チャレンジしない・できない日本

9月27日、JAMA Oncology誌のオンライン版で「Combining Immune Checkpoint Blockade and Tumor-Specific Vaccine for Patients With Incurable Human Papillomavirus 16–Related Cancer: A Phase 2 Clinical Trial」というタイトルの論文が公表された。パピローマウイルスワクチン+免疫チェックポイント抗体の併用療法の結果である。

ヒトパピローマウイルスは子宮頸がんを引き起こすことが知られており、日本を除く先進国では、がん予防のためにウイルスワクチンの投与が積極的に行われている。日本で子宮頸がんワクチンが進まない理由に関しては、これまでにも触れてきたので、ここでは説明しないが、子宮頸がんに加え、頭頚部がん、特に、中咽頭部のがんへの関与も明らかにされ、女性だけでなく、男性へのワクチン投与も広がってきているのが実情だ。

この論文では、パピローマウイルス16型(この型が発がん性が高い。このほかにも18型などがよく知られている)の感染が認められる22名の中咽頭部がんと2名の肛門部がんに対して、このウイルス型に対応するペプチドワクチンと免疫チェックポイント抗体の併用を行ったものである。

結果は24名中、腫瘍縮小効果が8名(うち、完全に消えた患者が2名)、全生存期間の中央値は17.5か月であった。長期間にわたって、がんが増大しなかった症例3名を加えると、病気をコントロールできた割合は約半数となる。症例数は少ないので参考程度だが、抗がん剤が無効となった症例17名中では6名に腫瘍縮小効果、EGFR抗体が効かなくなった8名では5名に腫瘍縮小効果があった。この試験はコントロール群はないので、免疫チェックポイント抗体単独治療に比べて優位であると判断するのは難しいが、同じような条件の患者さんに対する免疫チェックポイント抗体治療の効果に比べて高いので、期待できると結論付けられていた。

この試験は2015年12月に開始されている。少し頭が働けば、このようなアプローチは自然な流れだし、それを実行できる予算があれば、誰でもチャレンジできる話だ。しかし、古ぼけた基準のエビデンスを馬鹿の一つ覚えのように唱え、外国追従を恥とも思わない臨床試験屋が牛耳っている日本の制度では、簡単なチャレンジさせできないのだ。

有明から、がん難民の希望を生み出したい。しかし、国の補助金が限られているがん研有明病院でこのようなチャレンジをするには、篤志家からの寄付金に頼らざるを得ない。免疫療法基金、がんプレシジョン医療基金のための支援を是非お願いしたい。

(追伸)昨日で総アクセス件数が350万件を超えた(※編集部注 転載元の中村氏のブログ)。5か月半で約50万件のアクセス増なので、最近は1か月約10万アクセスだ。このブログが単なる愚痴に終わることなく、がん治療革命の導火線となることを願っている。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2018年10月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。