大衆は何を思い内閣を支持・不支持するのか

2018年09月28日 11:30

首相を事実上決める自民党総裁選で石破茂候補は自らを「正直・公正」と評価し、これをスローガンにして選挙に臨みました。これは、自らの【人格 personality】を【偶像化 idolization】し、有権者に対する【対人魅力 interpersonal attraction】を向上させる戦略であったといえます。

この「正直・公正」は野党とマスメディアが安倍総理を攻撃する際の「不正直」「不公正」の対義語であり、安倍総理の【人格】を【悪魔化 demonization】し、有権者に対する【対人魅力】を低下させる戦略でもあったと考えられます。

この記事では、このような政治家の【人格】に対する評価が、実際に大衆による支持や不支持に結び付くのかということについて、実際の世論調査のデータを基に考えてみたいと思います。

対象データ

今回の分析に用いるデータは、毎月実施されている[ANN世論調査]の結果です。この世論調査では、「内閣支持率」「内閣不支持率」の調査に加えて、「支持する理由」「支持しない理由」が次のように対称的に設定されています。

■支持する理由
・安倍総理の人柄が信頼できるから
・支持する政党の内閣だから
・政策に期待が持てるから
・大臣の顔ぶれが良いから
・他の内閣より良さそうだから
・その他
・わからない、答えない

■支持しない理由
・安倍総理の人柄が信頼できないから
・支持する政党の内閣でないから
・政策に期待が持てないから
・大臣の顔ぶれが良くないから
・他の内閣の方が良さそうだから
・その他
・わからない、答えない

すなわち、支持・不支持の理由として、(1)総理の人柄、(2)政党、(3)政策、(4)大臣顔ぶれ、(5)他との比較、(6)その他、(7)不明・無回答という各カテゴリーに対する賛否を割り当てているのです。

2017年9月にこの質問方式がANN世論調査に採用されて丸1年、13個のデータが得られています。この間、支持率は安倍政権になって最低の29.0%を記録、不支持率は最大の55.2%を記録しています。

支持の理由

次の図表は、2017年9月~2018年9月の安倍政権の支持率と支持の理由を示したものです。

これらの図表からわかることは次の通りです。

(1) 内閣を支持する理由として「他の内閣より良さそうだから」が占める割合が多く、支持率の増減に対する寄与度も他の理由と比べて大きいと言えます。すなわち、多くの大衆は、他の内閣との比較を判断基準としているということです。これは選択肢が有限な中での意思決定の方法として合理的な判断であると言えます。なお、後述する不支持率の理由として「他の内閣の方が良さそうだから」に顕著な時間変動が認められないことから、基本的に「他の内閣」とは、野党の内閣ではなく自民党の他の内閣であると考えられます。

(2) 支持率との【単相関 correlation coefficient】が「他の内閣より良さそうだから」と同程度に高い「支持する政党の内閣だから」「政策に期待が持てるから」もそれぞれ支持率の増減に寄与しています(ちなみに【主成分分析 PCA analysis】の結果からも同一の結論が得られます)。「支持する政党の内閣だから」というのは「自民党の政策を支持する」と言い換えることができ、「政策に期待が持てるから」というのは「安倍総理の政策を支持する」と言い換えることができるかと思います。いずれも政策に基づく意思決定であり、合理的な判断であると考えられます。この2つのカテゴリーを足せば、「他の内閣より良さそうだから」と同程度の寄与度になります。

(3) 「安倍総理の人柄が信頼できるから」も支持率との単相関が高いのですが、全体に占める割合が低いため、その寄与度は限定的です。私は個人的に安倍総理の人柄が大好きですが、このことが支持の理由になることは合理的ではないと考えます。あくまでも成熟した民主主義国では政策の比較によって内閣の支持・不支持の意思決定がなされるべきと考えます。

(4) 「大臣の顔ぶれ」は支持率に占める割合が極めて低いと言えます。すなわち、大衆にとって「大臣の顔ぶれ」は、内閣を支持する大きな理由にはなっていません。

「他の内閣より良さそうだから」「支持する政党の内閣だから」「政策に期待が持てるから」という内閣の比較や政策の評価に関わる理由が、支持を判断する理由の大半を占めていることは、まさに健全であると言えます。しかしながら、国民が内閣の比較や政策の評価にあたって公正な判断を行えるような情報を得られているかについては大いに疑問です。マスメディアの「報道しない自由」と「報道する自由」によって、圧倒的に政権の主張が封殺されて野党の主張が大々的に取り上げられている【報道実態 coverage】を考えれば、内閣支持率には絶対的な数値としての価値はなく、【指標 index】に過ぎないと考えられます。

不支持の理由

次の図表は、2017年9月~2018年9月の安倍政権の不支持率と不支持の理由を示したものです。

これらの図表からわかることは次の通りです。

(1) 内閣を不支持する理由として「安倍総理の人柄が信頼できないから」が占める割合が多く、不支持率の増減に対する寄与度も他の理由と比べて極めて大きい(単相関:0.93)と言えます。すなわち、この理由に起因する変動自体が不支持率の変動を大きく支配していると考えられます。これは、本来政策によって判断すべき政治選択に関する意思決定の方法として極めて不健全な判断であると考えます。

(2) 「大臣の顔ぶれが良くないから」も不支持率の変動に少ないながら寄与しています。これは、スキャンダルを起こした省庁の担当大臣がマスメディアに問題視されることに起因しているものと考えられます。

(3) 「支持する政党の内閣でないから」「政策に期待が持てないから」「他の内閣の方が良さそうだから」といった政治選択にあたっての本来の理由となるべきカテゴリーは、合計すると20%程度になりますが、期間を通してほとんど変動していません。これはまさに反自民の岩盤層と言えるかと思います。

「安倍総理の人柄が信頼できないから」という【人格】の評価が内閣不支持率の変動を支配している現状はまさに幼稚な状況であると考えます。このような状況において、野党やマスメディアが安倍総理の【人格攻撃 ad hominem】を行い、「アベ政治を許さない」なるスローガンの下で情報弱者を取り込むのは戦略的には正解です。しかしながら、政策の議論に対する不合理な反応は、政策決定プロセスを非効率化させ、成熟した公正な社会を築く上で大きな歪となります。このような人の好き嫌いで政治が評価される社会は極めて不健全です。

そもそも政治家の【人格】は悪意あるメディアによっていくらでも印象操作することが可能であり、実際この期間に散々世間を騒がせた「モリカケ報道」は誤謬に基づく【人格攻撃】の宝庫であったと言えます。その意味でもメディアに対する【リテラシー literacy】を向上させることが日本国民にとって大きな課題であると考えます。

エピローグ

自民党総裁選において石破茂氏がそこそこの数の党員票を獲得した要因として、長期間にわたってせっせと地方を回って選挙活動をしていたことが大きいと考えられますが、それと同時に、本稿で示したような世論の形成メカニズムを巧みに利用したことも一つの要因と考えられます。

石破氏は、野党やマスメディアの論調と同じように安倍氏を【人格攻撃】することで「安倍総理の人柄」を判断基準とする安倍不支持層を確実に取り込み、【幻想 illusion】に過ぎない無党派層やマスメディアからの人気を利用することで「他の内閣との比較」を判断基準とする安倍消極的支持層を取り込んだものと考えます。具体的政策を示すことがなかった石破氏にそこそこ票が入った理由はここにあると考えます。いずれにしても石破氏による安倍氏への【人格攻撃】に明け暮れた総裁選は自民党に不利益を与えたことは言うまでもありません。

石破氏はこれからもマスメディアと組んで政権批判を続けるものと考えられます。野党の力の無さを見切っているマスメディアによる最近の政権批判の決まり文句は「与党内からも批判が出ている」であり、「国民のみを恐れる」という【ポピュリズム populism】丸出しのスローガンの下に石破氏が自分にもマスメディアにも好都合な批判をマスメディアに提供し続けることは目に見えています。石破氏が敵を造って大衆の味方(敵の敵)を演じる【ポピュリスト populist】であることは今回の自民党総裁選で証明されたものと考えます。

「セクハラ」と「パワハラ」野党と「モラハラ」メディア
藤原 かずえ
ワニブックス
2018-09-27

編集部より:この記事は「マスメディア報道のメソドロジー」2018年9月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はマスメディア報道のメソドロジーをご覧ください。

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