防衛予算拡大で自衛隊の“弱体化”を図る安倍政権⑤

田岡俊次氏の記事です。

「陸上イージス」の説明は誇大広告とまやかしの連発だ

防衛省は8月31日、2018年度予算の概算要求を発表した。過去最大の5兆2986億円で、今年度当初予算に比べ「2.1%増」と報じられている。

だが実はこの概算要求には、沖縄の米軍のグアム等への移転など、米軍再編経費(推定約2200億円)が「事項要求」とだけ書かれ、金額は計上されていない。年末の予算編成で金額を入れることになる。

今年度当初予算は5兆1911億円にはそれが当然含まれているから、それと今回の概算要求を比べて伸び率を2.1%と言うのは非合理だ。今年度予算からも米軍再編関連経費を除いて比較すると7.2%という驚異的な伸び率になる。2015年度から今年度までの毎年度の伸び率はずっと0.8%だった。

これは大変重大な指摘です。
こういうことを記者クラブメディアは防衛費の使いに道にうるさいリベラル系含めて無頓着です。

当局の説明を鵜呑みして、それをもとに記事を書く。疑うとか、自分で背景となる知識を得ようとしない。
リリースに書いていないことから何かを読み取る訓練ができていない。だから先日ご案内の機銃の調達がない、ということもわからない(もっとも興味もないでしょうが)。

結果当局のケツを舐めるような記事が紙面を埋めることになります。

特に米国の「有償軍事援助」(FMS)による新規契約が今年度より約70%増え、6917億円にもなることには愕然とせざるをえない。

2012年度は1372億円だったから、安倍政権の7年間で5倍になる。

来年度予算の概算要求での装備購入費、艦艇建造、航空機購入費は合計約1兆2379億円だから、その56%程が米国に召し上げられると考えられる。

まともにリサーチもしないで実効性も怪しく、おそらく想定よりも多額の金がかかり、海自と違うレーダーを搭載したイージス・アショアを場所も特定した上で、アセスメントも行わず導入を官邸主導で行うわけです。

結果として少ない装備調達予算がグローバルホーク、オスプレイ、AAV7に続いて導入される。これらによって既に自衛隊は疲弊し、弱体化しているわけですが更にアメリカに貢いて自衛隊を弱体化させようというわけです。

グローバルホークは本来トライトンがほしかったわけです。ところが米国がリリースしない。だから似たものでいいやと買っちゃったわけです。しかも競合機がガーディアン(笑)、大型トラックを導入するのに、軽ワゴン車を競合だというようなものです。更に申せば海上監視であればガーディアンの方がよほど役に立ちます。

それってあまりに杜撰でしょう。使いみちがろくにないのに数千億円が飛ぶわけです。いままで導入したものをスクラップにするほうがよろしい。

対してオーストラリア向けにはトライトンが導入されることが決まりました。
つまり我が国の同盟国としての立場は、オーストラリア以下ということでしょう。

首相官邸サイトより:編集部

ネトウヨさんたちは、さすが強い指導力のリーダー、安倍首相と持ち上げますが、自分の権力維持のためには国を売ってトランプの靴の先を舐める飼い犬みたいものです。
更に申せば、これによって国内防衛産業は需品を含めて壊滅的な打撃を受けつつあります。

よく誤解されておりますが、ぼくはなんでもかんでも輸入に切り替えろと言ったことは一度もありません。
国内開発、国内生産が基本です。ですが、質が劣って何倍も高いもの買うのはやめろ、単に調達と防衛産業の維持だけを目的化するな、ということです。

しかし国際分業はこの世の流れです。世界の半分の軍事予算使っている米軍だって、外国製、外国オリジンの装備を多数使っております。偏狭なテクノナショナリズムに毒されただけの国産擁護は国益を損ないます。

逆に申せば、他国より優れた製品が同程度、あるいは安い価格で導入できるならば国産大賛成です。ですが、
現実は親方日の丸にあぐらをかいて、官の方にも指導力がなく官民とも当事者能力が欠如している。ならばやめてしまえ、ということろです。

例えばいすゞの中型トラックが優秀だというならば輸出をすればよろしい。輸出をして量産が進めば調達、維持費もさがります。ところが輸出をして売上を拡大して事業を安定化、拡大化しようという企業がほとんどありません。

安倍政権のやっていることはC-2やUS-2を売るとか夢物語を語るだけで、防衛産業政策なしで、米国に貢ぐために、国内調達の予算だけを減らしています。

安倍政権は単に国内防衛産業を潰すだけでしょう。これを自称愛国者とか保守の人たちが両手を挙げて礼賛する安倍政権の所業なんですが、それでも安倍政権を礼賛する不思議。

ぼくが性能やコストの適正化を主張すると非難する人たちが安倍政権を支持するのは不思議というか、喜劇的というほかはありません。

「あたご」「あしがら」の2隻は新型の迎撃ミサイル「SM3ブロック2A」を運用するように改装され、7隻目のイージス艦「まや」は今年7月30日進水、2020年に就役予定だ。その2番艦は2021年に就役し、8隻態勢が完成する。

防衛白書の解説ではイージス艦が近く8隻になりつつあることに言及せず「現在では苦しいから陸上イージスが必要」と主張するのは、いかにも作為的で、防衛省の信用を失墜させる。

一般の人々の防衛に関する知識の不足に乗じたこうしたまやかし説明が、陸上イージス配備予定地の地方自治体への回答書にも記載されている。これは公文書を尊重しない風潮の拡がりを示している。

新型の迎撃ミサイルの射高は1000km超だから、ハワイ、グアムへ向かう北朝鮮の弾道ミサイルが加速を終え、惰力で放物線を描いて上昇中のところを迎撃することが可能だ。そのために米国にとっては真正面から迎撃できる秋田と山口は理想的な配備地点だ。

防衛省は地元住民に「Sバンド(波長7.5ないし15cmのマイクロ波)は無線LANも使っていて危険はない」と説明した。だがSバンドは電子レンジにも使われ、人体にも浸透して熱を出す。

無線LANの出力は10ミリワット(1ワットの100分の1)だが、探知距離500kmのイージス艦のレーダーの最大出力は400万ワットで4億倍だ。800ワットの電子レンジの5000倍に当たる。陸上イージスのレーダーの探知距離は1000km以上だから、さらに強い電波を出す。

これを「無線LANと同じ」と言って住民を安心させるのは「ワニとトカゲは同じ爬虫類。危険はない」と説くようなものだ。

イージス艦の乗組員300人のうち艦を動かす要員が約200人だから、「イージスシステムを陸上に置けば人件費が節約できる」との説も以前聞いたが、その分、警備兵が必要だから結局は帳消しになる。

イージス艦が8隻になれば、陸上イージスは日本防衛に不可欠ではなく、むしろハワイ、グアムの防衛に大きな効果があるから、少なくとも半額は米国が出すように求めるべきだろう。

だがひたすら「アメリカ第一」のトランプ氏に取り入ろうと努める日本政府にはそんな「畏れ多い」ことを言う度胸はなく、自国民をたぶらかしても、日本を米国の盾にしようとしているようだ。

まあ、無害ならなんで海自のイージス艦がレーダーに火を入れるは50海里も陸地から離れてからなの?てな、話です。

まともにその装備の運用性、我が国の環境、将来性、他の予算をどの程度圧迫するのか、など様々なことを事前に調査、研究する必要がありますが、官邸の腰巾着だかNSCに吹き込まれたのか知りませんが、見識もなく、名誉欲、権力欲だけを欲する「最高指揮官」が自衛隊に押し付けるのはやめて欲しいものです。

まるで国民と全欧州を巻き込んだ戦争を起こして、最後は身勝手にも自殺したちょび髭のおっさんと同じです。
巻き添えにされる国民こそいい迷惑です。

多くの国民がアベノミクスという詐術にひっかかって「強い指導者」とこの人物を支持しているのはまるでワイマール時代のドイツを彷彿させます。あのおっさんも、そういうば選挙で選ばれたんでしったけ。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2018年9月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。