ルーマニア国民投票の無効を検証

2018年10月10日 11:30

ルーマニアで6日と7日の両日、夫婦の定義を「男性と女性の間」とする憲法改正案の是非を問う国民投票が実施されたが、国民投票が有効となる投票率30%に達成すぜに、投票は無効となった。

国民投票に投票するダンチラ首相(2018年10月6日、ルーマニア政府公式YouTubeから)

ブカレストからの情報によると、投票率は約20.4%と有権者の5人に1人しか投票場に行かなかった。国民投票が有効となる30%の投票率まで届かなかった。世論調査では国民の90%以上が憲法改正案を支持していただけに、国民投票の低投票率は予想外だった。

ルーマニア憲法48条第1項では、夫婦とは「自由意志で同意した配偶者の婚姻に基づく」と記述されている。その定義を「男性と女性の間の結婚」と厳密に定義することを要求し、ルーマニア正教や市民団体は国民投票の実施のために300万人の署名を集めた(ルーマニアの人口約1900万人)。それを受け、ルーマニア上院(定数136)は家庭の定義の変更を明記した憲法改正案の是非を問う国民投票の実施を賛成多数で可決した経緯がある。

ルーマニアではこれまで同性婚も同性間の登録パートナーシップも認められていない。性的少数派(LGBT)は、「国民投票で夫婦の定義の変更を明記した憲法改正案が認められたならば、わが国では今後、同性婚は永遠に認められなくなる」という危機感から、国民に国民投票のボイコットを呼びかけていた。

アムネスティ・インターナショナル(AI)や性的少数派支持グループ「国際レズビアン・ゲイ協会」(ILGA)は「法の下ですべての人は人権そして同等の保護を保障されている。憲法が改正されれば、同性愛への嫌悪を助長し、欧州法や国際法に違反し、人権での後退を余儀なくされる。また、婚姻関係に基づかない家族にとって、深刻な影響をもたらす」と警告を発し、投票ボイコット・キャンペーンを展開させた。

国民投票の実施に反対してきた野党からは、「ファンタジーのために国民投票を実施し、公費4000万ユーロを浪費した」と批判し、国民投票実施を支持した与党・社会民主党(PSD)政権の辞任を要求。「国民投票は腐敗している現政権への批判をかわすための余興だ」(BBC)と批判する声も聞かれたという(「ブカレストで大規模な反政府デモ」2018年8月13日参考)。

国民投票前、47人の欧州議会議員がダンチラ首相宛てに書簡を繰り、憲法改正による家庭の再定義は全ての家庭の子供たちを潜在的に傷つけると警告を発している。

ちなみに、ルーマニアの同性愛男性は、ベルギーに住むパートナーの米国男性がルーマニアに移住するために配偶者ビザを申請したがルーマニア憲法裁判所から拒否されたため、欧州司法裁判所(ECJ)に訴え、今年6月、性差に関係なく、居住権はあるという判断を受けている。

いずれにしても、ルーマニアでは同性婚は公認されないから、国民投票の無効後も性的少数派を取り巻く状況に変化はない。

最後に、ルーマニアの国民投票が低投票率に終わった原因をまとめると以下の3点だ。

①憲法改正賛成派は「賛成派が勝利する」と過信し、投票を呼び掛ける運動が不足した。
②憲法改正案に危機感を感じたLGBTグループは欧州連合(EU)やAIなどを総動員し、投票ボイコットを展開。
③腐敗問題に包まれたダンチラ政権に対する国民の不信は強く、政権主導の国民投票に有権者は関心を示さなかった。

3点の中で主因はやはり③だろう。国民投票実施の背景は、欧州全土を席捲してきたLGBT運動に脅威を感じたルーマニア正教を中心とした国民の「男性と女性からなる伝統的な家庭」を死守する運動だったが、国民を啓蒙すべきPSD政権の政治的腐敗がネックとなって、国民投票は低投票率に終わった。

ルーマニア国民の約85%は正教徒だが、彼らの多くも国民投票を棄権したことになる。それはLGBTを支持するからというより、現政府への反対票と受け止めるべきだろう。実際に投票した有権者の約91%は賛成票だったのだ。ルーマニアにとって、腐敗対策、政治の刷新が急務となる。

欧州連合(EU)の同性婚の現状

①同性婚を認めている国
ベルギー、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、アイルランド、ルクセンブルク、オランダ、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、英国(北アイルランドを除く),マルタ

②登録されたパートナーシップ(同性婚とほぼ同権)
オーストリア、クロアチア、キプロス、ギリシャ、ハンガリー、イタリア、スロベニア

③登録されたパートナーシップ(権利は制限)
チェコ、エストニア

④合法的制度がない国
ブルガリア、ラトビア、リトアニア、ポーランド、ルーマニア、スロバキア

(出所・ILGAヨーロッパ)


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年10月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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