来夏参院選がトリプル選挙になる理由

堀江 和博

8月中旬、安倍首相は「憲法改正案を次の国会に提出できるよう、とりまとめを加速すべき」との見解を示した(産経ニュース記事2018年8月13日)。ついに悲願の「憲法改正」に着手することになる。総裁選後、秋の臨時国会にて各党と調整し、来年通常国会内で国会発議、国民投票に至るという流れになりそうだ。

自民党サイトより:編集部

そして初の「国民投票」が行われるその日こそ、「参議院選挙」と「衆議院総選挙」が同日実施される日となる。首相は「トリプル選挙」というカードで、憲法改正を成し遂げるつもりではないか。その根拠について以下述べていきたい。

憲法改正しか残されていない

まず前提として押さえておくべきは、首相の「憲法改正に対する想い」である。安倍首相は、2度の首相、国政選挙に連勝、歴代3位の長期政権となっており、このまま続けば20年8月に佐藤元首相を抜いて1位となる。6年の間多くの課題に取り組んできたが、まだ成し遂げていないものが「憲法改正」である。3分の2の議席も任期中には二度とやって来ない。3選後の首相に失うものはなく、憲法改正のみが残された砦なのだ。

亥年参院選は自民党の鬼門

もう一つ押さえておくべきは、「来年夏の参院選挙は自民党にとって不利な戦いになる」ということである。いわゆる「亥年(いどし)現象」と呼ばれるもので、12年に1度地方統一選挙が春に、参院選が夏に実施されることで、地方議員たちが参院選に注力出来なくなり、多くの地方議員を抱える自民党が有利に選挙戦を展開できなくなると言われている。以下が参院選の自民党獲得議席の推移である。

過去5回、亥年参院選が実施されているが、自民党は1勝4敗で議席を減らしている。奇しくも前回12年前に実施されたのは第一次安倍政権時であった。この現象については、浅野正彦や蒲島郁夫、今井亮佑など多くの研究者が明らかにしてきた現象で信憑性が高い。

憲法改正への4パターン

以上のように「来夏参院選で自民党は議席を減らす可能性が高いこと」を踏まえると、3分2超の改憲勢力を維持している7月参院選までに国会発議がなされる可能性が高い。そうなると、改憲プロセスは次のパターンに絞られてくる。

〇パターン1:「参院選前に国会発議・国民投票」

参院選は来年7月だが、4月には統一地方選挙、5月には天皇陛下譲位が予定されている。それまでに国会発議・周知期間(60日~180日)・国民投票まで全て済ますのは時間的にタイトだ。また、国民投票は国政選挙と同様の実施費用が発生するので、短期間に2度も多額の選挙費用が発生することへの批判が予想される。

〇パターン2:「参院選前に国会発議、参院選後に国民投票」

スケジュール的に可能だが二重の選挙費用への批判が想定される。また、参院選の争点は「憲法改正」になるであろうから、選挙で与党が議席を減らすことになると、その後の国民投票への機運が大きくそがれることになる。 

〇パターン3:「参院選と国民投票の同日実施(ダブル選挙)」

5月までに国会発議、7月参院選までに60日以上の周知期間を確保することは可能である。ただ、参院選は政権選択選挙ではない為、野党共闘が成立しやすく、亥年現象も考慮すると、与党にとって不利な情勢になりうる。野党や左派メディアは改正反対の一大キャンペーンを展開するであろうから、国民投票で過半数に至らないことも想像できる。

〇パターン4:「衆議院総選挙・参院選・国民投票の同日実施(トリプル選挙)」

衆議院総選挙を同時に行うことは、野党共闘を阻む効果的な手法である。現状を見る限り、総選挙となると野党の候補者調整は難しい。また、総選挙は政権選択選挙となるわけだが、支持率を見るに自民党以外の政党に政権を担わせる機運は高まっていない。そうなると、断然、総選挙を同時に行うことの方が与党にとって有利に事を進めることが出来る。総選挙を優勢に進め、勢いそのまま国民投票へとつなげることが可能となる。ちなみに過去の衆参同日ダブル選挙(1980年と1986年)はいずれも自民党が勝利している。

来年は歴史的な一年となる

もちろん、国民投票自体初の試みなので、実際の投票行動は不明なところも多い。ただ、2015年の「大阪都構想」住民投票を参考とするのであれば、当時の橋下大阪市長人気の中で、もし市長選挙などとの同時実施が可能であったなら、住民投票の結果は大きく変わっていたかもしれない。

そういった意味で、国民投票と同時に総選挙が同日実施されることは有権者の国民投票への行動に大きな影響を及ぼしうる。ゆえに、安倍首相にとってトリプル選挙こそ「有効な選択肢」になりうるのではないか。総裁選挙後に一気に加速するであろう、憲法改正への流れを注意深く見守っていきたい。

堀江 和博(ほりえ かずひろ)滋賀県日野町議会議員
1984年生まれ。滋賀県出身。京都大学大学院公共政策教育部公共政策専攻。民間企業・議員秘書を経て、日野町議会議員(現職)。多くの国政・地方選挙に関わるとともに、大学院にて政治行政・選挙制度に関する研究を行っている。