がん治療革命:治せないがんを治したい

2018年09月24日 06:00

私は「がん治療革命」を起こしたいと考え、日本に帰国した。「革新」でも「改革」でもないことに重要な意味を持っている。フランス革命、ロシア革命に代表されるような革命では、短期間で社会体制がひっくり返った。それ以前の王朝が木っ端みじんに粉砕されたのだ。産業革命では、産業の在り方が一変するような変化が起こった。

今、がん治療分野に必要なのは、緩やかな改革、つぎはぎだらけの改革(私には改悪のように見える)ではなく、科学的な治療法評価システムの転換、がん治療供給体制の抜本的な見直しだ。20世紀のがん治療は、患者さんが苦しんでも、物理的な生存期間の延長が統計学的な有意差をもって示されれば、治療薬として承認されてきた。そして、その延長線上に標準療法が確立されてきた。特に、再発がんに対しては、治癒を目的とするのではなく、わずかな生存期間の延長がゴールであった。 

免疫チェックポイント抗体やCAR-T細胞といった免疫療法の開発で、長期間のがんの進行抑制や治癒を目指すことが夢物語ではなくなってきた。このような状況下では、やはり、QALYQuality Adjusted Life years=質調整生存率)といった観点で、がん治療のあり方を根底から見直すことが必要だ。もともとは費用対効果を判定する指標として利用されていたものだが、患者さんの人生の質を判定する指標としても用いられるようになった。 

下記の図を見て欲しい。左の治療法を受けた場合、6ヶ月間は普通の生活を送り、その後の6か月間に徐々に悪化して、12ヶ月で亡くなるとする。QALY=1(質が1)X6(か月)+1X6÷29.0となる。右の治療法を受けた場合、副作用で生活の質は8か月間0.7となり、その後の6か月間で徐々に悪くなり、14ヶ月で亡くなると仮定する。QALY=0.7X80.7X6÷27.7となる。1000人ずつの治療群を比較すると、今の基準では、右の治療法の方が2ヶ月間生存期間が長いので(現在の基準では長さだけが指標なので)優れていると評価され、標準療法となっていく。

 副作用で6か月間苦しんでも、2か月間生存期間が長ければいいという判断基準が果たして絶対的に正しいのかどうか、私は疑問だ。人間としてどう生きるのが人間らしい生き方であるのか、それを患者さん自身が選択できるようにならないのかと思う。このブログでも述べているが、この国では、標準療法を受けないという判断には、保険診療医療機関で治療を受けることを拒否される覚悟が必要だ。標準療法という名のベルトコンベアー式の医療供給体制が絶対的に正しいと信じられている。がん治療分野に必要なのは、改革でも、革新でもなく、革命的な発想転換だ。 

こんなことを思っていると、「中村祐輔が土曜日の学会で切れた」という噂が一気に広がっていると心配した友人が電話をしてきた。怒りがこみ上げたのは事実だ。「ネオアンチゲンは効かないように思う」とエビデンスも示さず、読書感想のような質問で自分の利権を守るようなコメントをした研究者に対してだ。

免疫チェックポイント抗体が効いているのは、遺伝子変異を持つネオアンチゲンが抗原として働いていることを裏付けるエビデンスが多数示されている。ミスマッチ修復遺伝子異常を持つがん(遺伝子異常が生み出すネオアンチゲンが多いがん)では免疫チェックポイント抗体の有効率が60%程度だ。ローゼンバーク博士が報告した、「がん組織から取り出したリンパ球を増やして、治療に利用した方法」を応用して完全にがんが消えた患者では、リンパ球がネオアンチゲンを標的としていたことが示されている。ネオアンチゲンの重要性は根拠のない感想ではなく、科学的な事実なのだ。

私は治せないがんを治したい。そのための革命を起こしたいと改めて心に誓った。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2018年9月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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中村 祐輔
医学者、内閣府SIPディレクター

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