)

お金のIQ、お金のEQとは何を指すのか

「IQを高めて、金持ちになったとしても、お金のEQが低ければ、人生を楽しんだりする心の余裕を持てません。どれだけお金を稼いでも、貯めても、安心することができなくなるのです。大富豪ロックフェラーは、お金を失う心配で健康を害したときに、財団の構想を思いついたそうです。それ以後、彼は健康を取り戻し、長寿を全うできたのは、このバランスが取れたためでしょう。」(本田さん)

「金持ちになるためには、お金のIQばかりに目が向きがちですが、お金を使って何をしたいのかがはっきりしなければ、お金に振り回されるだけの人生になることを知る必要があります。お金のIQは、効率よくお金を稼いだり、手元にやってきたお金を上手に守るための知識に過ぎません。そのお金を使って人生を豊かにすることができなければ、そのお金には何の意味があるというのでしょうか。」(同)

さらに、本田さんは次のように続ける。「書店に並んでいる本のタイトルを眺めていると、『金儲け』の本が多いことに驚きます。ビジネスの知識や投資のテクニックを身につけてお金持ちになることができれば、人生はそれでOKなんだと言わんばかりです」。自分の幸せや豊かさに意識が向いていないことに警鐘を鳴らしている。

本書は2002年の発行だが、いま読んでも色あせることはない。お金のIQ(知識や知恵)と、お金のEQ(知性や感性)を高めて「経済的自由や本当の豊かさ」を手にいれようとする内容。自分のミッションをあらためて見つめ直してみたい。

尾藤克之
コラムニスト